ジャパンエレベーターサービス2024年8月


ジャパンエレベーターサービスは、エレベーターの保守管理を担う独立系メンテナンス専門会社。メーカー系メンテナンス会社と遜色ない高品質なサービスを独立系メンテナンス会社ならではの価格で提供する体制を強化している。

国内で稼働するエレベーター約110万台のエレベーター・エスカレーターのうち、約80%はそのメーカーのメンテナンス会社が保守管理を行っており、残り20%を独立系が担っている。エレベーターメーカーは、本体設置工事費用を安くする代わりに、保守管理費用を高く設定し儲けてきたが、同等のサービスで費用削減を求めるビルオーナーによる需要を同社(JES)は勝ち取ってきた。

保守管理のプランは「フルメンテナンス契約」と「POG契約」。
法定検査・定期点検・監視サービス・24時間365日の緊急対応。

フルメンテナンスは修繕工事費用も含まれる。POGはパーツ・オイル・グリースの意味で、修繕工事費用は都度必要になってくる。

1980年代~1990年代の大量に供給されたエレベーターが、メーカーによる部品供給停止に直面。メーカーから言わせると、「古いエレベーターをイチから作り直せ」というメッセージであるが、ビルオーナーは費用対効果の高い解決策を求めていることから、リニューアル業務の構造的需要が拡大している。

JESのリニューアルは、準撤去新設リニューアルと制御盤リニューアル(Quick Renewal)。(全撤去新設リニューアルはメーカーが推しているが費用も時間もかかる。)

準撤去リニューアル→エレベーターの稼働に必要な主要部分である制御盤や巻き上げ機、油圧ユニットなど、機械室の主要部分を入れ替えること。ニーズにあった部分のみ交換する。

クイックリニューアルは、エレベーターの頭脳である制御盤のみを交換することで大幅な低コスト・短期間を実現。
メーカーリニューアルは1000万円超。JESの従来のリニューアルは650万円前後。クイックリニューアルは250万円前後。

これが実現できるのは、2017年にエレベーターのテストタワーを備えた研究開発施設であるJICを竣工し、低コスト・短期間を実現するクイックリニューアルのサービス開始。2020年10月には、JILが竣工し、より一層の開発スピードアップが実現。2024年にはJIKが竣工し、関西も攻め始める。

数々の特許をちりばめた遠隔監視サービス「Prime」によってリモート点検が可能となり、エンジニアによる有人点検回数を減らし、エレベーターの停止時間を短縮。故障の予兆をいち早く察知し、迅速な対応が可能となる。
メーカー系は遠隔監視サービスやってるが、独立系で遠隔監視をやっているのはジャパンエレベーターくらい。Primeはどのメーカーのエレベーターでも対応可能。

各メーカーのあらゆる機器メンテナンスに迅速対応するために全国8か所にパーツセンターを設置。メーカー純正パーツを豊富にストック。部品供給停止機種でも対応できるように、リサイクルパーツ・リファービッシュ品の入手にも力を入れる。豊富なストックパーツを競合他社の独立系メンテ会社にも供給している。(競合他社にパーツを供給して取引関係がある状態からM&Aにつながった案件もいくつかあるらしい・・・)

労働集約型寄りのモデルため、やはり核となるのは研修プログラムのSTEP24。
独立系ならではの、初心者であっても主要メーカーすべてに対応できるようなプログラムによって安全品質の向上につながっている。昨今の大企業は巨額の資金を持っているのでここに参入するのは容易ではあるが、この人材を育てるプログラムは一朝一夕にできあがるものではない。

前述のJIC・JIL・JIKは、ポーターの競争戦略的に言う「巨額の投資」「流通チャネルの確保」となる。
様々な種類のテスト用エレベーターを備えた高層テストタワーであり、リニューアル工事の研究開発・パーツセンター・やメンテナンス研修用に用いられるが、他の独立系がここまで投資できるのは中々ない。さらに「規模の経済」が働き、サービスの単位当たりのコストがどんどん低下していく。実際に営業利益率は毎年上昇傾向だ。規模の経済がまかり通るこの業界では、新規参入者は初めから大量にサービス提供できるように踏み切らざるをえなくなって、既存の業者(JESなど)からの強烈な反撃を受ける危険を覚悟するか、それともはじめは少量だけサービスを提供してコスト面での不利に甘んじるかのどちらかになる。JESも元々は後発だったわけで、この参入障壁的に、一気に拡大する戦略が望ましく、オーガニックな成長にあわせて水平統合も今現在積極的にしているのはこういう理由である。

