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いよいよ南インド上陸❗️超特急ヴァンデ=バラト=エクスプレスが目指すもの

はじめに

こんばんナマステ💙🤍Kyoskéこと暑寒煮切(あっさむにるぎり)だよっ⭐️

今、Clubhouse『インドの衝撃(インド大学)』で話してきた内容をそのままUPしちゃうよ🌌

前々回以来、講義の準備しながらnote書いちゃった方が楽ということで今回も味をしめて。

ただ、いただいたフィードバックの反映をこの記事としてはできない、という難点はある。

反映した方がいいフィードバックがあれば、翌日などに後口上というかたちで記事にするしかないのだろう。

ということで、今回はインドの最新超特急ヴァンデ=バラト=エクスプレスの話をしていくよ❗️

南インド初の超特急

11月11日、タミルナードゥ州のチェンナイ中央駅とカルナータカ州のマイソール駅を結ぶ超特急ヴァンデ=バラト=エクスプレスの運行が開始され、モディ首相が途中停車駅であるカルナータカ州の州都ベンガルールからチェンナイまで乗車した。

2019年に首都デリーーウッタル=プラーデシュ州ヴァラナシ間でデビューしたヴァンデ=バラト=エクスプレスとしては5系統目にして初の南インド系統となった。

チェンナイーマイソール間497kmをタミルナードゥ州カットパディ(人口は少ないが南北に結ぶ路線と交わる鉄道網の要衝)、ベンガルールの2駅のみに停まって往路6時間30分、復路6時間25分で結び、停車時間を含めた平均速度(専門的には表定速度と呼ぶ)は往路76km/h、復路77km/h。

主要区間であるチェンナイーベンガルール間359kmに限れば往復とも4時間30分で結び、平均80km/h。4時間30分というのは東京ー新山口間に相当して、航空機に対して拮抗はしないもののある程度のシェアが見込める所要時間で、北海道新幹線が札幌まで開通した時に目標としている所要時間でもある。インド国鉄もかなり意識した所要時間ではないか。

他のヴァンデ=バラト=エクスプレスは130km/hを出しているなか、東ガーツ山脈を超えてデカン高原へ向かうこのルートはカーヴや勾配が多く、チェンナイーベンガルール間で110km/h、ベンガルールーマイソール間で100km/hしか出せていない。

既存の特急シャタブディ=エクスプレスと30分程度しか所要時間が短縮されていないことに対して不満も出ているが、500km弱で30分短縮することがどれだけ大変なことかもっと理解されなければいけない。

インド国鉄もそのことは理解していてベンガルール以東で130km/h、以西で110km/hへの高速化を予定している。ただ、それをしてもそこまでの時間短縮にはならない気がしている。理由は後述する。

ヴァンデ=バラト=エクスプレスの車両はチェンナイの工場で製造されているのにもかかわらず、チェンナイへの投入が遅れたのは政府の北インド優先政策云々もあれど、この線路条件が大きいのではないか。

平地を走る既存の特急列車より遅い速度では国内外に何のアッピールもできないからね。

高速鉄道の時代

それではヴァンデ=バラト=エクスプレスそのものついて見ていきたい。

まずインドは鉄道総延長世界4位の鉄道大国であり、人口密度も高いことから鉄道がとても重要視されている。

しかしながら1991年までは社会主義政策が採られていたこともあり、高速化や頻繁運転よりも、より多くの人に安価なサーヴィスを提供することと貨物に重きが置かれていた。

それでも初代首相ネールーの生誕100周年となる1988年には100km/h以上の最高速度で走り、設備的にも先進国の特急列車に相当するシャタブディ=エクスプレスが登場し、数百kmの都市間を日帰りできるようになった。シャタブディは百年、1世紀を意味する。

シャタブディ=エクスプレスは主に大都市を早朝に出発して、夜に戻ってくるダイヤが組まれていて、新幹線が登場する前に東京と大阪を日帰りできることを謳われた特急こだまと同じ考え方。

これが出てきたのは1958年だから、インドの鉄道は都市間高速旅客輸送という点においては19年遅れて鉄道が開業した日本よりちょうど30年遅れていたことを意味している。

特急こだまのせいで日帰り出張が増加し関西の旅館の経営が傾いたとまで言われるほどの社会的インパクトがあった。

そして早朝の駅に人がわんさか集まる光景を見れば、インド社会もシャタブディ=エクスプレスにより大きく変わった。生活圏を超えた範囲でのビジネスや聖地巡礼ではない行楽需要が生まれ、インドの市場経済を準備した。

経済自由化以後、大きく発展していくインドは鉄道の近代化を考え始め、高速鉄道の導入と在来線における準高速鉄道化を模索し始める。

高速鉄道は200km/h以上で走る鉄道のことで、世界初の高速鉄道はもちろん東海道新幹線。

その後、日本に刺激されるかたちで欧州で相次いで高速鉄道が登場、その後各国の経済発展に伴って新興国にも波及して現在は30近い国に高速鉄道がある。

インドでも現在、JR東日本の協力のもとマハラーシュトラ州の州都ムンバイとアフマダーバード州の最大都市アフマダーバードの間にインド初の高速鉄道を建設中で、2020年代の間には多分開業できる見込み。

