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専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(8)子世代が物心ついてからの親世代の入信

ここまでは子世代が物心つく前に親世代がカルト性の高い教えに染まっているモデルを示しました。

しかし、2022年7月に起きた元首相襲撃事件の犯人は、中学生のとき、母親が統一教会に入信したと言われています。二世と呼ばれる人々の中には、子世代がある程度成長してから親世代が入信する例もあります。発達理論を踏まえた専門家の皆さんは容易に想像がつくと思いますが、物心つく前から教えの下で育てられる子世代と、そうではない子世代とで影響に差が出ることのは当然のことです。

カルトの花嫁の著者・ 冠木結心(かぶらぎ・けいこ)さんも物心ついてから母親が統一教会に入信した一人です。元首相襲撃事件の犯人に、一時期でも信じていた時期があったかは明らかにされていませんが、冠木さんは母親の勧めで教義を学び、懸命に信じた結果、人生の選択肢を奪われることになりました。それでも、そこから離れようと思えるまでは自身の信仰が足らぬためと自身に鞭打つ生活が続きました。

ご想像の通り、物心ついてから親世代が入信する場合も、二世への教えの影響とその後については拡がりがあります。最初から信じなかった、信じたが離れた、現在も信じているといった分類も出来ますし、親の変化を見届けている場合、それに子である自分がどう反応したかの細かなプロセスにも差異がある可能性があります。さらに、親世代の双方ともが信じたのか、どちらかだけなのかなどによって夫婦関係に影響が出るので、子世代にも当然波及します。統一教会のように経済的、行動的なコミットメントを求める傾向が強い団体で家族一人が熱心に取り組むと、多くの場合、他の家族との間に摩擦が生じます。その環境で子世代が育つこと自体が過酷ですし、それまで通じ合えていた家族が変わってしまったことに大きなショックを受けることもよくあります。特にカルト性が高い団体に熱心に関わるようになると、家族よりも団体の教えが大事になるので諭しても家族の言い分は聞き入れず、他の家族としては、その家族を喪失してしまったかのような思いを抱きます。子世代はそのような環境で生き抜くことになります。

冠木さんのように、他の家族が理解しなくても、自分だけは母親を理解してあげたいと信仰に向かっていく場合もありますし、もう一人の親と子世代で信じた親を何とか団体から離そうと画策することもあります。後者の場合、家族が入信を心配して相談するといったカルト問題と呼ばれるケースに限りなく近くなります。元々カルト問題の相談は入った当事者ではなく、入られた周囲の家族、関係者が困って相談するものでした。かつて統一教会は若い世代を多く勧誘したので、心配した親世代が相談に行きましたし、エホバの証人では家庭に訪問伝道した際、在宅していた主婦層が勧誘されていきましたから、夫が困って相談に行っていたのです。現在の”宗教二世”の定義がどうであれ、元々は入信することで関係性が変わってしまった当事者を心配し、相談する(事例化する)段取りを踏んでいたというのが問題の出発点にあります。

この入信による周囲との摩擦はカルト性の高い団体以外でも起こるのですが、変化や摩擦の内容を吟味することで、元々のその団体の問題性が絞り込めます。献金をするかしないか、宗教的行動を取るか否かは是々非々の問題ではありません。その程度が一般的な水準を逸脱しているときに団体の問題性が顕わになります。カルト問題に取り組む人々はこの現象にとても敏感でした。

他方、物心つく前に親世代を通じて信じる二世は、この感覚がわかりにくいようです。生まれたときから当たり前の環境だったのですから当然です。親世代は自分から進んで信じたと考えています。知識を得る機会でもなければ、巧みな誘導があって信じたとは思いもしません。だから、親の志向は最初からこうだったのだと推論する傾向があります。

従って、二世といっても最初から親世代が信じていた当事者と途中から信じた当事者との間には、実は結構な認識の差が生じます。これは兄弟姉妹間で起こることもあります。長子は信じる前の親を知っているが、末子は知らないといった差です。それによって同胞間の意見の違い、葛藤が生じることもあります。

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