TAXI

我が家は、タクシーで行き先を伝える時に
ちょっと説明がしにくいんです

だから○○ホテルの近くまでお願いします
っていうと、
○○ホテルでいいんですか？
って聞かれるので
あ、その近くなんです
って伝えて、自宅に近づいたら、細かい道案内をするんだけど・・・

今日の運転手さんは
その近くなんですって伝えたら
首を傾げて、明らかに不満そうな態度を取ったのでした

行き先を最初に明確に知っておきたかったのかもしれません

近くになったら、また案内しますね
って伝えたけど、車内はなんとなくしょっぱい空気

別にこの先二度と会わないかもしれない人だからね
このままでも良かったんだけどね

目の前の人を大切にしたいなってなんとなく感じたのです、その時にね

それで、左の手首につけている数珠のようなブレスレットが気になっていたので

あの・・・それパワーストーンですか？

って聞いたら

は？って言われて

いえ、その、左手のね
それ、パワーストーンなんですか？

ってもう一度聞いたら、

いやちょっとよくわからないんだけど
ってやっぱりしょっぱい答え

声かけなきゃ良かったかなって一瞬思ったんだけど
運転手さんは、しばらく間をあけて話し始めました

これね
息子の形見なんですよ

え？息子さん？？

そう

大変なことですわ
35歳で亡くなってね
個人タクやってたんだけどね
子供はもうハタチですわ

ぽつりぽつりと話し始めたその一言一言が
車内に静かに沈んでいく感じ

大変なことですわ

その一言に尽きるのだと思う

自分と同じ仕事をしていた35歳の息子さん
ハタチになった子供の姿、見たかっただろうなぁ

十三回忌を迎えるのだそうです

愛想が悪い人だなって思ったけれど
そんなふうに身の上話をぽつりぽつりと打ち明けてくれた後ろ姿は
あまりにもか弱くて、切なくて、愛おしくて

人ってこんなふうに
一見無愛想だとしても
ただ愛想が悪いわけではなくって
他の人には話せない重たい荷物を背負って
声にならない叫びをあげていたり
人知れず涙を流していたり
その人しか知らない物語を心の奥底に抱えているのかも

車を降りる間際に
息子さん、お父様の頑張ってる姿見て誇らしいですね
って伝えたら
初めて声を出して笑ってくれました

お釣りの300円は
「いりません」
ってそっと伝えてみました

話してくれてありがとう
あなたの心の小さな明かりを
私は灯すことができたのかなぁ