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生きのびるための事務 第5講 自分とは何かと悩まずに、自分の方法とは何かと悩め


 第5講

「さて、現実に戻ってきました」
「いいなあ、早く10年後にならないかなあ」
「もう設定は終わったので、10年後なんてすぐやってきますよ」
「上手くいくといいなあ」
「上手くいくことしかやらなきゃいいんですよ」
「そうだよね、事務として考えると失敗はないんだもんね」
「事務的思考が板についてきましたね」
「そうだよ、ジム的思考だもんね。ジム、お前といると、なぜか不思議なことになんでもできちゃうような気しかしないよ」
「いい流れです。上手くいかないと思っている人は、必ず上手くいくはずのない行動をしてます。上手くいく人は上手くいくことしかしません。簡単なことです。上手くいく、とはつまり、やり方を間違えない、ってことなんです」
「なるほど、そっちの言葉の方がわかりやすいね。ジムさすがだよ」
「上手くいかないとき、すぐ人は、自分に才能がない、とか、自分の性格がどうしようもないから、とか悩みます」
「ちくって刺さるよ、、、。俺もそう思ってたかも」
「でも今は違うとわかるでしょ?」
「うんわかるよ。ジム、お前といると、俺、自分のこと否定しないようになる」
「みなさん自分を否定することが好きですよね」
「いや、好きってわけじゃないんだよ。でもついやっちゃう。なんでだろうなあ」
「否定の仕方を知らないからですよ」
「否定の仕方?」
「はい、みんな自己肯定感なんてつまらない言葉に踊らされて、自分を肯定する人が素晴らしいみたいになっちゃって。自分を肯定なんて、どっかのカルト宗教の冊子みたいな世界ですか? あんなの気持ち悪くないですか?」
「言うねえジム。でも自分を否定するのも違うんでしょ?」
「まずですね、肯定するなんていらないんですよ。肯定するってことは、間違っているのにそれでもいいやと肯定するわけです」
「そうなの?」
「だって、上手くいってたら、肯定するも何もやり方が合ってただけですよ」
「確かに」
「自分を肯定するなんて訳のわからない行程はないんですよ本来。肯定する必要があるときは必ず間違っていることをやっていて、それでもそんな自分でいい、そんな自分でもかわいいって無理して言ってるだけじゃないですか。それは全く事務的には間違ってます」
「ジム的にね」
「やり方に関してはガサツなのに、自分自身に関してはみなさん無駄に神経質に怒ったりしますよね」
「その反動としての自己肯定感生み出そうとしてしまいがち・・・。俺も当てはまってるわそれ」
「神経質になる必要があるのは徹底して方法です。つまり、これが事務ってことです。自分とは何か?なんか考えても、哲学の勉強してないのに、答えを導き出そうとしていること自体がおかしいんですよ。自分とは何か?という人間の根源的な問いが無意味だと言っているわけじゃないですよ。それだって最重要な問題ではあります。だからこそ哲学の歴史があるわけです。でもみなさんの悩んでいる、自分とは何か?はこれまでの哲学者たちが死に物狂いで行ってきた研究など無視して、一人で我流でしかも下手に考えてるだけです。こじらせない方が難しいくらいです」
「下手な考え休むに似たりってことですね。とほほ、俺も胸チクチクします。お恥ずかしい」
「自分に悩むな、方法に悩め」
「はい。ジム先生。もう自分自身に悩んだりするのマジで辞めます。恥ずかしくなってきたもん」
「否定すべきは己ではなく、己が選んだ方法のみである」
「もうわかりました!」
「しつこく言っておかないと、すぐ戻っていくんですよ、自分の問題ってことに。何度も言います」
「今日は厳しいなあ」
「そんなことないですよ」
「でも、確かにそうかもね。自分を否定しないでいられるのは楽だもんね」
「そうですよ。私はいつもあなたを楽にさせたいと思ってますよ」
「ごめん、ジムの優しさを、自分の胸が痛いもんだからついつい意地悪な人みたいに言って」
