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ビジョナリー・カンパニー2 ― 進化の飛躍

ビジョナリー・カンパニー2 執筆の背景

ビジョナリー・カンパニーを読んだ識者から「いい本だが役に立たない。あの本に書かれている企業はほとんど、はじめから偉大だった。」という言葉を受け、「良い企業は偉大な企業になれるのか。そして、どうすれば偉大な企業になれるのか」という疑問から調査をし、書籍にした。

ほとんどどの組織も、この調査から導き出された枠組みを適用して努力を続ければ、地位と実績を大幅に向上させることができるし、おそらくは偉大な組織になることすらできる。

ジム コリンズ. ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則 (p.25). 日経BP社. Kindle 版.

調査対象の企業

株式運用成績が十五年にわたって市場並み以下の状態が続き、転換点の後は一変して、十五年にわたって市場平均の三倍以上になったこと、この基準を満たす企業を探した。そして、産業全体が同じようなパターンを描いて飛躍している場合には、その企業は除外した。

比較対象の"飛躍しなかった企業"

第五水準の指導者

  • 個人としての謙虚さ。野心は会社の成功に向けられ、自分の名声や資産に向けられていない。成功したときに窓を見て、他の人達、外部要因、幸福が会社の成功をもたらした要因だと考える。

  • 職業人としての意思の強さ。熱狂的といえるほど意欲が強く、すぐれた成果を生み出さなければ決して満足しない。偉大な企業への飛躍に必要であれば、製紙工場を売却することも兄や弟を解雇することも辞さない。結果が悪かったとき、窓の外ではなく鏡をみて、責任は自分にあると考える。

(例)ジレット

CEO: コールマン・ モックラー
謙虚さの例。敵対的買収に応じなかった

(例)ファニーメイ

CEO: デービッド・マクスウェル
謙虚さの例。批判を受け、報酬を基金に払うようにした

(例)アボット

CEO: ジョージ・ケイン
意思の強さの例。金のなる木に何年もすがっていた医薬品企業で、創業一族の重用を廃止した (ケインも創業者一族の一員)

(例)ウォルグリーン

CEO: ダーウィン・スミス
意思の強さの例。長年の家業であるレストランチェーンから撤退し、ドラッグストアチェーンに注力した

最初に人を選び、その後に目標を選ぶ

ビジョン、戦略、戦術、組織構造、技術、全ては「誰を選ぶか」を決めてから考える。どういう人が「適切な人材」なのかは、専門知識、学歴、業務経験より、性格と基礎的能力によって決まる。
比較対象の企業は1人の天才を1000人で支えるモデルを取っている場合が多いが、このモデルは天才が退けば崩れる。ビジョナリー・カンパニーが冷酷というわけではなく、レイオフやリストラも比較対象企業にはるかに多い。
「最初に人を選ぶ」とは、能力やスキルではなく、基本的価値観と目的への適合性によって人を選ぶことを意味する。

人事の決定で実際的な3つの方法

  • 疑問があれば採用せず、人材を探し続ける

  • 人を入れ換える必要があることがわかれば行動する

    • まずはポジションの変更で対応できるか検討する

  • 最高の人材は、最高の機会の追求にあて、最大の問題の解決にはあてない

    • フィリップ・モリスではシェア1%の国際事業責任者に、シェア99%の国内事業責任者を割り当てて成功を収めた

なぜバスの同乗者を選ぶことから始めるのか?

  • 目的地が変わっても柔軟に適応できる

  • 動機づけの問題や管理の問題はほぼ無くなる

  • 不適切な乗員ばかりであれば、正しい目的地がわかってもたどり着けない

(例)ウェルズ・ファーゴ

ディック・クーリーが優秀な経営陣を築く動きを始めたときから飛躍が始まった。銀行の規制緩和によって起こる変化を予想することはできなかったが、最も柔軟に対応できたのが当行だった。のちにこれらの経営陣は、ほとんど全員が大手金融機関のCEOになっている。

