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自分の薬をつくる 予告篇その1

0:「自分の薬をつくる」ワークショップのための準備

 ――何もない多目的ホール――

 まずは壁に向かって机を一二台並べ、一台につき二つの椅子、全部で二四人分の椅子を置く。
 机の上にA4のコピー用紙を人数分並べて置く。
 壁側にホワイトボードを置く。
 壁沿いに机を置き、そこに自分でつくった織物、その上に自分で吹いたガラスの花瓶、水を入れ、リンドウの花を挿す。さらに壁に立てかけるようにして、額装された自分の絵、壁に釘を打ち、ハンガーにかけた自分で編んだセーターを飾る。
 ホワイトボードに向かって左側にはガットギターを立てかけておく。
iPhoneを机の上に置き、そこからはBrian EnoのAmbient 1: Music for Airportsが流れている。

 ホールの入り口で受付を済ませたワークショップ参加者二四名は好きな椅子に座る。

 私は椅子に座った参加者に向き合うような格好でホワイトボードの前に立ち、話をはじめる。 

  1:オリエンテーション

  (1)はじめに

 初めまして。坂口恭平です。ワークショップをするのは初めてなんですが、えっと今日はですね、あ、これ(ホワイトボードを指差す)ですけど、ただホワイトボードを使いたいだけです。ワークショップもやったことがなかったので勝手はわかりません。なんとなく雰囲気だけ、こんなふうにやってみたいなあという感じにしてます。まあ、とにかくはじめてみましょう。
「自分の薬をつくる」
 ま、タイトルだけとりあえず閃いたんですね。この空間もなんとなくワークショップみたいなものをイメージしてつくってみましたが、何をやるのかは私もまだわかっていません。
一応、設定としてはみなさん、ここは病院ということになってます。
ここは待合室なんですね。わかりますかね。みなさんが向かい合ったりしないようにこちらを向いて待合室のソファに座っている感じですね。(参加者の一人が遅れて入ってくる)あ、いらっしゃいませ。ま、精神科の病院とかに通っている方はわかるかもしれませんけど、あんな感じです。あなたたちは今、それぞれの目と目があんまり合わないように工夫されている静かな待合室にいる……とまあそんな感じです。
 
この空間の小道具に関しても一応、説明しておきましょう。
 これは私が描いた絵です。
 よく病院とかで患者さんなのか、医者の友人が描いたのかわかりませんが見るじゃないですか、絵を。あんな感じのつもりです。
 壁に飾ってあるのが、私が編んだセーター。これもかわいいでしょ? 家の近くに「あいむ毛糸店」という昔からやってる毛糸店がありまして、今年で九〇歳になるアッコ先生という方が無料で編み物教室をやっているんですよ。手首から先を動かすと、体調にいいのではないかと思いまして、セーターを編み始めたらハマってしまいまして、現在五着目を編んでます。
 これは私が織った、と言っても「咲きおり」という家庭用の一五〇〇〇円くらいで買える織物機があるんですが、それで織ったもので、ブルガリアの伝統的な模様に見えますが、そういうものをチラッと見て、私が勝手に設計図も描かずに、即興で織ったものです。
 これもそうです。ガラスも自分で吹いてみました。知り合いが倉敷で工房をやってまして、そこに突然行って、三時間だけ作業させてもらって七つくらいガラスの器を作らせてもらったんですが、そのうちの一つです。そこにリンドウの花を活けてます。リンドウの花言葉は「I love you best when you are sad」ということで、何か意味があるんですかね。今日、花屋でふと目に入ったんですよ。それを買ってきたんですが、後で花言葉を調べてびっくりと言いますか、今日のワークショップにも合ってるんじゃないかと思いました。
 こういった物を配置しまして、心地いい空間を作りたいと思ったわけですね。こういう細かいことで、人の気分というものは、風向きが変わると言いますか、見えない何かが、触角みたいなものがですね、反応しますから、大事なんですよね。
 まあ、こういった気持ちいい空間をまず作りまして、これから一体何をするのだろうと、みなさんでどんなワークショップをするかを考えてみようというワークショップなんです。

  (2)薬=日課
 
 まずですね「自分の薬をつくる」ですから、薬ということについて考えていきましょう。
 薬飲んでいらっしゃる方、いますか? ああ、いますね。三人いらっしゃいます。

坂口「週に何回くらい飲んでますか?」
男1「えっ、ま、毎日」
坂口「毎日飲んでるんですか、なるほど、では次の方、あなたは週に何回くらい飲んでい
らっしゃいますか?」
男2「えっと、毎日です」
坂口「あなたも毎日なんですね。もう一人いらっしゃいますから聞いてみましょう。あな
たももしかして……」
男3「毎日です」

 ということで、みなさん薬は毎日飲んでいるようです。そりゃそうですよね。それが薬です。毎日飲まないとだめだからって、タイマーかけたり、カレンダーに印を描いたり、いろいろみなさん薬を毎日飲むために努力してらっしゃいますよね。うちの祖母も薬袋が入るカレンダーまで買って、それに入れて飲んでました。徹底してますね。薬ってのは。
 では次に違う質問をしてみたいと思います。
 薬以外に何か毎日やっていることはありますでしょうか?

坂口「はいあなた」
男1「お風呂です」
男2「歯磨き」
坂口「これ、なんか台本とかないんですよね? 私が知らないうちに台本があって、そう
やって私に仕組んでいるってことはないですよね。ドッキリとか、モニタリングってあ
の番組ですか? なぜか私が進めたいようになってるんですけど」
男3「睡眠ですね」
坂口「はい。なぜか私が頭の中に思い浮かべていることが、言葉になっていて、びっくり 
するんですけど、私はドッキリにやられているわけじゃないですよね? トゥルーマ
ン・ショーって映画があるじゃないですか。あれを観ると、いつも私は自分のことなん
じゃないかって勘違いしちゃうんですけど、まさか、あなたたちすべてが仕込みの人っ
てわけじゃないですよね。ちゃんと応募して参加された方ですよね?」
男3「はい、そうです」
坂口「それではもう一人の方、あ、はい、あなた」
女1「私の場合は、テレビですね」

 私はですね、躁鬱病という診断を受けてまして、今の医学ではそれは病気です。精神障害者としても認定を受けてはいるんですけど、なぜか収入が多すぎて障害者手帳というものはもらえないんです。なんでお金が関係あるのかはわからないんですけど、ま、それはいいんですけどね、毎日薬を飲んでいるんですね。いや正確に言うと、飲んでました。二〇〇九年に診断を受けてからは、ほぼ毎日薬を飲んでました。でも、今はもう飲んでいません。
 それはなんでかと言うと、自分で薬が作れるようになったからなんですね。
 自分の薬の調合に成功したわけです。
 つまり、薬を飲むってことは何をしているかと言いますとですね、薬は「毎日」飲むんですから、風呂、歯磨き、睡眠とかの仲間なんですよ。つまり、薬ってのは「日課」なんですよね。そういう習慣をつくる。薬を毎日飲むことで、新しい習慣が生まれる。そうすることで、体を変化させようってことなんじゃないかと私は思ったわけです。
 
 薬=「毎日」飲む=風呂や歯磨きや睡眠=日課

 つまり、自分の薬をつくる=自分の日課をつくる、ということ。
 このように新しい日課を自分に合った、自分の症状や調子に合わせた日課をつくることで、体が変わっていくんじゃないかと僕は考えたわけです。
 というわけで、今回は、「自分の日課を作ってみよう」と私は声をかけてみようと思います。それが自分の薬をつくるというワークショップになるんじゃないかと。

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