「方法だけを徹底的に否定する。これが事務的作法なんです。その人自身を守る方法ってことです。やり方が間違っているだけ」
「それだとやり方を変えるだけでいいってことなんだもんね」
「そうです。そもそも性格なんか変わるわけないじゃないですか」
「そりゃそうなんだけどね、ついつい自分さえ変われば世界がまるまるっと生まれ変わるみたいに妄想抱いてたかも」
「自分の問題に置き換えちゃうのは、反事務的です」
「でも結構、そのハンジムやっちゃってるかもね、普段の生活で。ジム、俺が反事務的作業やっちゃってたら、すぐハンジム!って突っ込んで」
「任せてください」
「ハンジムやめたいよ」
「簡単にやめられますよ。だって、うまい方法を見つけたら必ずうまくいくの法則を知ったら、誰でもそっちやるでしょ。自分を否定しても変わらないのわかってて、でもそれしか知らないから、馬鹿みたいに自分ばっかり否定して、全然方法を変えずにいて上手くいかない人にとって、一度上手くいくとわかれば、その心地よさを求めて、必ず事務的に生きるようになります」
「ジムってすごいなあ」
「いや、私じゃないですよすごいのは。事務、がすごいんです」
「どっちもすごいよ。ジムも事務も。俺はどっちも好きだよ」
「ありがとうございます。私だって、恭平のことを素直でほんといいやつだなと思ってますよ」
「なんだかちょこちょこ俺たちの相思相愛が漏れ出てくるよね」
「好きってことは素晴らしいですから、ちょこちょこ好きと口に出したほうがいいですよ。セックスレス防止にもなりますし」
「俺まだ21歳だし、セックスレスはわからないなあ」
「まあ、そのうちわかるようになりますよ」
「へえ。で、なんだっけ?」
「自分を変えずに、方法だけを上手く見つけていくってことです。そうすれば必ず上手くいきます」
「上手くいくってどういう状態ってこと?」
「それはもう決めたじゃないですか」
「あ、10年後の自分だ!」
「そうですよ」
「朝から本を書いて、お昼絵を描いて、散歩して、音楽やる10年後の僕だ」
「そうそう」
「で、現実でどうすればいいの?」
「現実だって、もう一日の様子が見えてますよね」
「確かに」
「ここでもう一度、見直してみましょう」
「うん」

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「何を変えたらいいのかな」
「方法を変えるんです」
「うん、そこはわかった。方法ってどういうことなのかな」
「じゃあ一つずつ見ていきましょう」
「楽しみ」
「まず起きる時間は5時で一緒ですね」
「うん、これはもう変えなくていいんだ!」
「はいそうです。今で完璧、百点満点ってことです」
「10年後も同じようにやっている、と」
「はい、だからもうすでに上手くいってませんか?」
「確かに上手くいってる! 早く次も見てみたい」
「次は5時からやることですね。読書となってますが、10年後は執筆となってます。本を読むのと、本を書くの、恭平はどっちやりたいんですか?」
「本を読むのは苦手でね、でも書けないから結局読んじゃう。読んでもすぐ寝ちゃうんだけど。。。そうやって知らない間に時間が経過しちゃってる」
「はい、ではそこを本を書くという方法にすっかり取り替えちゃいましょう」
「さらっと言うね・・・」
「簡単です」
「いや、簡単じゃないのよ」
「と言いますと?」
「おれ、何を書いたらいいのかわからないんだけど」
「いや、何を書くとかは10年後の設定にも入ってませんから、全く気にしなくていいです」
「えっ!そうなの?」
「はい。決めてない方法は試さなくていいんです」
「ただ書けばいいのね」
「そういうことです。いつか本になればいいし、ならなくてもいいじゃないですか。10年後も同じことやれてたら」
「うん・・・なるほど。でも・・・」
「やることは『書く』ことなので、前にも言いましたが『何を書くか』ってことで悩まないでくださいね」
