第4部 夏が終わりそして秋…



ピカーーーーン。

梅雨も明け、赤熱の太陽の下、
ビーチは大賑わい。
砂浜には何軒もの海の家が並び、
たくさんの人で賑わっていた。

ユキは、マスターの手伝いのため
海の家に来ていた。

「ふぅー。。。暑っ!」

開店準備も終わり、一息ついていた。

「疲れた?」

後ろにいたマスターがタバコを咥えながら
声をかけてきた。

「ちっとだけですね!あ、しまった、つい!」

標準語にまだ慣れないユキは思わず方言が出てしまった。

「ユキちゃんの地元、面白い方言だね(笑)。ちっとってなんなの?(笑)」

マスターは笑いながら、ユキに問いかけた。

「ごめんなさい(笑)。ちょっとって意味で。。。つい。。。」

ユキは、持っていたドリンクを飲みながらそう答えた。

「よかよか。んじゃそろそろオープンだ。1日よろしくね!」

マスターはそう言って、海の家の奥に入っていった。

「よし!頑張ろ!!」

ユキは、上京して初めての海。少しばかりワクワクしていた。

「ん?あれ?マスター…さっきなんていった?よかよか?」

ユキはマスターが言った言葉に少し引っかかっていた。

「おねーさん、ビール2つに、ハイボール2つくださーい」

早速、お客さんからの注文が入ってきた。

「マスター、ビール2つにハイボール2つお願いしまーす!!」

ユキは声を張って、奥にいるマスターにそれを伝える。

「はーい!ビールツーにハイボールツー」

そう答えて、渡してきたのはタクヤだった。

「あれ?タクヤさん、マスターは?」

さっき奥にいったはずのマスターがオープン早々いない。

「あ、マスター?!マスターはあそこ(笑)。『俺は重要な任務がある!あとは2人に任せた!』とか言ってたよ(笑)」

指差しながら、言うタクヤの指先にユキは目線を移す。

「え?重要な任務ってアレですか?」

苦笑いしながら言うユキの目に映ったのは、
ヘッドホンを首からかけ、ノリノリで音に乗ってる
マスターの姿があった。

「マスター、DJなんだよ(笑)。巷では選曲良くて、パフォーマンスも面白いってちょっと有名らしい、、、
俺もマスターがプレイするのは初めてみた(笑)。」

タクヤがそう答える後ろでは、マスターが選曲したサマーソングが流れていた。

(〜2000マイル飛び越えて〜♪)

「全然いつもとイメージ違うじゃないですか!すごっ!」

すでにマスターのDJブースの周りには、老若男女が集まっていた。

「パフォーマンスってアレね」
ユキが笑いながらつぶやいてみていたのは、
曲に合わせて、即興でお客さんを巻き込みながら
踊っているマスターの姿だった。

ー ランチタイムも近くなり、お客さんも増え、ユキたちは慌ただしくなっていた。

「カレーくださーい」
「ブラックモンブラン5つ!!」
「ピザ2つー!」
「回鍋肉くださーい!」
「そば1つ」

お客さんからの注文の声が飛び交っていた。

…メニュー多くない?

「ピザに回鍋肉にそば。。。海の家の定番的なのカレーしかないじゃん。。。え?てかなんで ブラックモンブラン?謎すぎる、コレうちの地元しかないやつじゃん。。。マジ謎。」
ユキは首を傾げながらそうぼやいた。

そんなことは他所にマスターは一人、ヒートアップしていた。

忙しく慌ただしい時間も過ぎ、海の家よりも
ビーチの方に沢山の人が溢れていた。

(〜ビーチターイム、青い夏のせいさ〜♪)

「疲れたでしょ?今人も引いてるから休憩しておいで」

タクヤから不思議な色をしたドリンクをわたされた。

「あ、ありがとうございます!お昼時凄まじいですね。てか、これなんですか?!」

ユキはそう言うと、

「アキダクト!甘くて美味しいカクテルだよ。ちょっとくらいいいって!マスターもあんな感じだし」

タクヤは、笑いながらそう言うと手に持ったコロナビールを飲んだ。

「タクヤさんもう飲んでるしっ!!じゃあ休憩もらいまーす!」

といい、休憩に入った。

「甘っ!あ、でもコレ美味しい!」

ユキは、汗だくでヘトヘトになったカラダに
タクヤがつくったカクテルを流し込む。

「なんだっけ?アキダクト?!初めての味だ。」

少し休憩をとり、DJブースを横切りながら
海の家に戻ろうとすると、

「あれ?マスターがいない」

ブースでは、曲だけが流れていた。

(〜時の流れに身を任せ〜♪)

