いつの間にか咲いて散る

私は好きな人になかなか出会えない。そのくせ、好きになる時はたった数時間話しただけでも好きになってしまうし、どれだけ時間が経っても思い出してしまう。

鼻が好き、声のトーンが好き、テンポが好き、少ない言葉でもたくさん受け取ってくれるのかな、優しい言い方だな、あっその曲私も好き、エスカレーターで目線が合った、システム手帳使ってるんだ、別れ際の改札前でちょっと話してくれるんだ、顔近いな

何でもないことがどうしようもなく愛おしくなって、もっと見ていたいなと思う。だけどテレビやYouTubeとは違い、視聴するにはこちらも視聴されなければいけない。また会いたいなと思ってもらわないといけない。

「空いているときがあったらまた教えてください」と送ったら返事がこなくなった。友達は「それでは余裕を与えるから、いつ空いてますか？って聞かなきゃダメだよ」と教えてくれたけど、なるべくプレッシャーを与えないように、ストレスなく断れるように、私はそういう言い方しかできない。

それなのに気にしない強さはないから、既読がついたか確認してしまうし、アプリのログイン履歴だって見てしまう、我慢できずに足跡も残してしまう。そのほうがよっぽどストレスを与えるだろうに…。

お仕事忙しいかなとか、今はやっぱり出会いを求める気分じゃないのかなとか、でもアプリはログインしてるもんなとか。

あの時もっと深く話を聞くべきだったなとか、あの言い方じゃ失礼に伝わってしまってたかなとか、無理して笑わせていたのかなとか。

そんな、考えても仕方がないし、だからといってぶつけるわけにもいかないことばかりがグルグルしている間に花が咲いた。

数日前には硬そうにしていた蕾が、雨にも負けず満開になった。3月は忙しそうなので、4月になったらお花見に行きたいと誘ったまま、日にちも決まっていなかった。それでもやっぱり綺麗だった。

何度も繰り返し、毎回自分には無理なのだと思い知らされるのに、素敵な人を求めてしまう。素敵な人の隣でないと、世界の中で頑張れない。

とっくに死んでいてもおかしくないのに、優しい世界が許してくれない。幸せになることだけが正しい美しい世界。

桜じゃなくても、ハナミズキでもツツジでもサルスベリでもいい。花はなくてもいい。コーヒーもお酒もいらない。LINEだってできなくていい。また会えたらいいのに。そしたらちょっと、幸せになれると思う。

そんな素敵な人だから、穏やかで、健やかで、幸せでいてほしいなと思う。