準高速鉄道は高速鉄道に準ずるレヴェルなので、国によって定義が異なるけど、だいたい150~200km/h、国によっては~250km/h程度までの鉄道を指すし、中速鉄道も同じ意味。

日本では160km/hで走る京成の成田スカイアクセス線と北海道新幹線の青函トンネルが該当するのと、240km/hで走る上越新幹線も該当するというかそういう風に揶揄されてきたけれど来年3月より275km/hに向上して汚名を返上することになった。また、北陸新幹線が金沢まで開業するまで特急はくたかが走っていたほくほく線も160km/hで走っていたが、現在はそれがなくなり110km/hに後退している。

インドでも新幹線を建設するだけでなく、在来線のブラッシュ=アップでその領域を目指すこととなり、フランスをはじめとした鉄道先進諸国の協力を仰ぎつつ自国技術の向上と生産を意識して取り組みが進められた。これに限らず輸入ではなく自国生産を進める政策をメイク=インディアっていう。

2016年にはデリーとタージ=マハールのある古都、ウッタル=プラーデシュ州アーグラーの間で160km/hを出し188kmを1時間40分、平均113km/hで結ぶガティマン=エクスプレスが登場、日本の在来線で最も平均速度の高いサンダーバードの106km/hを上回るパフォーマンスを発揮して準高速鉄道の時代に突入した。ガティマンは高速に動く、みたいな意味。雅称の多いインドの列車のなかでは速いんだよ、ってことを露骨に表現した。

翌2017年には200km/h運転可能な車両によるテジャス=エクスプレスもムンバイとゴア州マルガオンの間で登場したけど、こちらは線路がそれに追いつかず130km/h止まりになっており、シャタブディ=エクスプレスとパフォーマンスに大差はない。

自分もお客様にはガティマン=エクスプレスとヴァンデ=バラト=エクスプレスは超特急と案内しているけど、テジャス=エクスプレスは特急で案内している。ちなみにテジャスは輝く、エネルギッシュといった意味で北陸新幹線かがやきとニュアンスは近いかな。

ガティマン=エクスプレス、テジャス=エクスプレスに次ぐ準高速鉄道プロジェクト第3弾がヴァンデ=バラト=エクスプレスということになり、それに向けてトレイン18というプロジェクトが組まれた。

スペインの衝撃

ヴァンデ=バラト=エクスプレスは前述したように最高速度は130km/hとテジャス=エクスプレスと変わらないけれど、パフォーマンスは向上した。

その理由は、これまでの長距離列車がみんな機関車+客車という構成(動力集中方式という)のに対して、ヴァンデ=バラト=エクスプレスは通勤電車や地下鉄同様複数の車両にモーターが搭載されている電車で(動力分散方式)、加速がまったく違うから。

機関車はスピードが出るのにだいぶ時間がかかるけれども、ヴァンデ=バラト=エクスプレスは停止状態から100km/hに達するのに52秒で、毎秒1.92km/hずつ加速しているので長距離列車としては結構速い。

加速がいいということは高速で走る距離が長いだけでなく、カーヴなどで減速してもすぐにフルスピードに戻せるということでもある。

また、これまでにない流線形で空気抵抗を逃す形状であることも高速運転に適している。

運転台が両方向に付いているのも、機関車が当たり前だった今までにはなかったもので迅速な折り返しが可能になっている。

なぜ、これまで機関車にこだわってきたインド国鉄がこんな車両を造ったのかというと、2016年に試験導入したスペイン・タルゴ社の車両がインドの車両より遥かに高いパフォーマンスを示したことがあると考えている。鉄道技術者達にはだいぶ衝撃だったんじゃないだろうか。

それまでインドはフランスに高速化について相談していたのだけれど、フランスは機関車にこだわる国のため(パリ近郊の輸送力が足りないため2階建て車両を入れるとモーターを付けられない)このような提案は出なかった。世界の趨勢は電車方式であり、今やフランスの方がガラパゴスになりつつある。

そしてスペインに憧れて開発した車両を2018年に投入するつもりだったけれど、翌年に持ち越された。

偉大なるインドを意味するヴァンデ=バラト=エクスプレスと名付けられた超特急は2019年2月にデリーーヴァラナシ間でデビュー、その後デリーからもう2系統、将来の高速鉄道ルートとなるムンバイーアフマダーバード間の系統が新設され、そして今月南インドに初上陸した。