「自分とは何かで悩まずに、方法を実践するってことだよね」
「それと同じことです。何を書くかは置いといて、まずは毎日10枚書くという方法を身につける」
「そっか!それなら、真っ直ぐ取り組めそうな気がする」
「それができていたら百点満点を自分にあげちゃいましょう」
「10年後も引き続きやり続けたいことなんだからね、そりゃ百点満点だ」
「次に行きましょう。9時から13時まで外出・写真撮影ってことになってます」
「10年後は9時から1時間、ゆっくりして、10時から2時間絵を描いて、その後1時間散歩してるね」
「そんなに今、外出する必要あります?」
「まあ、ないと言えばないんだけど、でもネタがなくてね」
「なるほど、まずはいろんなものを見て、養うってのも大事と言えば大事ですからね。じゃあそのままでいいんじゃないですか? だって、このあと13時から16時まで3時間、絵を描いて、歌を作る、とあって、10年後も2時間絵を描き、4時間作曲してますから、ここはほとんどすでに上手く行っているってことですよ」
「あ、そっか。じゃそのままでいっか」
「はい、いいと思いますよ。変に変えなくても」
「となると、午後6時まで上手くいってるのね」
「はい」
「でも作品は全然増えないんだよね。作ってはいるんだけど」
「それは毎日やってないからだけですよね」
「うん、ムラがある」
「じゃあ、毎日作ってください」
「毎日作れないから困ってるのに?」
「毎日できることだけをやればいいんですよ。そんな大袈裟に考えないで、まずは適当でいいんです。能力もないでしょ?」
「うん、才能もないよ。だから、周りからそんなことしてても食っていけないからやめろと言われる」
「そんな奴のこと気にしなくていいですよ。どうせ暇潰しで言っているだけです。才能ってなんのことかわかります?」
「いやわからない」
「たとえば、私は才能があるように見えますか?」
「ジムは才能あふれているよ」
「本にもなっていないのに? 本を書くことで食っているわけでもないのに?」
「うんそう思うよ」
「なぜそう思えるんですか?」
「毎日書いているってわかるからだよ。その本の分量を見てたら。本になってるとか関係ないよ。書くという行為が続けられていることの幸福を感じてそうだし。なんというか躊躇がないっていうか、楽しそうだよ」
「それは才能と言わないかもしれませんね」
「いつまでも自分が好きなことを楽しく続けられる才能があるってことだよ」
「はい、それです」
「ん?」
「才能ってのは、それだけです。楽しくいつまでも続けられる才能がある、のではなく、楽しくいつまでも続けること=才能ってことです」
「なるほど」
「それが本になったり売れて食っていけるようになるのは、才能ではなく、評価ですよね」
「なるほど」
「ゴッホは売れずに死にました」
「そうだよね」
「でも才能はあった」
「うん。死ぬ直前まで続けたからね」
「そしてのちに評価されました」
「時代で評価ってのは変わるからね」
「なぜ変わるんですか?」
「それは評価ってのは他者が決めるからだろうね。いつだって新しいことは受け入れられないしね」
「才能があることと、評価されること、恭平にとってどちらが、上手くいく、ってことですか?」
「もちろん、一枚も絵が売れないまま死ぬのは辛いけど、でもそれでも、俺にとっては上手くいくってことは、さっき決めた10年後の姿になっているってことだね」
「評価されることを上手くいくことだと設定してしまうとですね、評価されなくなると、作り続けることを止めてしまいますよね」
「そうなるよね。余計に落ち込んだりね」
「それは恭平にとっては方法が間違っているでしょうね」
「うん、俺は死ぬまで好きに作り続けたいもん」
「じゃあ、評価はサブに置いておきましょう」
「無視はしなくていいんだ?」
「だって、少しは売れたいんでしょう?」
「うん。少しはね」
「じゃあ、全く評価されないのも、恭平にとっては間違った方法なんですよ」
「なるほど。一方、ジムは全く評価されなくても構わないもんね」