(例)ファニーメイ

一営業日当たり百万ドルの赤字を出し、総額五百六十億ドルのローンが採算割れになっていた苦境の中、CEOのマクスウェルは経営幹部全員と話し、「これからきわめて厳しい課題に取り組むことになる。どれほど厳しい仕事になるか、よく考えてほしい。そんな厳しい仕事はかなわないというのであれば、それはそれでいい。だれからも憎まれたりはしない」と伝え、26人のうち14人が退職した。そして経営の立て直しと飛躍が始まった。

(例)ジレット

コールマン・モックラーはCEOに就任してから二年間、五十五パーセントの時間を使って経営陣とともに社内を調べて回り、上位五十人の幹部のうち三十八人を入れ換えるか異動させている。

プラクティス

  • 社内の相応しくないか疑わしい人物がいて、その過去に遡れたとして、その人物をもう一度雇うだろうか

  • その人物がやってきて、素晴らしい機会があるので会社を辞めると話したとするなら、深く失望するだろうか、それともそっと胸をなでおろすだろうか

誰に報酬を払うか

経営陣の報酬と飛躍とを結び付けるような一貫したパターンは発見できなかった。経営陣の報酬はどうでもいいわけではない。報酬は合理的で適切でなければならない。そして飛躍した企業は経営陣の報酬をどうすべきか、時間をかけて検討している。しかし、基本的な点で問題のない制度ができれば、経営陣の報酬は企業を良好から偉大に飛躍させる点で違いをもたらす要因ではなくなる。
どうしてなのだろう。「最初に人を選ぶ」原則がここにもあらわれているのである。つまり、問題は経営陣への報酬をどのように決めるかではなく、報酬支払いの対象になる経営陣をどのように選ぶかなのだ

(例) ニューコア

賃金制度では、きわめて高い基準を達成したチームに支払われるボーナスが中心になっており、従業員が受け取る賃金の半分以上が、二十人から四十人のチームの生産性に連動している。ニューコアの方式は、怠け者が勤勉にはたらくようになることを目指してはいない。仕事熱心な従業員がはたらきやすく、怠惰な従業員がバスから降りるか放り出されるように、職場の環境を作り上げている。

誰を採用するか

飛躍を遂げた企業は学歴や技能、専門知識、経験などより、性格を重視している。前者は教育できるが、性格や労働観、基礎的な知能、目標達成の熱意、価値観はもっと根深いものだとみている

厳しい現実を直視する

  • 偉大な企業に飛躍するためにまず行うべき点は、上司が意見を聞く機会、そして究極的には真実に耳を傾ける機会が十分にある企業文化を作り上げることである。

  • 偉大さへの飛躍を導く姿勢のカギは、ストックデールの逆説である。どれほどの困難にぶつかっても、最後にはかならず勝つという確信を失ってはならない。そして同時に、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視しなければならない。

  • 従業員や幹部の動機付けに努力するのは、時間の無駄である。ほんとうの問題は「どうすれば従業員の意欲を引き出せるか」ではない。適正な人たちがバスに乗っていれば、全員が意欲をもっている。
    問題は、人びとの意欲を挫かないようにするにはどうすればいいのかである。そして、厳しい現実を無視するのは、やる気をなくさせる行動のなかでもとくに打撃が大きいものだ。

上司が真実に耳を傾ける

  • 答えではなく、質問によって指導する (誘導ではなく、理解のために質問する)

  • 対話と論争を行う

  • 解剖を行い、非難はしない

  • 入手した情報を無視できない情報に変える「赤旗」※の仕組みを作る

※赤旗 … 絶対に無視できない警告

(例) A&P vs クローガー

食品雑貨店を展開していたA&Pは、消費者の生活水準が変化してきたことを受け、新しい方法や方針を実験して顧客の要望を学べるようにした。しかし、この店舗が示した答えが気に入らなかったため、閉鎖した。
クローガーは、それまでの方式の食品雑貨店が絶滅する運命にあるとの結論を受け止め、すべての店舗を閉鎖するか、改装するか、移転し、新しい現実に合わない地域からは撤退する決定をくだした。

単純明快な戦略

針鼠と狐

狐は賢い動物で、複雑な作戦をつぎつぎに編み出して、針鼠を不意打ちしようとする。針鼠は身体を丸めて、小さな球のようになる。鋭い針がどの方向にも突き出している。獲物を目の前にした狐は、針鼠の防御態勢をみて飛びかかるのを諦める。狐の方がはるかに知恵があるのに、勝つのはいつも針鼠だ。

