第19回全州国際映画祭 前夜
5月2日(水)
寝坊した。最寄り駅から羽田空港までの直行バスがあるけれど、その最寄りが遠い。街道に出てもタクシーは走ってない。トランクを引きながら小走りした。始発にも拘らず、ほぼ満席。斜め前に座る若い人の、短髪の後頭部をずっと眺めてた。きっと、整えた形を崩さないために、うしろに寄りかからない。隣のパートナーらしき人は熟睡してる。
懸念してた渋滞もなく、フライト時間の3時間前に着く。同行の『ひかりの歌』出演者の松本勝さんも間もなく到着。ふたりで煙草を吸ってると、同じく出演者の並木愛枝さんも到着。愛枝さんは徹夜作業がつづいて、今朝になって少し寝入って私以上に寝坊したらしく、お風呂に入れてないとのこと。調べたら、羽田空港の国際線ターミナルには24時間営業のシャワー室がある。別れて、勝さんとふたりで先に出国ゲートへ。お酒はずいぶん長いことやめてるけれど、買いたくなって缶ビールを2本。勝さんと乾杯した。愛枝さんもすぐに合流。シャワー室の順番待ちが多く諦めたとのこと。くさかったらごめんねと言われ、くさくないし、くさくてもだいじょうぶと伝える。飛行機で『スターウォーズ/最後のジェダイ』を鑑賞。
金浦空港に到着。飛行機を降りてから、あたらしく買ったショルダーバッグのなかにパスポートがないことに気づく。あわてて戻って入ろうとしたら止められる。キャビンアテンダントの人たちが無線で確認連絡してくれる。見つからなかったらしく、結局、自分で見にいくように言われる。座席のサイドに、パスポートだけでなく、財布とiPhoneも落ちてた。チャックの閉め方を間違えてたらしい。はずかしくて、愛枝さんと勝さんには素知らぬ顔をして合流。2週間ほど前に新宿の映画館で見た『タクシー運転手 約束は海を越えて』の終盤に登場した空港。映画のなかの空港は光州事件が起きた1980年のもの。38年も経ってるから、同じ空港に見えない。たぶん、同じ便の乗客のなかで、いちばん最後くらいに入国口を出た。私たち3人の名前を書いたボードを持った、映画祭スタッフらしきふたりの顔があかるくなるのが見えた。ひとりはジヒョンさん。もうひとりの人の名前は失念。しばらくあとで、『ひかりの歌』チームがいちばん最初の到着ゲストだったと知った。ジヒョンさんたちと一度外に出たけれど、バス乗り場の階をまちがえたらしく、中に戻って移動。ジヒョンさんは日本語もすこし話せる。記念写真を撮って、高速バスに乗車。
愛枝さんと勝さんは左側の座席。私は右側。窓の外は曇天。オープニングセレモニーがある、次の日の予報は雨。愛枝さんも勝さんも現地の天気を調べ済みで、教えてくれた。私はなにも調べてない。勝さんは撮影のときもそうだったけれど、おれは晴れ男やからだいじょうぶやでと励ましてくれる。私は雨男。助監督のときも、監督のときも、その作品で大事なシーンを撮る日に限って天気が荒れる。途中、急に強く窓を叩く音がして、見ると大雨。雨降ってきましたねと言おうとして、左側の窓を見たら乾いてる。ちょうどここが境目やんといって、勝さんが大笑いしてる。雨は一時的で、すぐにやんだ。サービスエリアで15分の休憩。日本で見るサービスエリアと雰囲気が似てる。喫煙所で煙草。バスに戻ろうとして、冷や汗をかく。どれが自分が乗ってたバスか、見た目を確認するの忘れてた。大学でコリア語を選択してたおかげで、ハングルの発音は読める。行き先に「チョンジュ」と書かれてるバスを探せばいいんだとすぐに気づいたけれど、どのバスにも「チョンジュ」と書かれてる。勘で選んで乗車したら、当たってた。勝さんと愛枝さんは、ふたりでコンビニに水を買いに行ったらしく、店員の人のコリア語に、リズムよく日本語で返してる愛枝さんの様子を勝さんがたのしそうに教えてくれる。きっと、袋はいるかと訊かれてたんじゃないかと推測。しばらく田舎道がつづき、遠くに高層マンション群が見えてくる。空港から3時間くらい。「チョンジュ」とアナウンスされた停留所で降りたら、あなたたちはここじゃないと怒られた。映画祭スタッフのふたりが、運転手の人に、あの3人をどこどこまでお願いしますと、きっと丁寧に説明してくれてた。その後、無事に到着。
