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卒業制作展ツアー@多摩美術大学 統合デザイン学科2022

こんにちは、美大生×官僚 共創デザインラボです。この記事では、2022年1月18日に開催された、多摩美術大学統合デザイン学科の卒業制作展についてレポートしていきます。

凛とした冷たい空気の中、晴天に恵まれた卒業制作展ツアー in 多摩美 統合デザイン学科。私たちは、数多くの個性的で素敵な作品たちに出会いました。

このnoteでは、その中でも「もっと多くの人に知ってもらいたい!」というような作品を、一部ではありますが、それぞれご本人様の許可を得てご紹介させていただきます!

赤星萌さんの作品「心地よいエラー」

1枚目

机の上には一見よくあるモノたちが整然と並べられており、なぜこんなものが展示されているのだろうと目を引かれました。そして、よく見るとそれぞれ少しずつ変なところがあることに気付きます。
それらは、作品名でもある「心地よいエラー」という言葉を起点に無駄とも言える機能を持ったモノでした。現代の合理化が強く求められる社会に対して、不合理な存在である「エラー」がもたらす価値について投げかけています。それぞれには名前以外の情報はなく、その解釈は見る人に委ねられていました。

たとえば、0.5のあるトランプは0.5というエラーがあることで普通のトランプのゲームをするのは難しいです。しかし、全く新しいゲームが生まれる可能性を感じさせられます。0.5のカードなんて無駄だと切り捨ててしまうか、使ってみようと考え始めるかによって全く違う未来があると思いませんか。
カードの他にもグレーの駒があるチェスや底の傾いた茶碗、生きていればOKと出る体温計、3年かけて現像するノンインスタントカメラ、太陽光の下でしか使えないライトなど、多様で魅力的なエラーが並んでいました。生きていればOKと出る体温計は、ただ数値が出るより元気づけられるかもしれない。ノンインスタントカメラは3年という月日がその写真をより特別なものにし、タイムカプセルのように楽しめるかもしれない。この作品を通して、私達は不合理な世界にももっと価値を見出せるのではないかと考えさせられました。(美大生メンバー 道 日向子)

兵藤茜さんの作品「KAOKAO」

多摩美卒展2

レイアウトの美しさに惹かれ、私はこの作品の前に立ちました。見てみると題名通りの「KAOKAO」!あらゆるものに顔を描いたというこのイラストレーションに、私の心はすっかり奪われてしまいました。こちらに微笑みかける顔、口を真一文字に結び外方を向く顔、眉をひそめる顔、引き締まった凛々しい顔…あらゆる「顔」が紙面いっぱいに描かれています。ひとつひとつの「顔」を見ていると、その「もの」たちの声が聞こえてきそうで、思わず耳を澄ましてしまいました。

「SUSHI」の中にいる、口が半開きで放心したような顔の「TAKO」。今までいた海の中に想いを馳せているようで、考え事をしている時の私と同じ表情をしているかもしれません。この「TAKO」にシンパシーを感じ、「もの」たちも人間と同じような感情を持っているのかもしれないと思いました。

この作品は私に癒しを与えてくれたと同時に、人間が中心であるという世界観を覆してくれた作品でもありました。もしかして普段使う「もの」も、私たちのような喜怒哀楽など、あらゆる感情を持って生活しているかもしれません。「もの」に顔を描くという一見単純な表現のように感じますが、「顔」の存在が「もの」の個性を引き立たせており、改めて「顔」がアイデンティティのひとつであることを認識しました。あらゆるものに顔を描くという行為が、人間以外のキャラクターにも命を吹き込むアニメの起源のように感じます。「顔」があることで、その「もの」ひとつひとつに物語を感じるとともに、自分の「もの」に対する接し方を考えさせられた作品でした。(美大生メンバー 太田原 笙子)

加藤百華さんの作品「pare」

多摩美卒展3

展示室の入り口を入ると、まず目についたのがカラフルなクレヨンのような作品でした。クレヨンのようでいて、よく見ると太さも違うし物によってはラメも入っている。これは蝋引き紙を使用した新しい化粧品というコンセプトで作られた、パッケージを少しずつ剥がして使うスティック状の化粧品でした。従来の化粧品は様々な形をしているため場所を取り、持ち運びに不便なことや、容器のほとんどが分解できない素材で処分方法が難しいという問題に対する提案となっています。蝋引き紙の水と油を弾く性質を活かし、全ての形を統一することで、化粧品そのものをコンパクトで持ち運びに便利なものにし、さらに可燃ゴミで捨てることのできるパッケージにしたことで環境負荷も低減しています。

