Mother is a time traveler.

 駅から家への夜道。とても寒い。寒いのに薄着。母に今日は寒いよって言わたけど、ミニスカートで出かけた。手も足もとても冷たい。早く家に帰りたい。するともうすでにこたつにもぐり混んでいる私が「大丈夫、私はすでに暖かいところにいるよ」ともう一人の自分が話しかけてくる。「もう少しだよ。私がここで待っているから我慢してと」
 季節の変わり目には春が近づいて来て、夏には凶暴に育つ雑草が小さく芽吹いているのにも感動した翌日また冬に逆戻りなんてことがある。
一方方向にしか進まないはずの時間が逆流する。実際に逆流する。

娘は納豆が好き。娘以外この家族に納豆好きはいない。
息子も私も夫も食べられない。
姪っ子たちが納豆好きで、妹が小さい頃から納豆を食べさせるとみんな大好きになるよ、と娘が生まれる前に教えくれた。
息子はその時2歳半になっていてで納豆にチャレンジしてみたけれどチャレンジは失敗に終わった。
娘には離乳食が食べられるようになってから細かく刻んだ納豆を食べさせた。手でぐちゃぐちゃにしてもめげずに食べさせた。妹のアドバイスは正しく娘は納豆好きになった。
娘の定番の朝食は、卵焼きとおにぎりと納豆。ズボラな母を安心させてくれる朝食の内容である。

大学生の頃、女の子の友達と同居していた。
彼女は小柄で黒髪がつるつるな目のくりっとした誰にでも優しい美人だった。
そんな彼女の朝食の定番が納豆ご飯だった。
普段はコンタクトだけど、家では赤い縁のメガネをかけていた。そのメガネはなぜか老人の人がしているように、いつも少し前にずらしてかけていて、それがセクシーだった。
彼女は納豆を食べる時は肩まであるつるつるの髪の毛を一つに束ねていた。
私の実家の家族も誰も納豆を食べなかったので、朝から豪快に納豆をくるくる混ぜご飯の上に乗せて食べる姿に、衝撃と普段は少し頼りない彼女にたくましさを感じた。

朝食の納豆を食べる娘の髪の毛を一つに束ねながら、娘に女友達の姿を見る。
実家から離れて暮らして、お金がなくても納豆ご飯を朝から豪快に食べるたくましい娘の姿を。
私は自分の手を見る。しわしわになった手を想像する。私の手はまだシワシワでもピチピチでもなかった。

未来の私が語りかける。
「私はいつもあなたをここで待ってる」と。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?