ただ走らせるだけでなく、更に改良を加えたヴァージョン2が既にできており、3系統目となるムンバイーアフマダーバード間以降はヴァージョン2での運行。

リクライニング=シートや大きな窓、真空トイレなど設備やサーヴィス面での評価も高く、インドの威信というだけでなく航空機との対抗も視野に入れられているのだろう。エグゼクティヴ=クラスにはインド初の回転リクライニング=シートが設置されている。そんなの日本では当たり前とか言っちゃダメ笑

今後も増産を繰り返し、全国各地で運転する予定となっている。現在、8割が国産部品で占められており、今後はこれを純国産にする予定。

超特急のこれからと課題

今後、主要幹線の最高速度を160km/hに引き上げて、ヴァンデ=バラト=エクスプレスの走行に相応しいものにしていく予定。

また、200km/hを前提にした新線もケーララなどいくつかで計画している。高速鉄道と違うのは、地域列車や貨物列車との共用もありうるということ。イメージ的には成田スカイアクセスや青函トンネル、北陸新幹線開業前のほくほく線に近い。

現在130km/hを出せている直線の多い路線では最高速度の引き上げはそれなりに効果を発揮できるだろうけど、チェンナイーマイソール間など急峻な路線では、結局カーヴや勾配でスピードが下がるため効果は薄い。

通り一辺倒で同じ車両を投入してもすべての路線で高いパフォーマンスを発揮することはできないのだ。フェラーリでオフロードを速く走れるかってんだ。

このような区間ではよりコーナリング性能や登攀性能を高めた車両を用意する必要がある。

登攀性能についてはモーターとブレーキの強化が前提なのでいいとして、コーナリングをどうするか。

ひとつはコーナリングの際に車体を傾けて、遠心力を逃がすような機構が必要。これを最も得意としているのがイタリアで、

日本も結構頑張っているけどコスト=パフォーマンスの関係から近年は消極的。エア=サスペンションと低重心化に代替しつつある。

もうひとつはヴァンデ=バラト=エクスプレスのモデルとなったスペイン・タルゴ社の車両が採用している独立車輪方式。

スペインはレールの幅が一般的なものより広いため、カーヴの内側と外側でのレールの長さが大きく異なり、両輪が同じ速度で回転すると車輪の摩耗が大きくなってしまう。そこで、車軸を取り払い両輪が独立して回転する方法を思いつき、コーナリング速度を向上させた。

そしてインドもスペインとはほぼ同じ幅のレールを使っており、状況は同じ。

インド国鉄はタルゴ車両の上っ面しか見ておらず、車輪がいかにすごい仕組みなのかを学ばずに返却してしまった。

タルゴ車両の多くはティルティング機能も持っているし、スペインの高速鉄道では300km/hで走っているから車軸がなくとも200km/hでは全然大丈夫。

スペインに助けを求めるか、独自に開発するかは別にしてインドはスペインに上っ面だけでなくもっと深く学ばねばならない。

もうひとつ、インド国鉄が見落としている点がある。

それは速い列車を1日1本走らせても、移動機会は限られているということ。

こういうのは1日複数本、できれば1時間に1〜2本走らせて、思い立ったらすぐに移動できる体制を構築しなければ意味がない。

しかし、このような考え方が定着したのは1970年代初頭のドイツと日本からで、1964年の東海道新幹線よりもずっと後の話。

むしろ東海道新幹線が開業当初からひかりとこだまを1時間に1本ずつ走らせたことが、国内外の鉄道に大きな衝撃を与えたのだといえる。

ムンバイーアフマダーバード間の高速鉄道も直行列車と各駅停車を1時間に1本ずつ走らせる予定で、2020年代後半にこのようなダイヤに触れたインド人が在来線にも同様のサーヴィスを求め出すのは2030年代になるのか。

現在、既存のシャタブディ=エクスプレスがヴァンデ=バラト=エクスプレスのすぐ前後を走るようなダイヤが各路線で組まれているが、これの時間を半日ずらしてシャタブディ=エクスプレスがヴァンデ=バラト=エクスプレスを補完するダイヤを組むだけでも随分改善されるはず。

まずは既存のリソースでできることからやってもらいたい。

また、いつまでも遅い列車が走っていることも速い列車が頻繁に走らせることができない理由であり、速度の底上げも必要。ダイヤの主役って実は一番遅い列車なんだよね。

おわりに

技術的には非常に高いヴァンデ=バラト=エクスプレスだけど、インドの線路は全然それに追いついてない、という状況。

とはいえ、2016年以降は次から次へと新しい列車が出てきて目まぐるしく変わりつつある。

インドの旅行の仕事してて一番楽しいのが、インフラがどんどんできていって交通が変わっていくことかもしれないよ。

そろそろ来年に向けて、客先営業が復活する予定だけど、この3年間のインフラの変化を伝えるだけでも長い話になってしまいそうだ。

だって3年前はJALもANAもまだ成田発着だったんだよ。

羽田発着になりまーす🧡って言いかけたところでドッカーンだったから。

それをまとめる作業も必要だな。

それじゃあバイバイナマステ💙🤍暑寒煮切でしたっ✨

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