「うわ、古っ。」

ユキは笑いながらそう呟き、海の家に戻った。

一方海の家では、

「やばい、だごきちー。だごきちーてタクヤ、もう交代!!」

マスターがタクヤに選手交代を告げていた。

「マスター、絶妙なとこでこの曲流すんすね、流石としかいいようがない。ただはしゃぎすぎですって(笑) もう若くないんだから(笑)後半は俺に任せてくださいよ。それと、、いい加減バレますよ笑」

タクヤはそう言って、準備をし、ブースへ向かった。

「あーだごきちー。年1の俺の唯一の楽しみばい?そらはしゃぐど」

「だごやびゃー、だごきちー、だごあちぃ。。。」

そんな言葉を吐いているマスターのもとに、

ユキが休憩から戻ってきた。

ユキは耳を疑った。

「だごきちぃー…..?!」
「ねぇ、ねぇ、マスター….?! だごきちぃーって?!」

マスターに聞き返すと、
「あ、ユキちゃんおつかれ^ ^ありがとねー!
お昼大変だったでしょ?!」

とユキの言葉を遮った。

ユキは笑いながらも、マスターが発した言葉を
どうしても聞き捨てならなかった。

(♪〜hold on me〜♪)

DJブースではタクヤが曲を流し始めた。

「あ!タクヤさんもDJするんだ!てかタクヤさんも選曲古ぅうー。」

タクヤが流し始めた曲を聴きながら、ユキはDJブースの方へ向かった。

「あぶにゃー。バレるとこだった。。。気をつけんと」

マスターは、荒い息遣いでボソッとそんな言葉を吐いていた。

ピークタイムを過ぎた海の家では、灼熱の暑さから逃げて涼む人たちがチラホラいるだけで、落ち着いていた。

DJブースには、人集りができ、盛り上がっていた。
その中にユキもいた。

だんだんと陽も落ちてきて,空も紫がかってきた。

昼間大勢いた、イケイケでノリノリだったビーチのお客さんも減り、ビーチを散歩する人、夕涼みにきた人と入れ替わっていった。。。

(♪〜夜空をたださまようだけ〜♪)

