親子喧嘩にならない作文の教え方
みなさん、こんにちは。
作文講師のかんのきょうこです。
作文指導に携わって16年になります。
そのあいだ、保護者の方からも様々なご質問をいただきました。
ご質問の中でも特に多いのが、
「家で私が教えると、絶対にケンカになっちゃうんです。どうしたらいいんでしょうか?」
というご質問。
実際に、多くの親御さんが、同じような状況に陥っているのではないでしょうか。
多くの学校において、子どもたちは作文の書き方を習いません。教えてもらわないのに、日記や作文の宿題が出される子も多いようです。また、遠足や発表会、運動会などの行事のあとも、作文を書くことが多いですね。
どうやって書いたらよいのかわからない……頭を抱えるわが子に、なんとか教えてあげようと思うのは親としてあたりまえの心理です。
でも、どうもうまくいかない。思うように書けないわが子にイライラして、つい怒鳴ってしまうというお悩みの相談が尽きません。
これは辛いですよね。
親御さんも辛いですが、お子さんにとっても嫌な時間になります。トラウマになり、作文に苦手意識を持つ原因になることも。
作文嫌いの大人の多くが、親に怒られながら書いた苦い思い出を持つのではないでしょうか。思いあたる方、いらっしゃいませんか?
私のところで学んでいる生徒さんの中にも、親が教えるとケンカになってしまうという理由でいらっしゃる方が少なくありません。
作文ってどう書くの?
何を書いていいかさっぱりわからない。
作文用紙を前にして、固まってしまう子もいます。
そんな子も、ある方法で導いてあげると、意外なほどするすると書くことができるのです。
今回は、私が実際に、指導時に実践している方法をお伝えしたいと思います。
苦痛な作文の時間を少しでも改善したい! そう思われる方にぜひ読んでいただきたいと思います。
お子さんは、作文に対してどんな気持ちを抱いているでしょうか?
ためしに聞いてみてください。
いや
きらい
やりたくない
もしも、そんな言葉が返ってきたら……
まずは、おやつでも食べて、楽しくリラックスした雰囲気にしましょう。
それほど苦手な子ではない場合も同様です。
なぜ? 作文を書くのにおやつだなんて、どういうこと?
そう思われましたか?
では、その答えから、説明していきますね。
親子ともにリラックスが必要なのは、親御さんには、イライラしないよう一息ついてもらうため、また、お子さんには、心を開いてもらうためです。
気持ちよくスタートを切るのは意外と大事です。
特に、作文によい思い出のないお子さんにとっては、嫌な時間が始まるかもしれないと、どうしても身構えてしまうのです。嫌だなという思いは、もちろん態度に出ます。すると、それを見た親御さんも、我慢しようと思っていたイライラが顔を出してしまいます。
これでは、今までの「作文の時間=親子ゲンカの時間」から抜け出すことはできません。
ですから、まずは、リラックスできる雰囲気づくりからはじめましょう。
そして、親御さんはつぎの2点を決して忘れないようにしてください。
それは、
時間に余裕があるときに取り組むこと
決してダメ出ししたり、イライラしたり、表情を曇らせたりしないこと
です。
次になにか予定があったり、やらなくてはならないことがある場合、どうしても気持ちに余裕がなくなります。ゆったりとした気持ちで待つことができず、早くしなさいと急かすことになってしまいます。
また、ダメ出ししたり、イライラしたり、「早くして」「どうしてそのくらいのことが書けないの?」というマイナスな感情は、口に出さずとも表情に出てしまうもの。親御さんの感情の動きを、お子さんは敏感に察知します。
すると、心を閉ざしてしまい、書くための情報を話してくれません。
作文を書く前段階のお話になりますが、こうした雰囲気作りは、スムーズに書いていくためにはとても大切なことなのです。
さあ、コンディションが整ったら始めましょうか。
まず、取り組んでいただきたいのは、おしゃべりです。
緊張をほぐすように、明るく優しく、そして軽く、おしゃべりしましょう。
勉強という堅苦しさを感じさせないのがコツです。
テーマが決まっていれば、そのテーマについて。
日記のように、特にテーマが決まっていない場合は、書くことを絞るためにおしゃべりします。
え⁉
おしゃべりだなんて、コツでもなんでもないじゃない? と思わないでくださいね。
このおしゃべりは、お子さんが話したいことを話すために行います。
話したいことを話す。
当たり前のようですが、実は、意外とできていないのです。
大人もそうですよね。相手の状況を判断したり、場の雰囲気を読んだり、話したいことを曲げてしまったり、言葉を飲んでしまったりしていないでしょうか。
お子さんは、親の様子をとてもよく伺っています。親が忙しそうだったり、機嫌が悪かったりすると、つい遠慮してしまって言えないこともあります。
だからこそ、この時間は、話したいことを気兼ねなく話すことができるようにしてほしいのです。
話したいことはもちろん、じょうずに対話をすることで、まだ気付いていない思いや、忘れていた体験まで引き出すことができます。そういう小さな出来事が、作文のよいネタになってくるのです。
おしゃべりの大切さ、ご理解いただけましたか?
では、具体的にどのようなおしゃべりをしていったらよいかをお伝えします。
お子さんになにか問いかけるとき。
親御さんがやってしまいがちなミスは、
「どうだった?」
と聞くこと。
「学校どうだった?」
「遠足どうだった?」
という具合に。
「どうだった?」
と問いかけられたとき、子どもたちのリアクションは一般的に薄くなる傾向があります。
じゃあどうするかというと……
絶対に答えられる質問から問いかけていくのがポイントになります。
YesかNoかで答えてもらう質問ですね。
「どうだった?」
と聞くのなら、
「楽しかった?」
の方がよいわけです。
「楽しかったよ」
という答えが得られたら、
「へえ~、楽しかったんだ。それはよかったね。じゃあさ、いちばん楽しかったのは何だったか、教えて。」
というように、さらに答えてもらうことが可能です。
つぎの流れとしては、いちばん楽しかったのが〇〇について、さらに質問していきます。
質問といっても、軽やかに。問い詰めるような質問は厳禁ですよ!
