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アスペンは知られざるオオクワガタ材だった

煮出し工程の必要性
 この画像はオリジナル1500cc菌糸瓶用2個分のアスペン・チップ材の下拵え中です。
 わたしは木材を培地に使用する場合、幼虫や腐朽菌にとっては毒素である植物性の精油質、ポリフェノール類を除去するため、必ず煮出しの一手間を掛けて製作しています。それがクヌギ、ブナの場合、かなり赤茶色にお湯が染まりますが、アスペンの場合は黄色いレモン色に染まります。この画像では既に煮出したお湯を捨てて、濯ぎの水に暫く漬け込んでいる状態なので色味は薄い状態です。
 また、アスペンの場合は独特の少しきつめの酸味の匂いがあるんですが(割り箸や爪楊枝の、あれと同じ匂い)、煮出し後はほぼ消失します。実際にやってみればよく解りますが、抽出液は手肌が大変しっとりするくらいの油分を感じますので、この工程でかなりの油脂が排出されます。
 このアスペン・チップは昨年度飼育の最終瓶用から試用し始めたんですが、今のところ良好です。特にわたしが気に入ったアスペン・チップの秀逸な点は、一般的な生オガコと違って樹皮がほぼ混入していないという点です。これ、生オガコを使用したことのある人なら納得だと思いますが、真っ白に見えても実はかなりの樹皮が混入しているんですよね。これは、吸水させたときによく判ります。植物性の毒素(たんにん)の殆どは樹皮に含まれているんです。なので、本当は樹皮はオガコには含まれて欲しくはない部材なのですが、製材工程上、物理的除去は手間が掛かり過ぎなんでしょう。故に、わたしは煮出し処理しているわけです。それでもわたしがアスペンでも煮出しを行うのは、辺材部分にもポリフェノール類は十分に含まれていることを知っているからです。

オオクワガタとの相性
 このアスペン・チップ培地は、オオクワガタ♂幼虫にマッチする気がしています。というのは、チップがかなり大きめにカットされているので(5mm x 5mm角サイズの2mm厚という感じ)、腐朽深度が絶妙に合うっぽいんですよね。ちょっと小難しい表現をしてしまいましたが、要するに、材の腐朽スピードが♂が居食いしながらじっくりと食べ進むスピードとぴったり合致しているように見えるんです。♀の方は食い散らかす傾向が高いので、食痕を観察する限り、あまり合っていない気がします。或いは、チップではなく、やはりオガ粉のように粒状化させた方が♀には合うのかも知れません。

アスペン・チップ材

 腐朽菌はウスヒラタケに合わせていますが、この腐朽菌との相性もまったく問題なく、菌はよく培地に蔓延しています。実際、これは食用キノコ用培地としての実績を確認しての使用でもありましたので、他にもヒラタケ系ならなんら問題ないでしょう。
 しかし、一番の問題は、オオクワガタとの相性だったのですが、試用開始した時点ではそこのところが不明だったのです。その後、更にリサーチしますと、アスペンというのは海外では別名ポプラ、日本ではドロヤナギ、或いは、ヤマナラシ。要するに、ヤナギ系なんですね。あ、ヤナギはクワガタが樹液に着きますよね。また、中国では、ホペイ採取は主にヤナギだそうです。ほうほう、原種が着くんならまったく問題ないでしょう。ということで、偶々当たりだったみたいです。
 日本では、ワイルド・オオクワガタと言えば、どうしてもクヌギ、コナラ、ブナが三種の神器的樹種なので、中々他の樹種に目が向かないんですよね。わたしのフィールドである京都市内でも、樹液・材採取の何れに於いても、狙いのメインはクヌギ、アベマキの二択で、コナラでさえ採取実績がありません。ブナは市内では激レア樹種なので、他採取者の採取実績さえこれまで一切聞いたことがありません。また、京都でヤナギと言えば色街の枝垂れ柳が相場なんですよね。わたしが生まれ育った地域に近い祇園白川沿いの枝垂れ柳がすぐに目に浮かぶんですが、幼き日、白川沿いの枝垂れ柳でセミはよく追いかけ回したものですが、クワガタが着いてたのは見たことがないんですよねえ……。
 しかし、このように、ついつい自身の経験値に基づいて発想してしまい、他の新情報を排除してしまう嫌いがあるのはよろしくないのです。

着眼点と今後の開発の余地

 そもそも、わたしが菌糸瓶用培地材をクヌギ、ブナ以外の樹種に目を向けた切っ掛けは、昨今、そのような広葉樹オガコが急減して入手が困難に、また、それに合わせて価格も急騰したためです。そこで、入手の容易さと安価さに目をつけた材がアスペンとパルプでした。これらが良材で価格も安価安定し続けるのならば、もう敢えてクヌギ、ブナに戻る必要はないな、と今では感じています。
 それはですね、わたしも当初は腐朽材の樹種によって個体の成長の良否がはっきりと表れるものと考えていたのですが(これはベテラン・ブリーダー諸氏の通説でもあり……)、がしかし、独自に菌糸瓶材として試用検証してきた結果、培地の種類よりも腐朽菌と栄養体の方に依存度が高い結果が出ているんですよね。なので、今は——腐朽菌の餌材として適用可能であるのならば、樹種はほぼ無問題——と考えるに至っています。パルプ材(紙)でも問題ないことが実際にもう判ってますんでね。目から鱗ってやつです。
 あと、候補としては、アウトドア・ブームに乗っ掛かって最近流通が増えている燻製用チップのサクラ材も良いかも知れません。クリ、クルミは材が硬すぎで不適でしょうねえ。一定の樹種の汎用性が見えてきたのならば、要するに、あとは入手の容易さと価格だけが問題点なだけです。


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