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継続するコツ  第0回 はじめに



 はじめに


 こんにちは、僕は坂口恭平といいます。
 この本では、名前の通り、継続するコツのことをこれから少しずつ書いていきたいと思います。
 さっそくですが、みなさん、継続することは得意ですか? 得意な人はこの本は手に取っていないと思いますから、おそらくちょっと苦手ですよね。
 一方、僕は継続することがむちゃくちゃ得意です。なんか自慢みたいで申し訳ありません。でもその代わりと言ってはなんですが、別に質が良いわけではないと思います。
「質より量」ってことですね。だから僕は作家として本を書いてますが、たいして評価されていません。ベストセラーになる本を書いたこともありません。まあ二流の作家ということです。特に賞などをもらったこともありませんから、二流ですらないのかもしれません。作家であるとすら思われていないかもしれません。
 でも、そんなことどうでもいいのです。僕の目的は世界中で読まれるような傑作を一冊書いて成功することではありません。下手だと言われようがなんだろうが、とにかく本を書くことが好きだから、死ぬまで本を書き続けることができたら、もうそれだけで幸せなのです。
 そして、今も、僕はこの本を書くことができてます。つまり、ずっと継続できているんですね。
 2004年に生まれて初めて本を出版しました。それ以降、今日まで18年ずっと書き続けてきてます。文庫本も入れると、この18年間で40冊以上も書いてきました。
 売れてもないのに、です。僕の結論は売れようが売れまいが実はたいして関係がありません。問題はそこではありません。
 大事なことは、次の本を書くことができるかどうか、だけです。つまり、継続できるかどうか、だけ。
 多くの人は、何かをやろうとして、手をつけはじめて、無事に完成することができたとしても、それが売れないだとか、人から評価されないだとか、そういった不遇を味わい、自信を失い、徒労感ばかりを感じるようになり、いずれはやめてしまうようです。僕は2011年から、いのっちの電話と称して、死にたい人からの電話を受け続けているのですが、そこでこういった話をよく聞きます。本を書いたり、絵を描いたり、音楽をやっていたり、みんなそれぞれに自分が得意なことをやっていたのですが、結果が思わしくないことで、落ち込んだりして、やめてしまっているのです。僕はいつももったいない!と思ってしまいます。だって、作っている時の方が楽しいですもん。昔、やってたけどやめてしまったという人にそのことを聞いても、みんな、その頃の方が楽しかったと言います。
 つまり、何かを継続している時の方が、楽しいんです。
 この馬鹿みたいな単純なことに、僕は気づいたんです。発見したというほど大袈裟なことではないのかもしれませんが、僕にとってそれはとても大きな発見でした。
 
 継続することが幸福ということなのではないか。

 このことに気づいたんです。確かに、僕は今、じんわりとですが、幸福を感じてます。しかも、継続してますから、その幸福がじんわりとですがジーンと長く続いているんですね。
 幸せとは何か? 
 これは生きている人間が全て気にしている命題だと思うのですが、僕なら「幸せとは、自分が興味があることを今も継続できていることである」と言うでしょう。
 継続は人との比較を無効化します。継続は自分が好きなことをまたもう少しだけ好きになること、興味があることをまたもう少しだけ興味を広げることにつながります。
 なんか気持ちよさそうじゃないですか? 実際、継続はとても気持ちがいいです。
 でも継続こそが一番難しいと思っている方も多いようなんです。電話で聞く限り僕はそう感じました。
 でも嫌なことをずっとやるより、少しでも興味があることを継続する方が楽しくないですか? これは当たり前にわかりますよね。
 人生は1日1日が継続していくわけですから、やっぱり、毎日の生活は自分が興味を持っていることを継続していく方が楽しいに決まってます。
 でもなぜか難しいと思われている。僕はこれは誤解されていると思ってます。そこでこの本でその誤解を解きたいんです。