「ちょっと違います」
「えっ?」
「私は世間から評価されなくても問題ないんですが、私は恭平には評価される必要があります」
「確かに、そうしないとヒモでいられない」
「はいそうです」
「ヒモ主さんだけから評価されたら生きていけるわけだ」
「それが私にとってのうまくいく方法です」
「わかりやすいよ」
「話をまとめますと、まず生きていくのに才能は必要ありません。全く。もちろん世間が言うところの才能ってことですが。私と恭平の中での『才能』とは?」
「もうわかるよ。いつまでも楽しくやりたいことを続けられるってこと」
「はいそうです。だから絵と音楽も楽しく続けていくってことが恭平にとってのうまくいくってことです」
「うん。だから、一日にできることを見定めて、毎日小さな作品を完成させて、その代わりほどほどの力で作っているんだから、毎日やってみろってことだね」
「はい、なぜならうまくいっているということは才能あふれる生活を送るってことですからね」
「それをジムの言葉で言い換えると、いつまでの楽しく絵を描き歌を作り続けるってことだね」
「はい、だからこそ、毎日、ってことが重要な『方法』なわけです」
「才能を捏造することができる、と」
「ま、そういうことですな」
「ジム、お前もワルやのう」
「もちろんです。事務とはこのように徹底した自己中心的な、自分にひたすら都合よく考えていくものなんです」
「自分のために自己中心的になったり都合よく考えるのは問題ないもんね」
「そうですよ。これを人に対してやると嫌なやつと嫌われますから気をつけてくださいね」
「そこも事務的に処理しろ、と」
「そういうわけです」
「絵が上手い下手は関係ない」
「毎日描くことこそ、恭平が修練すべき方法です。ま、毎日描いてたらバカでもうまくなりますよ」
「いいね」
「あと、評価も少しは必要だということです。恭平には」
「ジムには必要ないけど、ね」
「あなたが理解してくれてるからもう満足なだけです」
「じゃあどうやって、少しの評価を作り出すの?」
「それはまた後で教えます。まずは時間割を見ていきましょう」
「えー、評価についての話聴きたいなあ」
「まずは才能を伸ばすことが先です」
「はーい・・・」
「10年後は19時までは依頼仕事をするようになってる」
「今、依頼されることはありますか?」
「この前、向かいに住んでいる人が、音楽がうるさいって苦情に来たかと思ったら、突然泣き出して」
「どうしたんですか?」
「5年くらい引きこもってたらしいんだけど、だから見たことがなかったのね。すると、その男はずっと小さい時からぬいぐるみと一緒にいて、ぬいぐるみと話せるらしいんだけど、そのぬいぐるみが、恭平に助けてもらえって言ったんだって。とんでもない話だけど、別に俺は嫌いじゃないから、それから毎日、その男がやりたいことをやれるようにするお手伝いをしてるよ」
「いいですね。依頼仕事ももうやっているじゃないですか」
「そうだね」
「それでなんなんですかその男のやりたいことって」
「会社で働いて給料もらうことだったんだよ」
「それでどう手伝ってあげたんですか?」
「簡単だよ。仕事をすぐ辞めちゃう人ってさ、自分がやりたいようにやってない人じゃん。だから、その男に、神龍みたいに三つの願いを叶えてあげるから今すぐ言えって低い声で言ったんだよ。すると、その男は、高円寺から歩きか自転車でいけるところ、週休2日で手取りで月収20万円、英語を使ってみたい、って言ったのね。それを俺、達筆だから綺麗な和紙に筆で書いてあげて、それを持って、ハローワークに毎日行けって言ったの」
「ナイスなアドバイスです。うまくいかない人は仕事がないからといって、なんでもいい、みたいに探しちゃいますからね。入ってから失敗します」
「あと、清潔ってほんと大事だから、その男、風呂も入ってない状態だったから、毎日シャワー浴びて、スーツあるかって聞いたら、1着だけあるって言うから、ワイシャツも一枚持ってて、それをまずはクリーニングに出せって言った」
