大家目線で、「VS入居者の裁判の考え方とやり方。」

まずはじめに。低所得者向けの不動産賃貸業で、特に自主管理をするのであれば隅から隅までみるべきなブログです。必殺大家人大先生が書いています。

【自主管理大家の日々】

不動産賃貸業者として、僕に裁判という手札を与えて下さったのは必殺大家人大先生です。ですので保証会社無しの賃貸借契約でも特に怖いと思ったことが無いです。(連帯保証人はガッチリ)

感謝と共に、最大限の敬意を表します。

これから書く文章は必殺大家人さまと何ら関係ございません。内容が内容ですので、万が一間違った見解等ございましても全て京雄の未熟さからです。その際はご容赦願います!




不動産賃貸業をしていると、家賃滞納は避けられません。さらに借地借家法という借主有利な法律が存在しますので、鍵穴にアロンアルファなどの思い切った対応は中々できません。

最近は家賃保証会社がメジャーになってきてますので家賃滞納のリスクはほぼなくなってますが、保証会社無しの賃貸借契約では引き続き家賃滞納リスクが大きいです。裁判すると言っても、弁護士さんに頼んでしまうと数十万円単位の費用が必要になります。強制執行までいくと100万円近くまで必要になるのではないでしょうか?

さらに弁護士先生は「勝訴判決」をとる努力をしますが、弱小大家の立場からすると「判決」よりも「行儀よく住んで家賃を払い続けてほしい」というのが本音です。もちろん、弁護士先生は最重要パートナーで頼らなければならない案件もありますが、家賃滞納に限っては頼る必要はありません。

弁護士の立場から行う定型的な裁判ではなく、プロの大家として行う裁判をこれから紹介していきます。

考え方として、「家賃滞納されて貸し倒れても負けですが、退去されて空室になっても負け」です。よほど悪質な入居者で出ていってほしい時は例外ですが、プロの大家としては毎月きっちり家賃を回収してはじめて事業が成立します。

「滞納をなんとか解消したい!」「滞納額が大きいからとにかく追い出したい!」「夜逃げされてしまった!」など、こういう場面の手段として裁判がありますが、今回は「家賃滞納されているが、なんとか滞納解消させて、引き続き住んでもらいたい」というパターンでnote書きます。


【裁判の大枠】

大家から見た裁判の方法として、下記の4つの方法があります。

それぞれの方法のメリットデメリットを見ていきます。

【支払い督促】

明け渡し裁判は不可で、滞納家賃のみの請求になってしまいます。退去後のリフォーム費用などに最適。メリットは印紙代が訴訟の半額。勝訴判決が法的手続きの中で一番簡単にとれるので、差し押さえができるレベルの会社員などには有効。ただし、裁判は相手方の居住地が管轄裁判所になる。デメリットはメリットでも述べたように、判決文が出やすいので、債務者と折衝がしにくい。

【少額訴訟】

明け渡し裁判不可。滞納家賃のみの請求になってしまいます。

メリットは原則一日で結審。デメリットは原則一日で結審と言いながら相手が争う構えだと一日ではおわらない。印紙・切手代が通常訴訟と同じ。「少額」の文字が債務者に安心感を与えてしまう。

【訴訟】

明け渡し裁判可能。基本的になんでも訴えられる。メリットは文章に「訴訟」の文字(相手へのプレッシャー)相手が出廷しなくても判決が取れる。夜逃げなどにはこれしか方法はない。

※悪質な入居者などで出ていってほしい相手などにも有効。(調停は時間の無駄)

デメリットは滞納期間が最低でも3か月は必要。最初から訴訟の札を切ってしまうと次が無い。(滞納者が訴訟になれてしまう。)

【調停】

明け渡し裁判可能。相手が出廷しないと強制力のある判決文が取れませんが、出廷してきたらコチラに有利な文言で和解することができます。(保証人の追加や一度でも家賃を滞ったら退去など、和解(話し合い)ですのでドンドン有利に持っていけます。もし相手側がこちらの条件をのまない場合は不調にして通常訴訟に移行できます。)最後の切り札として「訴訟」の札を取っておけます。これは和解不履行などで強制退去後に訴訟で未払い賃料を請求する。