狐型の人たちはいくつもの目標を同時に追求し、複雑な世界を複雑なものとして理解する。力を分散させ、いくつもの動きを起こす。
針鼠型の人たちは、複雑な世界をひとつの系統だった考え、基本原理、基本概念によって単純化し、これですべてをまとめ、すべての行動を決定している。

偉大な企業になるには、「情熱を持って取り組めるもの」「自社が世界一になれる部分」・「経済的原動力になるもの」の三つの円が重なる部分を深く理解し、単純明快な概念(針鼠の概念)を確立する必要がある。

以前に出版されたビジョナリー・カンパニーで語られたBHAG (社運を賭けた大胆な目標) はこの3つの重なる部分に対して設定するべきである。

飛躍した企業は、針鼠の概念を獲得するまでに平均四年かかっている。針鼠の概念を確立しようとするとき、とくに役立つ仕組みに、われわれが「評議会」と名付けたものがある。

評議会

三つの円に基づく議論と討論を長期にわたって反復し、組織が直面する決定的な問題と決定について考えていく

ルール

  • 評議会は指導的な立場にある経営幹部が組織し、利用し、通常五人から十二人で構成される。

  • 評議会の参加者は、理解を得るために議論し、論争することができ、自分の主張を通したり、自分の部門の既得権を守るといった利己的な目標を追求するために議論するのではない。

  • 評議会は全会一致を追求しない。全会一致の決定がしばしば賢明な決定ではないことを認識しているからである。最終決定の責任は、指導的な立場にある経営幹部が負う。


ウォルグリーンズ vs エッカード

ウォルグーンズは「もっとも便利な最高のドラッグ・ストアで、来客一人当たりの利益を最大限に増やす。」ことだけに注力し、店舗の配置を変更したり、ドライブスルー薬局を開発したり、都市部に店舗を集中させたりした。
経済的原動力は、来客一人当たり利益にあると考えたため、都市部に店舗を集中させ、利便性を高めることができた。
(分母に何を選ぶかという問いに答えようとすれば、自社の経済的原動力を強化するカギを深く理解しないわけにはいかなくなる。)

エッカードは、つぎつぎ買収を行い、全体を統一する概念を持たぬままホームビデオ産業に参入し、損失を出した。

アボット vs アップジョン

両者とも医薬品業界の競争で遅れを取っていた。アボットは厳しい現実を直視して、最高の医薬品会社を目指すのは現実的ではないと理解した。
医療のコスト効率を高める製品の開発では世界一になる機会があるとわかった。術後の患者の体力を素早く回復するための栄養剤、正確な診断用機器でシェアを獲得した。
経済的原動力は、製品ライン当たりの利益ではなく、従業員一人当たり利益と考えた。
アップジョンはいつかメルクを追い抜く夢を見続けプラスチックや化学品など、世界一になれるはずもない分野に多角化した。

ジレット

経済的原動力は、部門当たり利益から顧客一人当たり利益にあると認識した。反復購入(たとえばレーザー・カートリッジ)と製品一個当たり利益の多さ(たとえば使い捨て型ではない剃刀のマッハ3)の力を認識した結果である。

フィリップ・モリス

事業への情熱が強烈で、消費財のなかでとくに罪深いとされている製品を扱っている。我々には喫煙の権利があり、われわれはこの権利を守ると主張している。偉大な実績への飛躍を遂げた企業は、「会社の事業に皆で情熱を傾けよう」と呼びかけたわけではない。正反対の賢明な方法をとっている。つまり、自分たちが情熱を燃やせることだけに取り組む方針をとっている。


規律の文化

ベンチャー企業が偉大な企業になる例はきわめて少ないが、これはかなりの部分、成長と成功への対応を間違えるからだ。会社が成長し、事業が複雑になると、新しい従業員が増えすぎ、新しい顧客が増えすぎ、新しい受注が増えすぎ、新しい製品が増えすぎるのだ。かつては楽しくて仕方なかった仕事が、混乱の極みになって手に負えなくなる。計画がなく、経理体制がなく、システムがなく、採用基準がないことから、摩擦が生まれる。
これら問題に対応して、手順や手続きやチェック・リストなどなどが雑草のようにはびこりだす。なんでも平等だったかつての雰囲気がなくなり、階層構造が作られる。指揮命令系統がはじめて姿をあらわす。上司と部下の関係が明確になり、普通の企業に近づく。創造性の豊かな人たちが、官僚制度と階層制度の膨張に嫌気がさして、会社を辞めていく。

