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〈きょうとシネマクラブ〉特集「女性と映画」Talk Event REPORTS『青春がいっぱい』

〈きょうとシネマクラブ〉第一弾として、2023年12月~2024年3月に行われた特集「女性と映画」。上映に合わせて行われたトークの記録を連載します。


上映作品『青春がいっぱい』(アイダ・ルピノ監督|1966)
2024.1.6(土)|京都シネマ
トーク:児玉美月さん(映画文筆家) × 降矢 聡さん(Gucchi’s Free School)


米映画を切り開いた女性映画監督の先駆けアイダ・ルピノの監督遺作!全寮制女子校の厳格な生活に反発し、イタズラばかりを繰り広げるトラブルメイカーのメアリーとレイチェルに振り回される修道女たちの毎日を描いた、心あたたまる女の子たちの青春コメディです。このトークイベントには、映画文筆家として活躍されている児玉美月さんと、聞き手に共同主催のGucchi’s Free School・降矢聡さんをお迎えしました。児玉さんの書く映画批評は、社会によって隠されたものを丁寧に解きほぐし、社会をまなざすための新しい方法を教えてくれもするし、ときにずっと心にしまっておこうとお守りを贈られたかのように思える映画批評を書く方です。ルピノ監督の『青春がいっぱい』は、あっけらかんとしていながら、とても切実に少女たち(とかつて少女であった人たち)の痛みの時期を映しとっている作品で、児玉さんだったら、この映画をどう観るんだろうと思ったことがトークにお誘いした理由のひとつでした。

このトークでは、【アイダ・ルピノ監督のこと】【『青春がいっぱい』の魅力/変奏】【「女性映画」へのまなざし】についてお送りします。ぜひお楽しみください!
※映画のラストにも触れています。お読みの際はご注意ください。

+++————『青春がいっぱい』あらすじ————+++
孤児のメアリーは、裕福な叔父によってカトリックの全寮制女子校セント・フランシス・アカデミーに送られる。入学初日に出会ったレイチェルと意気投合し、行動を共にするようになるが、ふたりはトラブルメイカーとして、修道女たちを振り回すのだった。修道院長から叱られてばかりの毎日だったが、メアリーは次第に修道女たちの姿に心を動かされていき…。

https://kyoto-cinemaclub.com/

◎梅本健司さん(Nobody編集部)による映画批評はこちらから読めます。
◎児玉美月さん『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』(北村匡平さんとの共著)はこちらから



1. はじめに ~アイダ・ルピノ監督って誰?~

【児玉】映画文筆家の児玉美月と申します。昨年『彼女たちのまなざし』という日本映画の女性作家たちの本を上梓しました。年明け早々、色々なことが起きて、今日みなさんが無事にここにいらっしゃることをとても嬉しく思っています。

【降矢】映画配給や映画の上映企画などをやっていますグッチーズ・フリースクールの降矢と申します。よろしくお願いします。

【児玉】まず、アイダ・ルピノ監督をあまりよく知らない人のためにも、私のほうからプロフィールと作品の紹介をしたいと思います。
1918年イギリスで生まれたアイダ・ルピノは、お父さんがスタンリー・ルピノという舞台芸人だったこともあり、10代のころから女優として映画に出演していました。日本でもよく知られる作品としては、ラオール・ウォルシュ監督の『ハイ・シエラ』(1941)。女優として名声を博していく一方で、20代ですでに映画監督への志もメディア上で口にしています。たとえば、1940年代にイタリアのネオ・レアリズモで知られるロベルト・ロッセリーニ監督にパーティで出会った際、ロッセリーニから「ハリウッド映画っていうのは、スターが死ぬような派手な映画ばっかりで、普通の人の映画がなかなかない」っていうことをお話されたらしい。そういうこともあり、「自分はふつうの人を映画に描いていきたい」と決意したというエピソードがあります。その後、元夫のコリア―・ヤングたちといっしょに独立製作プロダクションを立ち上げて、映画を撮っていくことになるんです。

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