※今まで滞納もなく優良入居者だったが失業などで滞納が出てきた場合。

※人間的にそんなに悪い人ではないんだけど・・・滞納が無ければ入居してほしい方など。

※あくまで話し合いですので滞納期間が短くてもOK。

メリットは印紙代が訴訟の半額。切手代も約1/5。他の法的手続きと違い、債務者への郵便送達が普通郵便なので必ず受け取る。

デメリットは出廷しないと判決文は取れないので夜逃げした部屋や開き直っているプロの債務者には効果なし。


【今回のケース】

築60年 木造3DK シングルマザーと子供3人 家賃5万円 駐車場8,640円

「遅れつつも家賃は払っていたが、積もり積もって5か月分の滞納額になってました。こちらとしても築60年の物件のため次の入居者を探すためには時間も費用もかかる。家賃の支払いが悪い以外は問題の無い入居者なので、こちらとしてもしっかり滞納を解消してもらって引き続き住み続けてもらいたいという思いがある。」

こういう状況でしたので、僕は調停というカードをとりました。(こういう状況で、もし退去してほしい!と考えるのであれば訴訟です!)

まずは、督促状攻撃で早急に滞納解消するよう促します。解消しないことを確認して内容証明郵便を送り、賃貸借契約の解除をしておきます。

同時に、簡易裁判所にて調停申し立て書を提出にいきます。

書式例はこちらになります。

こちらのファイルの様に調停申立書をワードで作成し、3部印刷して裁判所に提出します。

左下に赤色の手書きでページ番号をふっています。この番号は今回のnoteで説明しやすいように大きく書いてますが、裁判所に提出する際はもっと小さい字でページ番号を記載してください。

まず1ページ目。申立人と相手方の情報を記載します。右下のそれぞれの価額は裁判所に行けば教えてくれます。

(訴訟する場合は、申立人・相手方の表記を原告・被告に変更します。調停申立書の表記を訴状に変更します。)

次に2ページ目。

「申立ての趣旨」に3項目記載があります。「建物を明け渡せ・滞納家賃を払え・今後も家賃を支払い続けろ」という内容です。このどれもが非常に重要な趣旨になりますので必ず表記しましょう。

「紛争の要点」ですが、契約書の内容を転記し、滞納金額の明細を記述します。

「その他の参考事項」を説明します。こちらとしては、築60年の物件で、追い出したとしても次の入居者を探すのに時間も費用もかかる。滞納さえなければ引き続き住んでいてほしいという願いがあります。「調停条項(後述)の約束を守ってくれれば引き続き住んでいても良いですよ。でも少しでも約束を破れば即刻強制執行で出て行ってもらうよ」という意味がこめられています。大家としては本音は出ていってほしくないわけです。(だから調停というカードを切っているのですが。)

