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スマホ時代に、トレインマークをもう一度

トレインマークのポテンシャル

最近あらためて「トレインマーク」が熱い!と感じている。「天空ノ鉄道物語」という展覧会でも、歴代の様々な特急列車やブルートレインのトレインマークが会場で存在感を放っていたし、鉄道グッズの重要なモチーフとして目にする機会がふえてきた。列車の愛称(例えば「北斗星」や「踊り子」など)がイラストやイメージとの組み合わせで表現されるトレインマークは、一瞬でその列車と分かる印象的なデザインはもちろん、形状の面でも機関車用には円形、電車や客車用には長方形といったバリエーションがあり、様々なグッズに展開できるポテンシャルが高い。何より、その列車に乗った経験のある人は、このマークによって「あの時の、あの旅行」の記憶が呼びさまされるに違いない。
ただし、いま展覧会や鉄道グッズのかたちで人気を集めるトレインマークは、その多くが過去に走っていた列車のものだ。最近の新しい列車にはトレインマークがほとんど存在しない(かつてトレインマークを掲げた特急列車は、新幹線に役割を譲るなどして引退した列車も多い)。

列車の旅の「アイコン」だった

ところで、私たちが肌身離さず持っているスマートフォンの画面には、LINEやFacebook、インスタなど様々なアプリの「アイコン」が並んでいる。アイコンは、その機能やサービスが小さな正方形のかたちで象徴的に(アイコニックに)表現されたものだ。それ自体が意識的に鑑賞されるものではないが、私たちの潜在意識にアプリの世界観を印象づけている。
そしてトレインマークも、そのような種類のものだったと思う。それは単に乗客へ列車名を案内する機能的な役割を超えて、乗車前の期待値の醸成や、乗車体験を思い出として印象づける情緒的な価値を持ったしかけなのだ。
ここからは単に私の妄想なのだが、もしもトレインマークが全盛の時代(1980年代なのだろうか)と、現在のようにスマホなど様々なデジタルの「スクリーン」に囲まれて生活する時代が同時期であったなら、トレインマークには、より多くの露出の機会があり、列車に乗るという体験を印象づけるための重要な役割を果たすことができたに違いない。

スクリーンに囲まれる時代は、もう一度ビジュアルが必要な時代

  たとえば、旅の計画や予約はスマホから始まることが多いが、列車の座席予約などの事務的な画面も、トレインマークが入るなど、もう少し艶っぽくなってほしい。また、すでに主要な駅で普及しはじめているデジタルサイネージなど駅の構内やホームにもスクリーンはふえていく。特急列車の車内にはすでにLEDの情報案内装置が存在しているが、これもフルカラーで動画を表現できるリッチなスクリーンに置き換わっていくはずだ。
このようにスマホから列車まで、旅行の動線にある様々なスクリーンに、トレインマークが様々なかたちで展開されたら、列車の体験が印象的なものになりそうな予感がする。そのときは、トレインマークも動いてほしい(誰か「北斗星」のモーションデザインをつくって欲しい!)。

デジタル技術は、切符などリアルに存在するものをどんどん消していく。それによって、みどりの窓口で長蛇の列に並ぶことなど、面倒な手続きが無くなっていくのはいいことだ。
そして、そのような効率化やコスト削減の先に、こんどは私たちの「列車の旅という体験」をより豊かに、印象深いものにするための「しかけ」をデザインできる時代がくるならば、トレインマークのような「列車を象徴するビジュアル」がもう一度、重要な役割を果たすのかもしれない。

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