エッヒミッヒ森へようこそ

〇ここは、エッヒミッヒ森の奥の奥。
ぺルータ峠からクルーオッシュの岩山を向きながら1000歩。
大きなリンゴのなる木を左手に曲がって500歩。
太陽の沈む方向に向かって200歩。
二本のナシの木がレオナート村の入り口です。

小さなライオンの子:「やあ、オオカミさん。」

オオカミ:「やあ、小さなライオンの子。」

小さなライオンの子:「昨日は滝のような雨でしたね。」

オオカミ:「そうさ酷い雨だった。君の小さなたてがみはビショビショになったろう。大変だったね。」

小さなライオンの子:「今朝にはすっかり乾いてたよ。ちょっと湿ってくるくるしてるけどね。」

オオカミ:「ははは、そのくらいが可愛くて似合ってるさ。」

小さなライオンの子:「大人は僕のたてがみのことをそうやってバカにするのさ。僕はもう、クルーオッシュの岩山を超えてどこへだって行けるよ。」

オオカミ:「いや、ごめん。しかし、君のたてがみはもうすっかり立派だよ。」

小さなライオンの子:「....。」

オオカミ:「社交辞令さ。」

小さなライオンの子:「どうも。」

小さなライオンの子:「ところでオオカミさんは、独り身?」

オオカミ:「そうさ。そして君もな。」

小さなライオンの子:「恋人はいたの?」

オオカミ:「いいや、片思いだった。」

小さなライオンの子:「あー.......。」

オオカミ:「はぁ…どうやったら、恋人ができるんだろうなぁ。」

小さなライオンの子:「うん、あのねオオカミさん。僕はね、恋人ってのは不経済だと思うんだ。」

オオカミ:「え?」

小さなライオンの子:「別にいなくたっていいじゃないか。愛の形は色々あるんだから。」

オオカミ:「どういうことだい?」

小さなライオンの子:「例えば、僕とお母さんの間に愛はあるし、僕と友達の間にだってあるよ。そして僕とオオカミさんの間にもね。身の回りの愛を見つけていくのさ。簡単だよ。そうすればもっと心は豊かになるよ。」

〇オオカミはしばらく黙っていました。そして、ゆっくりとうなずきながら言いました。

オオカミ:「語るじゃないか。」

小さなライオンの子:「気にしないで。」

〇この小さなライオンの子が、まだ恋を知らないことにオオカミはうすうす気づいていました。
自分がまだ恋を知らなかったときのことを、大人になった小さなライオンの子は憶えているでしょうか。
オオカミは、子供と大人の違いについて考えていました。
それはたとえば、何かを言いたいときに結果なんて考えないのが子供であるのに対して、結果だけをしっかり見据えてあとは知らない、と考えるのが大人のわがままなところだ、というのに似ています。

オオカミ:「さっきはバカにしてごめんよ。もしよかったら、またここで話せるかい?」

〇小さなライオンの子はひょいと肩をすくめて言いました。

小さなライオンの子「うん、晴れた日ならね。」

〇小さなライオンの子とオオカミは、こうして友達になったのでした。
さて、小さなライオンの子が恋に落ちるお話はまた別の機会にしましょう。
今日はここまで。
おやすみなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?