「いいですね。人は見た目でしか判断しませんからね。清潔じゃなくてもいいですが、清潔感っていうのはとても重要です」
「それで毎日ハローワークに行かせたんだよ。黙って、その紙を役所の人に見せて、そこに当てはまるものだけくれと言えと伝えた」
「ナイスです。それはすぐ見つかりますね」
「二週間毎日行ったら、中野駅徒歩5分のところに週休2日で手取りが23万円で、アメリカの文房具を輸出入する会社を見つけてきたんだよ!」
「恭平さすがです。恭平も他人のことならしっかり事務員できてますね」
「そうかな? しかも、その会社の社長がアメリカ人のニックという男でね」
「英語まで使えて笑」
「そうそう」
「しかも、働き始めて一ヶ月したら、もっと家賃が高いところに引っ越して行ってね、坂口くんありがとう!なんて両手で握手とかされながら」
「巣立って行ったわけですね。お疲れ様です」
「依頼仕事ってこれかな?」
「もうできてます。きっといつか助けた亀がやってきますよ」
「それはそうかもね」
「俺、うまくいってるのかもね」
「そうですね。今と10年後と比べても、違うのは、今は読書してるが、10年後は本を書いているってことだけで、あとは百点満点ですね。執筆と絵と歌を毎日適当に簡単に作れるようになれば、あとはすべてうまくいくことになりますね」
「なんだこれ簡単じゃん」
「事務的にやればなんでも簡単に見えますよ。なんといっても都合よくだけ考えるんですから」
「いいね。じゃあ最後に評価の話も知りたいなあ」
「いいですよ。なんでも簡単ですから」
「知りたい」
「まずは評価される必要があるものを定めましょう。執筆は評価必要ですか?」
「必要だね」
「では絵は?」
「必要かも」
「では歌は?」
「音楽は好きで楽しくやっているだけだから評価されなくてもいい、って感じがする」
「わかりました。では執筆と絵、この二つに少しばかりの評価が必要になります。執筆は誰に評価されたいですか?」
「えっと・・・・」
「はい」
「ジムかも?」
「あ、私ですか? 私ならいつでも読みますよ。もちろん厳しく優しく応えられます。これで十分ですか?」
「あ、でもお金もそれで稼げるようになりたいかも」
「ということは本にするってことですね」
「うん」
「どうすれば本になるか知ってますか?」
「出版社が本にしたいと思えば本になるよね」
「そういう現場を見たことがありますか?」
「ないよ。俺が知っている出版の現場は、鳥山明とドクターマシリトだけだよ」
「なんですかそれは?」
「知らないの? ドラゴンボールの作者と集英社の担当編集者である鳥嶋さんのことだよ」
「へえ、すみません、ドラゴンボール知らなくて」
「古谷実知っててドラゴンボール知らないのやばくない?」
「私、週刊マガジン派で、ジャンプ系は全く知らないんですよ」
「そっか、まあなんでもいいけど、ドラゴンボールの現場を見る限り、編集者ってのが一番大事で、それこそ出版社よりも重要なのは編集者だね」
「良かったですねドラゴンボールが好きで研究していて」
「うん。鳥山明の投稿だって初めからはねられていたんだけど、鳥嶋さんが一番初めの投稿の時から才能を感じていたんだって。それで一緒にやりたいってむしろ鳥嶋さんからけしかけてね、それで鳥山明○作劇場って単行本になっているんだけど、そこで読切の漫画を一緒に描き始めるんだよ。すぐに没にする怖い人で、だから悪役のキャラクターになってアラレちゃんに登場するんだけど、アラレちゃんを主人公にしろってのもドクターマシリトの意見でね。つまり、漫画家がいなくても本にはなるけど、編集者がいなかったら本にならないんだって俺は思ったね」
「そこまでわかっているなら、もう話は終わってますね。誰か理解できる編集者を見つけましょう」
「どうやって編集者を見つけるんだよ」
「簡単じゃないですか。本のあとがきとかに編集者の名前書いてあるじゃないですか」
「なるほど」
「自分が好きな本を選んで、その本を作った編集者に気に入られたらいいんじゃないですか?」