 まずは自己紹介からはじめましょう。
 僕は、1978年生まれの43歳の男です。株式会社ことりえという自分一人で作った会社の社長をやってます。
 仕事内容は、僕が継続していること全ての制作・販売です。何を作っているのか。
 まずは先ほどお伝えしましたように、作家として本を書いてます。これまでに40冊ほどの本を出版してきました。今年は英訳本も出ます。英語以外に中国語、韓国語、台湾語、フランス語に翻訳されたこともあります。一番売れた本は2012年に出した『独立国家のつくりかた』という本で、これだけは意外と売れまして、6万部くらい売れました。とは言っても、印税は10%ですから、800円の本一冊売れたら80円僕の手元に入るのですが、6万部で480万円です。売れても、こんなもんです。一年かけて書いてますから、あ、売れてもこんな感じなんだあと僕も思ったくらいです。それ以外の本は売れても2万部いかないくらいです。たいした作家ではありません。でも、本を書くことが好きですので、毎日どんどん書いてます。毎日10枚書いてますから、年間3600枚ほどの原稿を書いてます。実際はもっと書いてます。何千枚も書いて、本になるのは、年間3冊から5冊くらいです。つまり、ほとんどの原稿は本にすらなっていません。ただ眠っているだけです。でもいいんです。書くことが好きだってことです。何千枚も書くことができます。売れてませんから、内容もたいしたことはありません。でも、どんどん書くことができます。それだけが僕の取り柄です。
 さらに僕は画家として絵を描いてます。僕はパステルという画材を使って、自分の家の周辺の風景を描いてます。誰から教わったわけでもなく、突然、興味を持ったので、描き始めました。描いていると楽しいので、毎日1枚は必ず描くようになりました。描き終わったら、毎日Twitterにアップしてます。これもそこまでたいしたことはありませんが、それでも僕の絵を好きだという人は少なからずいてくれて、励みになってます。バズったことはありません。絵を評価されて、ギャラリーから声をかけられたこともありません。美術館で展示したこともなかったのですが、来年2月に僕が住んでいる熊本市現代美術館では個展をすることになりました。しかし、僕が住んでいるから声をかけられたんだと思います。他の都道府県の美術館からは一切声はかかってきません。海外ももちろん同様にです。つまり、たいした評価は受けていません。しかし、僕の絵を買ってくれる人はこれまで500人ほどいました。絵は一点ものですから、本みたいに安くはありません。僕のパステル画は一枚165000円以上するのですが、この500人の方には気に入ってもらえたようです。本と違い、絵は少ない人にでも気に入ってもらえたら、それなりにお金にはなります。とは言っても、僕は500人の人に好かれているだけです。こちらは今も毎日一枚描いてます。さらに最近では油絵もはじめました。油絵も今はまだ誰も興味を持ってくれていませんが、気にすることなく毎日作ってます。
 あと僕は音楽も作ってます。音楽もほとんど評価されたことはありません。評価って一体なんなのでしょうね。僕は一切気にしません。ただ次の新作を作るだけです。そういえば一度、養命酒さんからCMソングを作ってくれと言われたことはあります。お金になったのはそれくらいですかね。音楽は一切、経済活動には繋がっていません。でも、僕は12歳の時からギターを持って、歌い続けてます。そういう意味では一番古株の継続している楽しいことってことです。とにかく音楽は作るのが大好き、歌うのも大好きなんです。娘が通っていて幼稚園の園歌も僕は作ったことがあります。今でも幼稚園児たちが歌ってくれているようです。そういうことが嬉しいですね。歌は一度聴いたら、死ぬまで忘れないからです。音楽と継続とは何か繋がりがあるような気がしてなりません。
 そんなわけで、僕はこれらの作品をつくり続けることを仕事にしてます。作品を初めて作ったと自覚しているのが、2001年ですので、もう20年以上も継続して制作を続けているわけです。
 
 作家、画家、音楽家、いわゆる芸術を制作する人間として、生活をし続けているのですが、僕はこれといって人から評価されたことがないんです。
 作家という職業は、何かの賞を受賞することで、活動を継続することができると思われています。そんなことは一度もありません。画家も絵を売ってくれるギャラリーに所属しないと生活していくのはかなり難しいです。音楽自体をお金にするのは難しいですから、説明はいらないですよね。
 ところが、僕は継続することができてます。これは今も会社をやってますから確かなことです。 
 最近、感じているのは、別に売れなくても全然継続することはできるってことです。そこが問題ではないんです。
 もっというと、売れることよりもはるかに継続していくことの方が重要です。そうすれば、人生は切り開かれていきます。
 しかし、多くの人が、売れないことを理由にして、お金にならないことを理由にして、継続を諦めていきます。
 そうすると、人生が止まってしまいます。楽しくなくなります。幸福じゃなくなります。
 それは辛いことです。そして、興味がないけど、お金になることに向かっていきます。
 でも結局それも継続しなくてはいけないのです。生活ですから、人生ですから。生きるためには全て継続が関わってきます。
 継続は実はお金とは関係がありません。だからお金のために継続を諦めるのはおそらく勘違いです。
 人生はお金ではありません。僕が感じているのは人生は継続です。それのみです。だって継続とは毎日の生活ってことですから。
 この本では、何かを作っている人に向けて書いてみようと思います。その人たちにとっては、僕も同様ですが、死ぬまで作り続けられたらそれは幸福だと思うからです。
 みなさんも死ぬまで作っていきましょうよ。僕もそうありたいです。
 そのためのコツを、僕が経験で得たことでしかありませんが、全てお伝えしたいと思います。
 
 どうすれば継続することができるのか。
 これを考え、実践することは、どうすれば幸福になれるのかってことに向かっていくようのではないか。
 そんな希望的観測をもとに、それははじめてみることにしましょう。

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