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本屋、変身する

去年、秋の入口の風が吹く9月に『曲線』という本屋をオープンした。
3年にも5年にも感じるほど、ハードモードな一年であった。
わたしの顔もずいぶん渋くなったかもしれない。

ジョセフ・コーネルの展覧会を見に行った時のこと。
緑豊かなその美術館の庭園でひと休みしていると、手のひらほどもある極彩色のムカデのような虫がカサカサと歩いている。
しばらく見ていると、少しずつ、でもずんずん進んでいく。
野原の端っこまでいくのだろうか。丸一日かけて?
端っこまでついたら次は何をするのだろうか。
寝て起きて毎日本屋を開ける、それでせいいっぱいのわたしの日常は、野原を端から端まで歩いて食べることに一日を(あるいは生涯を)費やすその虫の日常と、よく似ていた。

自分の速度が、エネルギーにあふれた周囲のスピードに飲み込まれそうに感じるとき、ジェンダーや年齢や見た目によって悔しい思いを繰り返すとき、それから、未だ虫を脱せないでいる自分を思うとき、本のページをめくる手に少しだけ力がこもる。そこに答えをさがすように。

生活は続く、闘いもつづく。
苦悩や喜びや悲しみは、これからも止めどなく寄せては返すだろう。
その時にも、本がそばにあったらうれしいと思う。

明日から2年目がはじまります。
張り切って、すすめ!

いつも支えてくれる出版社のみなさん、八幡商店会のみなさん、同業のみなさん、毎日の出来事を聞いてくれる家族や友人、こんなにひっそりしている本屋に通ってくれるみなさんに、こころから感謝を申し上げたい。


画像:北園克衛「白のアルバム」図形説より  活版にて制作された "貴婦人"
     (残暑厳しい日に素敵な紳士からいただいた)
   


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国道48号線沿いの小路を曲がると見える、紺色の建物の本屋〈曲線〉です。 https://kyoku-sen.com
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