なにより見た目がとても可愛い!!細かな色の違い一つが大違いであるのが化粧品。ベースもリップも丁寧に色が作り分けられていて、どの色を見ても楽しく、試してみたいという気持ちになりました。中でもアイシャドウは深い青から柔らかいラベンダー、鮮やかな黄緑、明るい黄色、華やかなピンクがずらっとならび、その一つ一つが剥がしやすいよう切り取ったリングメモのような加工が施された蝋引き紙で包まれており、細部まで貫かれた可愛さで圧巻でした。

私自身、学生の頃に環境教育について研究をしたことがありますが、環境が大事だから守ろう、という正論だけではなかなか人は動きません。大多数の人がもう一歩動くためには、他のインセンティブをプラスするか、めんどくささや手間を感じさせないことが大事だと思っています。この作品は可愛いというだけでなく、普段感じている化粧品の持ち運びの不便さを解消し、使っているだけで無意識に環境負荷を低減しており、まさに理想のサステイナブルな作品だと感動しました。(官僚メンバー 半澤 彩)

西ノ村なごみ さんの作品「悪意」

多摩美卒展4

 多摩美上野毛校のキャンパス中央には、気持ちの良い芝生と木々に囲まれた中庭があるのですが、その中庭を望むように展示されていたのが、この作品「悪意」です。目の前に広がる美しい中庭、換気も兼ねた解放的な入口を通ってからの、このぎょっとする黒い人達。展示室に入った途端、この展示台から異様な雰囲気が醸し出されていました。

 作品キャプションを読むまでもなく、これがSNSなどのインターネットを通じて広がった、誹謗中傷を可視化した世界を創っていることは明らかでした。黒い人達がスマホ画面からぬるっと這い上がって来て、コーヒーカップの中で液体にまみれて遊んでいたり、手書きの手紙に乗り上がって皆で読んでいたり、プライベート写真を引きちぎりながら公開処刑でもしている様子で黒い人達が見物している光景が広がります。

 インターネット上で広がる誹謗中傷の拡散を、私たちはこのように俯瞰視することはできません。炎上する火種の一部に触れるくらいが、関の山です。だから立派な大人間で起こるインターネットを通じた「社会でのいじめ」に対して、自分自身が当事者ではない場合、些細なことで済まされているのかもしれません。この作品が示すおぞましさは、私たちがインターネットで起こっている誹謗中傷の実態を軽視している事への警告でもある、と受け止めました。(プロフェッショナルメンバー 田中 美帆)

岡田 璃香さんの作品「自分の認知の特性を反映させた写真作品」

多摩美卒展5-1

「相貌失認」という言葉をあなたは聞いたことがあるでしょうか?正直なところ、私はこの作品を通じて、初めてその言葉に触れることになりました。相貌失認とは、「脳損傷、とくに側頭葉に偏在する顔領域の認識機能の障害により、顔の輪郭や目・鼻・口など顔の構成要素は知覚できるが、全体としてその顔がだれの顔であるかを認識できない」状態を指す言葉です。

作品が展示された部屋に入った瞬間に壁一面に写真が展示されており、最初は街の中の何気ない一場面を写したものなのだろうぐらいの気持ちで見ていましたが、よくよく1つ1つを見ていくと、「記号がない道路標識」「文字が印刷されていないキーボード」「ダイヤル番号が消えてしまっている公衆電話」など、普段我々が見ている景色とは一風変わった写真が並んでいるのに気が付きます。この作品は作者自身が軽度の相貌失認であり、その作者が普段捉えている日常を擬似的に表したものということです。

相貌失認とは、「顔がなくなること」。まさに道路標識にとって「止まれ」や「右折禁止」といった記号は「顔」そのものであり、そこが消えることで無個性なものに感じてしまいます。相貌失認は厳密には人間の顔が対象なので、モノの特性が消えるというのはあくまでこの作品上の演出ですが、作者が普段感じている違和感を共有する手法としては非常に秀逸だと思いました。

自分達が当たり前に見ているモノにも一定のユニークネスがあり、それが失われた時の寂しさを作品を見ながら感じていました。普通では共有できない当事者が感じる課題感をデザインを通じて表現する、まさにソーシャルデザインの一例だと考えています。最近読んだ書籍に「認知症世界の歩き方」という認知症患者の方が普段見えている風景を誰もが親しみやすいトーンで書いているものがありましたが、そういった書籍とも非常に近いものを感じることのできる作品でした。(官僚メンバー 水口怜斉)

*作者・岡田さんのnoteはこちら:https://note.com/azcatokd/
*認知症世界の歩き方:https://issueplusdesign.jp/dementia_world/?openExternalBrowser=1

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お楽しみいただけましたでしょうか?
こちらでご紹介させていただいた作品以外にも、素敵な作品に溢れた多摩美術大学 統合デザイン学科、卒業制作展。

また来年も行きたいと思わせてくれる、ワクワクした時間を過ごしました。
皆様も機会があればぜひ一度、足を運んでみてください!(美大生メンバー 和田 亜佐子)

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