  • みずから規律を守り、規律ある行動をとり、三つの円が重なる部分を熱狂的ともいえるほど重視する人たちが集まる企業文化を作り上げる

  • 官僚制度は規律の欠如と無能力という問題を補うためのものであり、この問題は不適切な人をバスに乗せていることに起因している。

  • 三つの円の重なる部分に入らないものであれば、どんな機会でも見送る意思をもつ

アボット

経費、売上、投資のすべての項目にそれぞれ、責任者をひとり決めていく「責任会計」と名付けられた仕組みを構築した。厳格さと規律を基礎に、創造性と起業家精神を発揮できるようにした。

暴君と規律

偉大な企業では、第五水準の指導者が持続性のある規律の文化を築き上げている。これに対して飛躍を持続できなかった比較対象企業では、第四水準の経営者が強烈な力を発揮し、ひとりで組織に規律をもたらしていた。アイアコッカやバローズでは、暴君が持ち込んだ規律によって目ざましく上昇するが、その後やはり目ざましいばかりに転落している。

促進剤としての技術

  • 飛躍した企業は技術の流行に乗るのを避けているが、慎重に選んだ分野の技術の利用で先駆者になっている。

  • どの技術分野に関しても決定的な問いは、その技術が自社の針鼠の概念に直接に適合しているのかである。この問いへの答えがイエスであれば、その技術の利用で先駆者になる必要がある。ノーであれば、ごく普通に採用するか無視すればいい。

  • 偉大な企業は思慮深く、創造性豊かに対応する。凡庸な企業は受け身になって右往左往し、取り残されることへの恐怖によって行動する

ウォルグリーンズ vs ドラッグストアドットコム

営業をはじめて九か月にもならず、従業員が五百人以下、配当は少なくとも数年にわたって期待できず、黒字転換を果たすまでに数億ドルの赤字を出す計画をたてている ドラッグストア・ドット・コムが株式を公開した。取引開始の直後から同社株は公開価格の三倍近くまで上昇し、六十五ドルになった。ウォルグリーンズに、インターネットの脅威に対応するように求められる圧力が強まっていった。
ウォルグリーンズは立ち止まって考えることにした。ウェブサイトの実験を開始し、インターネット事業の意味について、自社の針鼠の概念との関連で徹底した議論を行った。同社はインターネットを自社の高度な在庫・物流管理システムに直接に結び付ける方法を見つけ出し、やがて、利便性の概念とも結び付ける方法を見つけ出した。処方をオンラインで入力して、薬をすぐに受け取れるようにして、発送も依頼できるようにした。そして、Amazon.comと遜色ないほど信頼できるWebサイトを開設した。ドラッグストア・ドット・コムは巨額の損失からレイオフをした。

はずみ車と悪循環

  • 偉大な企業への飛躍は、外部からみれば劇的で革命的だとみえるが、内部からみれば生物の成長のような積み重ねの過程だと感じられる。

  • 比較対象企業は、賢明とはいえない大型合併によって突破口を開こうと試みることが多い。これに対して、偉大な実績に飛躍した企業は通常、突破段階に達した後に、すでに高速で回転している弾み車の勢いをさらに加速する手段として、大型買収を使っている

  • 適切な人たちが何よりも望んでいることは、何だろうか。勝利に向かって進んでいるチームの一員になることだ。目に見えるたしかな業績の実現に貢献したいと望んでいる。たしかに成功を収められる何かに参加して興奮を味わいたいと望んでいる。厳しい現実を直視して生まれた単純明快な計画をみれば、虚勢ではなく、現実の理解から生み出された計画をみれば、「これはうまくいく。参加させてほしい」と言う可能性が高い。経営陣が一枚岩になって単純明快な計画を推進し、第五水準の指導者に私心がなく、計画の達成に打ち込んでいるのをみれば、斜に構えていた人も真剣になる。