巨額の投資で他社をはねのけ、規模の経済でコスト面でさらに他社をはねのけ、たくさん数をこなすから「エクスペリエンス曲線」はうなぎのぼり。(このエクスペリエンス曲線も単位当たりのコストが下がる傾向がある。)
通常の企業がこのような大きな投資を行うと、ROICやROEの指標である資本効率が悪化しやすい。JESも一時的に減少するが、減価償却費の増加にもかかわらず営業利益の力強い上昇によりすぐに追いついてきている。会社によると2023年がマックスの投資額であるとのことだったので、今後の投資のメインはPrimeになるだろうと思われるので、FCFの劇的な改善が予測される。非常に楽しみな流れ。

社長の石田さんが書いた「信念の経営」に、今まで独立系が台頭できなかった理由を書いておられた。技術不足だったのはもちろん、メーカーがメンテナンス用の純正部品を卸さなかった事が挙げられていた。(かつて独立系は、秋葉原に売っているようなチープな部品を使っていたと言います)それが解消される流れがあり、そこに商機を見出していたところに商売センスを感じた。(信念の経営P60から参照)

かつて独立系のシェアが数パーセントしかなかったのは、独立系の技術力やサービスレベルに問題もあったが、そもそもメーカーからメンテナンス用の部品が調達しにくいという事が原因でした。それが解消されるのであれば、独立系もメーカーの純正部品を使ってメンテナンスを行うことができます。今や独立系全体のシェアは20%で約20万台。そのうちの半分の10万台がJESを占める(2024年3月末時点)。
JESの予測で、将来的に独立系全体のシェアが50%まで上昇すると予測している。

メーカーには価格、他の独立系には圧倒的な技術力で差別化しているJESには明るい未来しか見えない・・・。大量に買いたい・・・。

僕なりのDCF法で算出した目標株価は、時価総額1兆円くらい。

※「規模の経済」の定義は、「一定期間内の生産絶対量が増えるほど製品(または製品を生産する作業)の単位あたりのコストが低下する」という意味である。


【追記2024年8月23日】
「知りうることができること」と「重要なこと」が合わさってはじめて「情報」と言える。
金利動向はバリュエーションにかなりの影響を与えるが、金利動向は決して知ることができないので、情報とは言えない。
金利や為替なんて、知りうることができないものはもう完全に無視してしまおうというのが投資家としての所作で、「知りうることができること」と「重要なこと」が合わさった「情報」のみを頼りに投資の決断をすることが、結局はうまくいくというのがバフェットの主張だ。
ジャパンエレベーターの場合の唯一の懸念が、純利益に対する株価の指標であるPER50という、一見株価が高くなりすぎているという事実。
金利はバリュエーションに大いに影響する。金利が上がれば資本コストが上がる。資本コストが上がると当然機体収益率が上がり利回りが上がるので株価自体は下がる方向へ行く。特にこういった高PER銘柄は被弾する可能性がより一層高い。
しかし金利動向なんてわからん。日銀やFRBですら1年後の金利などわかっていない。こんなものを頼りに投資をするのは馬鹿げているということだ。
そんなことよりも、今のジャパンエレベーターの現在地を確認し、ここから飛躍の可能性が非常に高いという「事実」のみを頼りに投資をする方が実りがあると思っている。金利動向はバリュエーションに影響するので重要ではあるが、決して知りうることができない。それは情報ではないというのがバフェットの主張である。

【株価分析 2024年8月26日追記】

年初時点の株価的に、年率約25%で上昇している。
半面、STDEV.Sが標準偏差だが、1年で約40%の上下が「普通」にある。
今現在の株価が約2800円だが、約1680円~約4000円までの値動きは「普通に」あるということだ。

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