「簡単じゃん。と思ったんだけど、俺、昔の本が好きで、今の本全然読んでないから、好きな最近の本がないかも」
「なるほど」
「あと海外の本ばっかりだし」
「最近の本で読んでいるものないんですか?」
「雑誌かなあ」
「じゃあその雑誌の編集者でいいんじゃないかな」
「そうだね。雑誌だとね、スペクテイターっていういい雑誌があってね。この雑誌の編集者には見てもらいたい。あとはね、建築雑誌なんだけど、HOMEっていう雑誌があって、その雑誌は編集ってよりもアートディレクションがかっこよくて、この雑誌のアートディレクターに作品を見てもらいたい」
「それでいきましょう。彼らに評価されればきっと仕事も生まれるはずです」
「なんか簡単だね」
「好きは全て越えていきますからね。とにかく自分が好きなものを作っている人に評価されればいいんです」
「じゃあ絵は?」
「誰か評価されたい人はいますか?」
「うーんよくわからないんだよねえ。でもそういえば、この前、僕の友人の写真家から頼まれてね。妻有トリエンナーレってのがはじまってね、町おこしと芸術の融合みたいなやつで、日本初の試みみたいな感じで、別に俺は興味はないんだけど、その写真家の人がコンペに出したいっていうんだよね」
「それ、恭平と関係あるんですか?」
「いや、ないんだけど、でも、その人って、コンペとか初めてで、どうやって描いたらいいかわからないっていうんだよ」
「恭平はやったことあるんですか?」
「いや俺もないよ、興味ないもん。知らないやつから評価されることに全く関心ないというか有害だと思っているからコンペも試験も受けたことがない」
「健全な心がけですね。いいと思いますよ」
「でも、なんか勘はいいんだよね。テストで出る場所とかすぐわかるし、人が気に入りそうなことをするのとか得意だから、その写真家が目をつけて、僕にコンペ用のプレゼンをしてくれって頼んできたんだよ」
「へえ、いいじゃないですか」
「で、俺は絶対に、最終審査に行けそうなやつを作ったわけ」
「どんなのを作ったんですか?」
「もうそのプロジェクトが本当に決定しているかのように、そのプロジェクトを一泊二日で見にいくという旅行代理店のパンフレットにしたんだよ」
「いいですね」
「応募用紙の枠に書くとかつまんないじゃん。もっとリアルじゃないと。リアルに作れば、応募用紙なんかよりも、もっと迫真に迫れば、審査員で面白いやつがいれば、絶対に通過すると思ったわけ」
「誰か一人を仕留めるってやつですね」
「すると、本当に通過しちゃって、今度、最終審査会があるんだよ」
「ってことは、そこに一人だけむちゃくちゃ面白いやつがいるってことですね」
「そうなんだよ。しかも写真家の人、仕事で最終審査にいけないから、坂口くん代わりに行ってと連絡まできて笑」
「舞台は用意されてますね」
「だからきっと何かが起こると思うんだよね」
「はい、美術に関しての少しの評価はそこで見つかると思いますよ」
「おー、じゃ、もう揃ったじゃん」
「そうですよ。事務的に処理すれば、現実でもすぐに百点満点、全てがうまくいくのがわかりますか?」
「何これ、人生ってこんなに簡単なの?」
「もちろんです。人生が困難だったら、人間なんて生き延びてないですよ」
「確かにそりゃそうだ。すぐに絶滅してるね」
「はい。これだけ簡単だから、生き延びているんです。それが生命が示している単純な真理です」
「うん。ジムとジム的に事務的に作業していると、ほんと全部が軽々しく見えてきて、なんだか体も軽くなるよ」
「無駄な心配を完全に除去する。これがうまくいく唯一の方法です」
「さすがだよジム」
 そんなわけで、僕はジムと一緒に組み立てた、必ずうまくいく方法をこの現実でリアルに試してみることにしたんです。
 どうなったかって?
 それは次回のお楽しみに。でも、うまくいくに違いないわけです。

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