バスを降りると、映画祭スタッフの青年がふたり。さわやか。2台の車に分かれてホテルへ。新車のベンツだった。私はなにも話さなかったけれど、勝さんと愛枝さんの方の車ではおしゃべりしたらしく、この映画祭にはボランティアスタッフがたくさんいて、2ヶ月前から研修して備えてきたとのこと。どうりでぜんぶスムーズ。みんなやさしい。きっと、このボランティアに参加すると大学の単位になったりもするんじゃないかと勝さんが推測。
ホテルに到着。プログラムチームのミンスンさんが迎えてくれる。いちばん最初に、映画祭への招待メールを送ってくれた人。『ひかりの歌』は自主映画で、プロデューサーもいないから、こまごました連絡もすべて私にくる。あせって間抜けな返事を返しても、丁寧にやりとりしてくれたミンスンさん。お会いしたら、やっぱりやさしい顔。すぐにチェックインして、すこし休憩して、ロビーで待ち合わせ。17時00分。勝さんが、全州出身のボランティアスタッフの人に、地元の人が行くようなおいしい店はどこかと訊いてくれた。勝さんは、愛してるのコリア語(サランヘヨ)は覚えてきたみたいで、別れ際の挨拶のようにサランヘヨと言ってる。映画祭のガイドブックに載ってた地図を頼りに、食堂へ。入ったときはすいてたけれど、夕食どきになると、どんどん家族づれ客がやってくる店だった。メニューに書かれた料理の分量とか種類が、そこまでわからず、全員でつまむような大きな鍋料理と、同じ内容の一人用の鍋が並んだ。頼んだのが薬膳系の鍋だったらしく、化学調味料の味もまったくしない、薄味のおいしい鍋だった。日本で食べたら、もしかしたらひとり数千円。ちょっと居酒屋に行ったくらいの値段で食べられた。勝さんは、おれ毎日これでいいわとよろこんでた。愛枝さんは、他のテーブルの女性客の人たちを見ながら、みんな肌がつるつる、やっぱりこういうの毎日食べてるからだと、驚いてた。愛枝さんは韓国に来るにあたって、下調べをかなりしてたみたいで、スプーンとかお箸、食器類はそんなにちゃんと洗ってないときがあるから、お手拭きで拭いた方がいいときもあるらしいよと言ってた。もしそうでも気にならないけれど、ある家族づれの、ギャルっぽい高校生くらいの人が、拭いてた。大人は拭いてない。おいしくてすっかり食べた。韓国では、どこも外でしか煙草は吸えないらしく、愛枝さんと勝さんは携帯灰皿を探して、100円ショップのような店に。無事に見つかって、出てきた勝さんは携帯しない灰皿を持ってた。ホテルに戻って、ロビーの特設カウンターにいるボランティアスタッフの人に、ごはんがおいしかったことと、情報のお礼を伝えつつ、勝さんはコンビニで買ったカフェラテを渡してた。ロビーに、後続の日本から来たチームの人たちがチェックインをしてて、ご挨拶。2日前に舞台を終えたばかりの勝さんと、作業で睡眠があまり取れてない愛枝さんは部屋に戻って就寝。映画祭がはじまる前の、なんでもないときの現地の映画館を体験しておきたくて、食堂を探して歩いたときに見かけた映画館へ。昼間はシャツ1枚でだいじょうぶだったけれど、夜は冬みたいに冷える。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を見た。全部の座席の列にテーブルがついてて、ゆったり。アクション映画かと思ってたら、登場人物同士が動かずにじっくり話す場面が多い作品だった。ロビーに、岩井俊二監督の『Love Letter』のポスターが貼ってあった。韓国で人気があると聞いたことがある。記念に写真を撮った。ホテルにもどって就寝。
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