いちばん楽しかったのが〇〇だと答えてくれたら、今度は、〇〇について、YesかNoかで答えられる質問を問いかけます。
中には、YesでもNodeでもなく、「おぼえてない」「忘れちゃった」という答えもあります。その場合は、さらっとスルーして、他の話題に移るのがコツです。
「なんでおぼえてないの?」
と問い詰めると、険悪なムードになりかねません。
このおしゃべりの目的、覚えていらっしゃいますか?
そうです。お子さんが、話したいことを話すためのおしゃべりです。
険悪なムードになると、この目的が達成できないのです。
話を元に戻しますね。
これを繰り返していくと、お子さんが、質問されたこと以上に話し始めるトピックに当たります。
たとえば、町探検で、
公園
商店街
消防署
警察署
に行ったとします。どの質問にもYesかNoかでしか答えなかったのに、急に、
「消防車はね、〇〇をやったんだよ!」
などと、質問を遮って話し始めるという状態です。
この場合、消防署は、印象に残っている場所だと考えられますので、消防署についての質問を多くしてみるとよいですね。ただし、話してくれることだけでよいです。前述のとおり、反応の薄い答えを突き詰める必要はありません。
さて、おしゃべりの中から、お子さんの食いつきがよい話題と、反対に反応が薄い話題とが選別されたと思います。
このあたりに来てはじめて、作文用紙を出してみましょう。
まだ書きませんよ。
その前に、あとひとつ、作業を行います。
メモをご用意ください。
ノートでも、なにかの裏紙でも構いません。
そこで、お子さんの反応がよかった話題について、もう少し掘り下げてみましょう。
先ほどのおしゃべりの内容をもとに、さらに質問を繰り返していきます。
消防署でやったことや、考えたことなど。
この質問のやりとりをメモしていきましょう。
中には、何を言っているのかわからない子もいます。わからない点を質問、またわからない点を質問という形で、順を追って話している内容を理解するよう努めてください。
とにかく、
「何言ってるかわかんない」「わかるように説明して」
と急かすことはやめましょう。
お子さんの話から、つぎのような情報を拾うことができたとしましょう。
ここまでできたら、いよいよ書いていきます。
低学年の場合でも、自力で書ける子と、全く書けない子がいます。
自力で書ける子向けと、手助けが必要な子向けの2つのパターンで考えてみます。
【手助けが必要なパターン】
苦手な子の場合、作文用紙を前にして、
「何から書いていけばいいの?」
となるでしょう。そのときは、優しく教えてあげてください。
ひらがなにしてもカタカナにしても、お手本があります。ところが、作文には、お手本がありません。ですから、低学年の子にとって、お手本のない作文を書くことは、とてもハードルが高いのです。
その点を、親御さんには理解したうえで取り組んでいただけたらと思います。
低学年の場合、書き出しは、
「いつ、どこで、だれと、なにをしました」
という一般的なものでかまいません。
たとえば、
「月曜日に、学校の町探検で、消防署に行きました。」
というものでOKです。
そのあとで、おしゃべりをもとにメモした内容を付け加えていきます。
苦手な子は、ある程度、親御さんの導きが必要です。一文書いては、つぎはどうするの?と尋ねてくると思います。イライラせずに付き合ってあげましょう。
この積み重ねで、どのように書いていけばよいのかを理解していきます。
月曜日に、学校の町探検で、消防署に行きました。
ぼくのグループは、〇〇ちゃんと〇〇ちゃんと、ぼくの3人です。
消防署で、消火器体験をやりました。消火器は、思っていたよりも重くありませんでした。安全ピンをぬくのが難しかったです。
ぼくは、まるで消防士さんのように消火器をつかいました。
「すごいね、じょうずだね」
と、消防士さんがほめてくれました。うれしかったです。
また消火器を使ってみたいなと思いました。
【自力で書ける場合】
本人が自力で書ける場合は、このメモをもとに書かせてみましょう。
メモをもとに、ある程度の構成を、話して聞かせてあげるとよいでしょう。
創作の物語を語り聞かせるような感じで、全体像を先にイメージさせてあげます。
低学年では、まだ構成を考える力はさほどついていないため、書きながら思いついたことを次々書いていく手法になってしまいます。全体像をみせてあげることで、お手本になる書き方をイメージすることができるのです。
書きあがった作文を読むと、メモに書いたことを書き漏らしてしまうことも多いですが、大目に見てあげてください。書き上げたあとで、本人が書き漏らしたことに気付き、手直しする意欲があるときのみ、書き直させましょう。
本人が気付かなかった場合、さらりと「この話題入れるの忘れちゃったね」と伝えるのみで構いません。
いかがでしょうか。
この手順は、私が実際に低学年の生徒さんに指導している内容そのものです。
まずは書けそうなことを決めるために、じっくり話を聞く。
そして、書く話題が定まったら、さらに深く内容を掘っていく。
そして、書き方のお手本をイメージできるよう話して聞かせ、作文に取り組む。
このような流れになります。
見てあげるときに一番大切なことは、否定しないこと。
何を言っても大丈夫、何を書いても大丈夫
そんな安心に支えられて、自分を表現する力は育っていきます。
どうか、焦らずに見守ってあげてください。
また、書く力をつけるためには、読書や会話を通してさまざまな言葉や文章に触れることも欠かせません。
読む力、書く力、話す力をそれぞれ十分に育てていきましょう。
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