ひとつぶのラズベリー

我が家の庭が春を知らせてくれる。
ブルーベリーは日ごとに花を膨らませ、去年から植えっぱなしのチューリップの生命力には驚かされる。去年の冬から畑の隅っこで小さく縮こまっていたスナップえんどうもぐんぐんと大きくなり今の時期は唯一の収穫物。
冬の間はおとなしくしていた雑草たちも嬉しそうに太陽光を浴びている。夏になるととんでもなく凶暴になるのだけれど、雑草の成長でさえ微笑ましくなる春。

そして冬の間は枯れた枝になってもう死んでしまったのかと何度も心配させられるラズベリーも新芽を出し始めた。
庭の木々の世話は基本夫の仕事なのだけれど、ラズベリーだけは私がどうしても欲しいといって植えているので、私が世話をしている。
世話といってもとても強いので、ほぼほったらかしなのだけれど。

小さい頃近所にラズベリーを育てていた家があって、友達とこっそり赤く色づいたラズベリーを盗み喰いしていた。
そのひとつぶが美味しくて。それからずっと憧れていたラズベリー。
その家のおばちゃんと私の母が仲良くて「ラズベリーは小鳥より先にランドセルを背負った小鳥につつかれる」と言っていたそうだ。

大人になってたくさん実ったラズベリーはもちろん美味しいがあの頃食べた、禁断のひとつぶには到底叶わないことを知った。



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