DJをしていたタクヤも少々疲れ気味だった。

DJブースのタクヤは、ユキに手招きして、「こっちにおいで」というような仕草で呼んでいた。

「ユキちゃん、マスター呼んできて。マスターに、もういい時間に入ってきたから、交代ですよ(笑)って伝えてきてくれない?」

とユキに頼んでいた。

「OK!タクヤさん、なかなか渋い選曲でしたね^ ^
私全部聴いてましたよ♪」

「もしかして、流した曲全部わかったの?ユキちゃんもなかなか物好きだし、古いよね笑 絶対昭和生まれでしょ(笑)」

と笑いながら、ユキにいった。

「ちゃんとへーせーですー」
と口を尖らせながらユキは返した。

「マスター呼んできますねー!」
とユキは、海の家に駆けていった。

「もうちょっと見たかったなぁ。いい選曲するんだもんタクヤさん。。。」
とボヤきながらも、

「マスター!マスター!タクヤさんがいい時間だから交代ですって!」

と告げた。

「もうそんな時間?!OK!OK!」
とヘッドホンを手に取り、DJブースに向かいだした。

「てかマスター、聞きたいことあるんですケドー」
とユキが言うと、

「♪〜 フンフンフン 〜♪」

と既にヘッドホンをはめて、鼻歌を歌っていたマスターには何も聞こえていなかった。

「って、またマスター人の話聞いてないしっ!!」

ご機嫌のマスターはDJブースに入るとさらにご機嫌になってた。

「おつかれです♪DJカッコ良かったですよ!」
DJを終えたタクヤに冷えたビールを差し出しいった。

「いや〜おつかれおつかれ、お客さんの方大丈夫だった?マスター働かなかったでしょ笑」

「うーーーん、なんかやりきった感出しまくってましたよ(苦笑) でもやっぱタクヤさんDJしてる時だごむしゃんよかった!!」

「ん?何?!それ何語?!笑」

「あ。。んーえーと、かっこよかったってことです。
選曲が!選曲がですよ!つい地元の訛りが。。。」

とユキは、照れながらも誤魔化すように言ったが、かなり苦し紛れなことは用意にわかる。

「選曲がかっこよかったってことね笑」
とタクヤは茶化すように言った。

実はユキ、以前ヒナコに連れて行かれたバーで初めて会った時から、タクヤのことが気になって気になって仕方なかった。それが何故なのかはユキ自身もよくわかっていない。

「そうです!そうです!あそこであの曲かけるあたりとかあの曲の流れから次アレとか!めっちゃよかったです!あたし好きです!あの感じ!」

ユキは、興奮した気持ちを抑えられず昂りながらそう言った。

「てか、ユキちゃんよくあの年代しってるよね。世代一緒かなって思うもん。」

タクヤはユキに笑いながらいった。

「父が…父がよく聞かせてくれてたんです。カセットテープで…覚えてるのはそれだけ…」

ユキは少し言葉を詰まらせながらそういった。

「ごめんごめん、変なこと聞いたね。」

タクヤはまずいことを聞いたと思い、それ以上その話題には触れなかった。

ちょっと気まずい空気の中ー、

「タークヤっ!」

ハイトーンで透き通ったボイスがその名を呼ぶ。

2人が咄嗟に振り向くと、

サンセットによく馴染む、ルージュのワンピースに身を包んだ女性が立っていた。

長い黒髪を靡かせ、スラっとした長い手足。
それに加え、上品で整った顔立ち。
女性なら誰もが憧れそうなくらいのキャラ立ち。

ユキは、
「え?誰?こんな綺麗な人。。。同じ人間なのかな?!ここ日本だよね…」
とココロの中でそう問いかけていた。


「おー!ユッキーじゃん!来たんだ。サンキュ、サンキュ!もしかして見てた?!」

とタクヤは女性に向かって言った。

「来た時にちょうどプレイが始まったから、離れたとこでずっと見てたよ。相変わらず人気ね。女の子にっ!!」

ユッキーと呼ばれるその女性はちょっと皮肉っぽく不機嫌そうにタクヤにそう言った。

「ちょ待てよ、違うって(笑)そんなふくれんなって」

「冗談よ」

女性は、揶揄うようにタクヤに言い、ケラケラと笑っていた。そして、

「ねぇタクヤその子だぁれ?」

と女性の目はユキに向いていた。

「あ、この子は今日お手伝いできてくれたユキちゃん!マスターのとこでたまたま一緒になって、マスターに半強制で今日手伝わされてんの。4月に上京してきたばっかなんだって。

ユキちゃん、こっちはーーーーーー。」

「はじめまして、ユキさん。
是下千乃(ユキノ)です。マスターに手伝わされるの大変ですよね。マスター仕事ほっぽらかしでしょ?」

タクヤの言葉を遮るように、千乃はユキにそう言った。

「…….この人キレー…..」

ユキは1人違う世界にいったように見惚れてしまっていた。

「ユキさん!?」

「はっ!あっ!はじめまして。今日タクヤさんにはお世話になってます!!ユキです!!!」

ユキは一瞬で我に返った。

「どしたの?ユキちゃん。」

タクヤは笑いながらユキに言った。

「あ、いや、あまりにも綺麗な方で思わず見惚れてしまってました。。。。(マジでキレイ…,,)」

顔を真っ赤にしながらユキは言った。

「ユッキーと俺幼馴染なんよ。ユッキーは途中で転校しちゃったけど、何年前だったかな?たまたまマスターのとこで、10年振りくらいに再会しちゃって。確かその時、ユッキーもマスターに海の家手伝ってよって言われてたよね?」

タクヤが千乃にそういうと、

「あの人無茶苦茶だもの。せっかく久しぶりに再会できて話も弾んでたのに。そんなの関係なしに手伝えーだの助けてくれだの店が終わっちまうだの最後には、俺の夢が終わるとか言い出したのよ。断れるわけないじゃない笑あの人そういうところ上手よね。

ユキさん、マスターには気をつけてね。
あの人、無茶振りの天才だから。厄介よ。」

千乃は、タクヤとの再会話しを交え、ユキにそう言った。

「あはは、そうなんですね!気をつけますー。」

ユキは笑いながらそう言った。


タクヤと千乃は仲睦まじく話を続けていた。

どの角度から見てもユキの目には千乃が眩しく輝いてた。

(これぞ女性の鑑…)

「あ、そうだ。タクヤ、うちの親がタクヤは次いつ来るんだーってしつこく聞いてたわ。特にパパが。タクヤの話がでる度に、アイツはいい男だーとか何とか言って1人で騒いでるのよ。暇してるみたいだから行ってあげて笑」

「お、マジ?!トシミさんには世話になってるからなー。来週いくよ!俺からも連絡しとく!」

「あと、今度の顔あ⚪︎×△□※だけどー」

「OK!わかった!スケジュール確認してまた連絡するわ!」

タクヤと千乃は何やら話をしていたが、
夕暮れの波の音に加え、盛り上がってきたDJブースからの音のボリュームでかき消された。

いや、正確には無理矢理掻き消した。

ユキにはしっかりと聴こえていた。
一瞬時が止まった。

「え?……」

ユキは聞きたくなかった。
海の家から見えるビーチ。
夏のサンセットのさざ波とともに
聞き流した。

「ナツモオワッタナ…」

第4部 完







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