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4. fieldアイリッシュセッションの始まり Part4

 現在、Irish PUB fieldは休業を余儀なくされていますが、そんな折り、2000年のパブ創業以来の様々な資料に触れる機会がありました。そこで、2001~11年ごろにfield オーナー洲崎一彦が、ライターのおおしまゆたか氏と共に編集発行していた月刊メールマガジン、「クラン・コラCran Coille:アイルランド音楽の森」に寄稿していた記事を発掘しました。

 そして、このほぼ10年分に渡る記事より私が特に面白いと思ったものを選抜し、紹介して行くシリーズをこのnote上で始めることにしました。特に若い世代の皆様には意外な事実が満載でお楽しみいただけることと思います。

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 前回のPart3では、fieldは喫茶店からアイリッシュパブへ。洲崎は「個人的な」悩みを抱えながらも、本格的にアイリッシュセッションも始まります。今回はそんなセッションの中の一幕をご紹介します──。(Irish PUB field 店長 佐藤)」

↓前回、Part 3は、こちら↓

fieldどたばたセッションの現場から 4(2001年10月)

 さて、前回までは、fieldのセッションがいかにして生まれたか、をお話さ せていただいたわけだが、今回はこの夏8月25日のセッションの様子を実況中継してみよう。  

 fieldのセッションは完全なオープンセッションなので、いつも必ず決まっ たメンバーが集まるとは限らないし、誰が参加するのも自由だ。セッション日のセッション開始時間にならないと誰がやって来るかわからないのだ。セッションに対するワタシの立場は微妙なので、また、セッションを聴くのを楽しみにおいで下さるお客様もおられるわけだから、これは毎回もの凄い緊張感ですよ!

 もし、誰ひとり来なかったらどうしよう!「今夜はミュージシャンがひと りも来ないのでセッションはお休みです」なんて言っても、「お前ひとりで何かやれ!」って言われたらどうしよう!とかいろいろ想像して毎回胃が痛くなる。このへんは実に微妙。

 パブのおやじとしてはですね。 楽しみにおいでいただいたお客様に対しては是非ともセッションはしたい。でも、元々自分の楽しみで始めたセッションだから、ミュージシャンが来ない夜は、それはそれでいい。別に無理矢理やるもんじゃない。というような部分で大葛藤するわけです。  

 今日は土曜日なのでセッションは8時から。(佐藤・注:現在のfieldレギュラーセッションは毎週火曜・土曜 21:00〜23:00)んんん。時計はもう8時なのに誰もやってこないぞ‥‥。セッションをやる席はあらかじめ「予約席」扱いにしているが、セッションが始まっていないのに、お客さんがけっこう入ってしまった。このままセッション席を空けておくのは不自然な光景やなあ。マズイな。 ちょっとワタシは事務室にでも隠れておこう。

 事務室で仕事してるふりをしていると、スタッフが駆け込んでくる。

「お客様に、セッションは何時からか、と尋ねられましたが・・・!」

「え?何が?」

「今日のセッションは何時からですか、って」

「ああ、セッションやね。わかった 、わかった」

「それで・・何時からですか?」

「ああ、もう少し、あと10分ぐらいかな?ね?」

「‥‥‥」

「わかったわかった。10分後10分後」

  などと口走ってしまったぞ。客席に出ていくと、おお!セッション席に誰か座っているではないか。彼こそはわがfieldアイルランド音楽研究会(fieldアイ 研)が主催しているウイッスル教室の先生役(?)の金子鉄心オヤジだ。

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↑ティンホイッスルからイーリアンパイプス、サックスまで、元「おかげさまブラザーズ」のメンバーでもある金子鉄心氏。

 さっきまでカウンターでギネスをあおっていたのだが、見るに見かねてセッション席に移動してくれた様子。よし!彼の心意気に応えずして男と言えるか!とばかり、ワタシもセッション席へ行く。いつもカウンターの端っこに置いてある自分のブズーキを抱えると、鉄心オヤジはトロンとした目をしてこちらを見た。

「‥‥演奏‥‥するんですか?」

「え?しないの?」

「いや、スザキさんがおられないから、セッションないのかなと思って。今ちょうど電話があって、これから神戸に行く予定をいれちゃいました」。

 あらららら、である。

「じゃあ、 まあ2~3曲だけでもちょっとだけ演奏してから‥‥それから出ても、駅は近いし大丈夫、大丈夫!」と言いくるめて、ワタシはブズーキでジャラ~ン、とD のコードを弾く。

 鉄心オヤジは傍らでどこかに電話しているが、どうも、つながらない様子。そしておもむろにロウ・ウイッスルを取りだして、Dのコードに合わせてリールを吹き出した。  

 鉄心入道(外見が「入道」って感じなんです)と2人きりで合わせるのも久しぶり。いい感じである。セッションは少人数では寂しいが、人数が多すぎると演奏している自分の音も聞こえなくなるし、道路いっぱいに広がって一斉にスタートする市民マラソンのような雰囲気になって、音楽を演奏しているという気分ではなくなる時がある。2~3人だとヤンヤ、ヤンヤの盛り上がりはないが、それぞれの音がよく聞こえて、緊張感を持って音楽を演奏している気分が出る。

 3曲ぐらい、しっとりと演奏し終わった頃から、鉄心入道はしきりに時計を気にし出した。そこへ、fieldアイ研「ぶちょー」が登場、彼の専門はギターなのだが、今日は何故かバンジョーも抱えてやってきた。続けて、フルー トのMとウイッスルのUがやってきた。

 最近、異常に元気なぶちょーが、バンジョーで次々にチューンを繰り出してくる。またこのバンジョー(4 弦のテナーバンジョー)の音というのがデカイのだ。いやがおうにも他のメンバーも引きずられる。  

 気が付くと、鉄心入道はいつの間にか姿を消し、ぶちょーを中心に演奏も佳境。ワタシは店表の仕事でしばしセッション席を離れた。その時、どこからか 「ゴォ!」という低い音の後ドスンと上下に1回来て、あとはゆっくり横にゆらゆら揺れた。

 モノが倒れるほどではないが、この京都の地震で地鳴りが聞こえたなんてワタシの記憶では初めてだ。店内はお客様でごったがえしていて、 今まさにドアを開けて入店しようとしている車椅子のお客様をみつけ、ワタシ はとっさに玄関口へ駆けつける。  

 しばらく、店内は騒然としたが、3~4人がNHKに切り替えられたTVの前に集まっただけで、すぐに平静を取り戻した。TVの画面 では歌って踊る「モーニング娘。」をバックに臨時速報のテロップが流れ、京都市内北部震源、震度4の地震を報じた。

 ワタシは、「そうだ、セッション中だったんだ!」と思い出し、 セッション席に目をやる。そういえば、ずっと流れていた音楽はCDじゃなかったことに気が付く。

 地震に気が付かなかったのか?気が付いても演奏が止められなかったのか?とにかく、この間、セッションは一瞬たりとも止まらずに続いていたのだった。

 恐るべし、ぶちょー。 (以下次号)

<洲崎一彦:京都のIrish PUB field のおやじ>

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