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「表現で受けて立つ」、卒業生でマンガ家のヨンチャンさんに聞きました。

こんにちは。
広報グループのUです。

3月5日(金)、学生相談室主催のオンライン講演会が開催されました。
今日はその講演についてご紹介したいと思います。

いつもより少し文章が長いですが、いま孤独に闘っている人、悩みや不安を抱えている人、自分の想いを表現したいと考えている人に、読んでもらえたら嬉しいです。

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『リエゾン —こどものこころ診療所— 』作者にきく
凸凹を抱えて生きることを「 表現 」する

ゲストはマンガ学部ストーリーマンガコース卒業生のヨンチャンさん。
現在「モーニング(講談社)」で週刊連載中のマンガ『リエゾン-こどものこころ診療所-』(以下リエゾン)の作画担当を務めるマンガ家です。原稿執筆の合間をぬって、この講演を引き受けてくださいました。聞き手は、学生相談室の教員で臨床心理士の山本先生です。

『リエゾン』の制作背景を伺いつつ、ヨンチャンさんの体験や表現に対する考えを、じっくりお話しいただきました。

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写真右がヨンチャンさん

講演の前に、学生相談室の山本先生から『リエゾン』の紹介がありました。
作品の舞台は児童精神科の医療現場。子どもの発達障害や心のトラブルの件数は近年増加し続けていますが、その治療にあたる児童精神科医として、日本で認定されている医師の数は400名程度。かなり少ないのが現状です。
『リエゾン』はそのような状況を、緻密な調査をもとにリアルに描かれていると、医療や臨床のプロからも高い評価を受けているマンガです。

実はもともと読み切り企画だったという『リエゾン』。物語が生まれるまでにかかった時間は半年以上。長い道のりでした。
精神科診療の現場や、児童自立支援施設への取材を重ね、キャラクターやネームを何度も作り直したヨンチャンさん。その努力が認められ、読み切り予定が連載に変更となって、ようやくスタートを切れたとのこと。
現在は、ヨンチャンさんと原作者の竹村優作さん、編集者2名、監修の精神科医2名の6人のチームで制作しています。

「障害」や「虐待」をテーマにしたこの作品。描き方によっては誤解を招いたり、誰かを傷つけたりしてしまう、とても難しいテーマです。
ヨンチャンさんは、なんと「学童保育(アフタースクール)」でアルバイトをして、子どもたちの理解に努めました。「大人が描く子供像の固定観念にとらわれず、本当の子どもたちを知りたいと思ったんです」、そう語るヨンチャンさんの「人間を描くこと」に対する誠実な向き合い方に、ただただ感動です…。

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ヨンチャンさんの人柄に触れたので、少し脱線して、その経歴をご紹介します。
子どもの頃からマンガを描くのが好きだったヨンチャンさん。
憧れだったという精華のマンガ学部に入学するため、日本語を一から身につけました。学生時代はアメフト部の活動に励んだり、寮の庭でサルと柿の実を奪い合ったり(?)、アメリカに交換留学をしたりと、楽しい日々を過ごしたそう。

日本でマンガ家になりたい!という夢に向かって、マンガ制作の努力も惜しまず、在学中から賞への応募や、編集部への持ち込みを何度も行いました。卒業してすぐに大賞を受賞。連載が決まります。

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ヨンチャンさんも学んだストーリマンガコースの大教室

努力して夢を実現してきたヨンチャンさん。でも、これまでの人生がすべて順風満帆だったわけではない、と語ります。
子どもの頃の辛い体験、その時に目にした景色や匂い、温度、母国の過酷な受験戦争やマンガ制作の孤独な作業時間…痛みや悲しみの記憶は鮮明に身体に残っていて、『リエゾン』の制作過程では、追体験するような感覚もあったそう。

「辛い思いを一度もしなかった人生なんてないんですよね」と相槌をうつ学生相談室の山本先生に、ヨンチャンさんは強く頷き、「表現することで、(痛みに)受けて立ちます」ときっぱり。

「表現で受けて立つ」。
壁に貼ってお守りにしたくなるくらい、力強く、励まされる言葉です。

今まさにつらい思いを抱えている人、悲しい気持ちの真っ只中にいる人は、なかなかそこまで思えないかもしれません。でも乗り越えたときにはその痛みが表現の糧になり、誰かを救う力になるのだなと、しみじみ感じたお話でした。
※今つらくて仕方がないという人は、無理をせずにゆっくり寝ましょう。在学生は「学生相談室」に相談もできます。

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講演後、視聴者からはたくさんの質問が。
「ヨンチャンさんの野望はなんですか?」という質問には、「みんなの心に残るような作品を描き続けていきたい」と回答。
ヨンチャンさんがめざすのは、知識や情報を伝達するだけでなく、感覚や感情に届ける表現。「良い作品は自分が経験したかのように、読者の思い出として残っていく。そんな作品を作りたい」と語られていました。

1時間半の講演があっという間に感じる、濃いお話をたくさん聞かせていただきました。ヨンチャンさん、本当にありがとうございました。

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ちなみに、週刊連載はとにかく多忙で、毎日12時間くらい描いているそう。講演が始まる前、10分くらいの空き時間にも作画作業に戻られていました。

『リエゾン-こどものこころ診療所-』の第1話・第2話は現在無料公開中。ぜひぜひ読んでみてください。

書籍情報:
『リエゾン ーこどものこころ診療所ー(1)』
著:ヨンチャン 原作:竹村 優作
講談社