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いま、映画はいかに観られているのか。

「ヒッチコック5%問題」「『サイコ』3%問題」

東京大学で青山真治が映画の講義をした2005年、アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』を観たことがあるかと学生に問うたときに2割しかいなかった、いわゆる「『サイコ』20%問題」というものがある。これを受けて2022年に僕が勤めている東京工業大学大学院の授業でアンケートをとった。「ヒッチコック映画を観たことがある?」と質問したところ、「ある」は5%だった。ちなみに「ヒッチコックという名前を聞いたことがある?」という質問への回答は39%が「ある」。映像メディアに興味がある学生が履修している表象文化論という講義で、159名が回答してくれた。僕は以前これを「ヒッチコック5%問題」と名付けた。

学部生の講義でも同年、映像表現を分析する表象文化論という講義でアンケートをとったことがある。167名が回答し、「ヒッチコック映画を観たことがあるか?」は「ある」が5%、「『サイコ』を観たことがあるか?」は「ある」が3%という結果。「ヒッチコック5%問題」に加えて、「『サイコ』3%問題」が浮上した。もちろん東大(文系)と東工大(理工系)では差が多少でるだろう。とはいえ、2005年から15年以上が経ち、「ヒッチコック5%問題」「『サイコ』3%問題」というのは、考えてみるに値する問題だ。

データから見る若者の映像文化

ヒッチコックが映画学において象徴的な名前なのはいうまでもないが、日本の映画監督でも聞いてみようと思い、いろいろな視聴メディアや視聴の仕方も含めてアンケートをとった。実はこういうデータは2018年からずっととっているのだが、今回は2024年に実施した最新のものを紹介したい。東工大だけだとサンプルに偏りが生じるため、同じ質問項目で別の大学でも実施してみた。理工系の学生が集まる東工大の「表象文化論」と、「映画研究」を担当している非常勤先の専修大学での結果を比較してみよう。どちらも大教室で大人数が履修する講義なので比較しやすい。東工大は170名、専修大は181名とほぼサンプルサイズは同じだ。アンケートはGoogleフォームを使った。

【質問①】映画を見る時、もっとも利用するものは何か?

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

単一回答で映画を何で観るかという質問の答えは、ほぼ変わらず動画配信が6〜7割と強い。次に映画館だ。もう若者にとって、DVDをレンタルしたり購入したりして映画を観る時代ではない。

【質問②】映画の視聴方法でもっとも多いものは何か?

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

かなり分散しているが、専修大のパソコンは10.4%、タブレットは6.6%という結果。顕著な違いとしては、パソコンで映画を観ている東工大生が25.9%と多いのに対して、専修大生は10.4%とかなり差がある点だ。東工大生PC好き…。わかる気がする。

【質問③】映画館にどのくらいの頻度で行くか?

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

この質問に関して、両大学に大きな差異は認められないが、とにかく映画館離れが激しいということがわかる。約7割が1年に1回、半年に1回、2〜3ヶ月に1回しか映画館に行っていない。これはおそらく多くの若者の傾向とあまり変わらないのではないかと思う。

【質問④】動画視聴で早回しをするか?

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

専修大の「いつもする」は5%、「かなりする」は6.1%だ。これはやる前から予想していた。つまり東工大生は早回しする人が多い気がしていたのだ(笑)なぜかというと、東工大生だからだ。「しない」の割合にかなり差がある。専修大生は「しない」が43.1%なのに対して、東工大生は27.1%。専修大生は「いつもする」「かなりする」をあわせて約10%なのに対して、東工大生は約25%という差が見出される。興味深い。

【質問⑤】どのように動画を早く見るか?

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

これも面白い結果だと思う。質問④とも関連しているが、東工大生は「通常の再生以外しない」という人は24.1%で、専修大生は39.8%と開きがある。目立つのは東工大生が倍速視聴の割合が大きく31.2%なのに対して、専修大生は19.9%となった。個人的には飛ばし見って何のためにするのかよくわからないのと、早く見るモードの中で、倍速視聴がもっとも罪深い行為だと思っています。なぜなら、人よりも多くの情報を早く効率的に取り込もうという欲望なので…(冗談です……)。実際、僕は何も批判的に思っていなくて、それぞれ好きに視聴したらいいと思っていますよ、マジで(僕はしないけど)。さて、次。

【質問⑥】日本映画の巨匠で聞いたことがある監督は?

冒頭の「ヒッチコック5%問題」の日本映画版。

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

黒澤明の圧倒的知名度!これは複数回答なので、知っている監督名はすべてチェックしてもらっている。やはり小津・黒澤・溝口の3大巨匠は上位を占めた。「誰も聞いたことがない」は2倍の差が見られる。さすが文学部。この質問は例年ほとんど変わらない。

【質問⑦】日本映画の巨匠で作品を観たことがある監督は?

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

この質問の結果もほぼ同じ。「誰も観たことがない(わからない)」が65〜70%いて映画研究者/批評家としてはショック…。古典はほとんど観られなくなっているのだろう。最後の質問は以下。

【質問⑧】国民的アニメーション作家は誰か?

東工大でのアンケート
専修大でのアンケート

単一回答で一人のアニメーション監督を選んでもらった。宮崎駿以外、数値がわからないので以下に列挙しておこう。

【東工大】
①宮崎駿:84.7%
②新海誠:5.9%
③庵野秀明:4.1%
④細田守:1.8%
④大友克洋:1.8%
⑤湯浅政明:1.2%
⑥高畑勲:0.6%
⑦押井守:0%
⑦今敏:0%
⑦山田尚子:0%

【専修大】
①宮崎駿:85.6%
②新海誠:4.4%
③細田守:3.9%
④庵野秀明:2.2%
⑤高畑勲:2.2%
⑥今敏:1.7%
⑦湯浅政明:1.2%
⑧大友克洋:0%
⑧押井守:0%
⑧山田尚子:0%

宮崎駿の圧倒的存在感!ただし、この結果は2023年に10年ぶりとなる『君たちはどう生きるか』が公開されたことが大きいと思われる。アカデミー賞で長編アニメーション映画賞を受賞ほか、多くの賞に輝き、話題になったことも影響を及ぼしているだろう。というのも、たとえば2022年に東工大でとったアンケート結果では宮崎駿と答えた人は62%、新海誠が20%、細田守が13%で、票が少し新海・細田に動いていたからだ。『君の名は。』の世界的ヒットという快挙、続く『天気の子』『すずめの戸締まり』と話題作をきっちり3年おきに作っていた新海誠の活躍が目覚ましかった。だが、宮さん再び躍進。大巨匠の面目躍如!

日本を代表するアニメーション作家に関するこの質問の結果は、世代によってかなり異なるものとなるだろう。僕らの世代(1982年生まれ)にとって、高畑勲や押井守の存在はきわめて大きかったし、若くして亡くなってしまった今敏も、生きていたら間違いなく日本を代表する作家になっていた。ということで、最初の「ヒッチコック5%問題」「『サイコ』3%問題」になぞらえていうならば、日本映画の巨匠でもっとも知名度の高い黒澤明の映画を観たことがあると答えたのは、約30%であり、現時点では以下のように提起しておきたい。

黒澤明30%問題

おそらくこの割合はどんどん減っていくことになるだろう。
皆んな、古典映画を見よう。

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