次に3ページ目。

「証拠方法」ですが、滞納者の賃貸借契約書のコピーと、督促状を調停申立書に添付しましょう。それぞれのコピーに「甲第一号証」「甲第二号証」と記載します。

「添付書類」ですが、それぞれ用意して裁判所に提出します。調停申立書自体は3部提出の必要がありますが、これらの添付書類は1枚づつ提出すれば大丈夫です。

次に4ページ目。

「物件目録」ですが、登記簿謄本の内容を転記してこのように作成します。

次に5ページ目と6ページ目。

住宅地図のコピーをとって対象物件を赤字でわかりやすくマークします。そして部屋の配置を手書きで構わないので描いて対象の部屋を赤字で囲います。

書類作成は以上です。裁判所に提出後、裁判日程が決定される案内が届きます。書類を提出してから大体1か月後くらいです。

【裁判当日】

調停は相手方が出廷しているかどうかが重要です。出廷していない場合、訴訟と異なり再び日程を決めて再度調停の日程を決めます。

出廷していた場合はガッツポーズです。

調停は、調停委員2名・申立人・相手側の4名が同じ部屋で挨拶して、申立人と相手方が別々の部屋に行き、調停委員がそれぞれの言い分を聞くというスタイルです。基本的に調停委員は弱者に寄り添います。ですので、調停に挑む前に「この条件を相手方がのまないなら不調にして訴訟に移行する」とか「この項目はまあ妥協しても良いかな」というラインを決めておいてください。軸が無いと、調停委員は大家にガンガン妥協を求めてきます。大家もプロの事業者ですから、相手の言い分や状況を理解したうえで自分の主張もしっかりしましょう。

調停当日は「調停条項」の案を作成して持参します。(他に内容証明郵便や前日までの滞納金額がわかる書類を持参します。証拠書類は全て持参します。)

一通り相手方の状況を聞き、こちら側からの状況説明が完了したタイミングで調停委員に提出し提案します。

こちらが調停条項の雛形です。

1と2は当たり前の事が書いてます。

3で、滞納家賃の金額を確定させます。

4は大家側からの分割払いの提案です。滞納分を毎月3万円上乗せで支払う様に提案する文章をもっていきました。本当は毎月1万円上乗せでいいと思っていましたがあえて3万円にした理由があります。

調停委員は基本的に弱者の味方で大家は金持ちであるという偏見をもっています。調停委員は大体、大家側に分割払い金額減額の妥協を求めてきます。それを僕は知っていたのであえて3万円と記載して、当日に調停委員からの提案を受け入れて妥協したという演出をします。

調停委員も人間です。大家が妥協してくれたと思うと、「大家さんも妥協してくれたんだから頑張って滞納分払おう・・・」と滞納者に滞納家賃の分割払いを承諾するように説得してくれます。

しかし、今回は毎月1万円上乗せですらも調停委員は渋ってました。僕は「毎月3万円ならまだしも、毎月1万円の上乗せですら支払えないんだったら不調にして即刻訴訟に移行する!」って大声で叫びましたw 調停委員も思いとどまって、妥協案の再検討を始め、毎月1万円上乗せで最終的に調停条項を作成してもらいました。

5と6と7と8は文章の通りです。「当然の期限の利益を失い」とか「何らの通告を要せず」の文言が重要です。

調停は、あくまでも話し合いです。申立人と相手方との言い分を調整するのが調停委員です。妥協しても良いラインとダメなラインの軸をしっかり自分の中にもって挑みましょう。悪いのは確実に滞納者なのですから、クソみたいな提案をされたら「ダメだ!そんなことなら不調にして訴訟に移行する!」と叫びましょう。


調停委員との話し合いの末、裁判官が出てきて、話し合いの中で出た修正ポイントを考慮して調停条項を作成しなおしてくれます。この調停条項は法的拘束力があるものですので、滞納家賃の分割払いの履行を一度でも滞ってしまうと大家は強制執行で追い出す事が可能になります。これは入居者にとってもプレッシャーですので、お金の配分として家賃支払いを第一優先に考えてくれます。残念ながら調停条項で定めた約束を守ってくれなくて、もう追い出したいと思った場合は即刻強制執行の手続きを行いましょう。。。


しかし、この強制執行は非常にお金がかかります。(再募集するための期間も相当日数必要です。)執行屋さんというのが存在するのですが大体30数万円くらいとられました。強制執行は僕は1度だけしか経験ありません。

必殺大家大先生によると強制執行を安く仕上げる方法もあるようです。そこも多分執行官との交渉ですので、機会があれば次回は自分でやってみようと思いまーす!以上です!

(書いていて思いましたが、僕は裁判を「入居者にプレッシャーをかける道具」として使っているのだなあと感じました。読んで頂きありがとうございます!僕もまだまだ未熟ですので間違い点などあればご指摘ください!)

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