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業界事情通Z氏との対談 - 4(独自仮説について、定説の信憑性について)

* 対談 - 3より続く

業界事情通Z氏(以下、Z): そろそろ前振りした話題に戻ってみたいんですが、「大きくならない3令と大きくなる3令幼虫がいる」という話です。これはKYOGOKUさんらしい新説でおもしろいな、と思いました。他のブリーダーにとっても実に核心的で興味深い情報だとも思います。少し突っ込んでお聞きしてみたいのですが?
KYOGOKU(以下、K): ありがとうございます。これはですね、おそらくはわたしのように幼虫採集経験後に飼育されたことの多い方ならば承知の事実と言いますか、まあ、採集と飼育を始めてみて最初に抱く大きな疑問点なんですね。その、「3令で採集した個体を菌糸瓶で育てても何故か大きくならない」という事実に直面してですね。これは、採集を続けていくうちに、決して個体差ではなく、大凡、どの個体であってもそのような結果になることを経験的に知ることになるわけです。で、その答えを自分なりに探した結果、というか、殆ど単純に消去法ですが、データに基づいて辿り着いた末に立てた仮説なんです。
Z: なるほど。しかし、他の採集者なんかからはあまりそのような情報や説は出てきません。というか、採集の好きな人は飼育やブリードには興味無く、逆に、ブリードに特化した人は採集はしない、というか、できないという方が大多数なんでしょうね。特に、採集者は魚釣りを同時に趣味にされてる方が多く見受けられますし、本質的には「獲る」ということが好きな人たちなのかもですね。
K: ふむ、もしかしたら、そういう傾向はあるのかも知れないですね。
Z: そして、「初令と2令幼虫の期間についてはどのように育てても結果に大差はない」と。
K: はい。これも、わたしのところのデータに基づいた答えです。
Z: それも、採集での経験からの?
K: はい。それもありますし、飼育経験との合わせ技ですかね。わたしは両刀使いなので。
Z: それは曲者ですな。
K: それはどうかわかりませんが。
Z: しかし、巷のオオクワガタ・ブリーダーの定説では真逆と言いますか、「大きく育てるには初令の内に産卵材から取り出し、できるだけ早期に菌糸瓶で育てるべき」と言われています。これは、現在、ブリーダー間では広く定着化している飼育初歩テクニックの「一丁目一番地」的常識だと思うのですが。
K: では、その根拠は?
Z: ……そうですね……「早くから栄養価の高い菌糸を食べさせないと大きくならないから」ということでしょうか。
K: ふむ。「孵化したばかりの初令幼虫を菌糸に投入すると菌に巻かれて死ぬ」という説もありますが。
Z: ありますね。その、孵化後の最初期だけは弱いので避けろ、ということなのでしょうか。
K: では、先ず最初の「大きく育てるには初令の内に産卵材から取り出し、できるだけ早期に菌糸瓶で育てる」についてですが、その検証結果というのを示されたものをわたしは見たことがありません。つまり、根拠のない、これも似非科学情報の一つです。これはですね、YouTubeやSNSで、初心者向けの動画なり、記事を制作する際に、どうしても発信者自身をオーソリティーらしく見せるには「それらしい」話というのを適当に挿入する必要があるんだろうと思うんですね。知識に乏しい初心者が納得し易い尤もらしく聞こえるネタと言いますか。「食い付きの良いネタ」というやつですね。
Z: 「掴みはO.K.!」というやつですか。
K: はい、そういうものの一つだと思います。それに、「初令から良い餌を与えておけば良い結果にはなっても悪い結果になることはなるまい」という、姑息な計算が働いていると思います。それが、例え誤った情報発信であったとしても、後で叩かれ難いネタと言いましょうか。しかし、そのアドヴァンテージが大いに活きた結果というのをご存知ですか?
Z: ……確かに、聞いたことがありませんね。
K: それが答えです。それに、オオクワガタではそのような初期餌富栄養絶対説があるのに、他の種では一切そのような説が聞かれないのもおかしなことだとは思いませんか? ならば、コクワガタやノコギリクワガタなどの他の種でも初期に食わせるマットの栄養価が重要視されないのは、わたしから見ればとても不思議な話です。
Z: ……ぐうの音も出ませんな……。
K: もう一つの方の、これは逆説というか、「孵化したばかりの初令幼虫を菌糸に投入すると菌に巻かれて死ぬ」の方ですが、そもそも、ワイルド・オオクワガタの卵は腐朽菌の蔓延した天然の腐朽材に産卵されます。つまり、菌糸が蔓延した真っ只中にです。それでもちゃんと孵化して育つわけですが、親の♀は産座……これのことを採集者間では「産卵痕」と呼びます……を掘って作り、そこから更に卵を埋める小さな穴を齧って空けたところに卵を産み付けます。そのとき、ちゃんと幼虫が孵化後の初期膨張ができる空間を作っておくんですね。そして、顎で噛み砕いた切り屑で丁寧に埋め戻す。これは卵1個、1個について、です。で、この切り屑にも親の唾液であったり、マイカンギヤから出された共生酵母が付着していて、それが幼虫に垂直移動するであるとか、抗菌物質を塗布しているであるとか、いろんな説があるのですが、そのような詳細な点についてはわたしには分析不可能なので証明はできません。しかしながら、とにかく、そのような状態で安置されている卵なり、孵化直後の初令幼虫を人為的に取り出して人工的な菌糸瓶に丸裸で投入するとなると、その結果はどうなるか、という話なんです。
Z: 自ずと違った結果になりますね。
K: そういうことです。このような定説は、大体が、飼育者の稚拙な憶測や判断に基づいたものと言えると思います。まあ、そのような発想をしたくなるお気持ちもわからないではないのですが、あまりにも考察が稚拙で、お話にならないのです。まあ、信じる、信じないはまったく個人それぞれの自由です。すべては飼育者のお気持ち次第です。
Z: 信じるものは救われるかも知れませんしね、似非科学信仰は。それで、似非科学情報も消去して考察してゆくと、「大きくならない3令と大きくなる3令幼虫がいる」に集約される、と?
K: はい、どうしてもそうなってくるんです。しかし、これはあくまでわたし個人の素人仮説に過ぎませんが、3令期の極短期間で勝負は決するのではないか、という説です。
Z: それはまた、大胆、且つ極めつけの核心情報ではないですか!
K: それは少々大袈裟ですが、わたしなりに徐々に外堀を埋めてきた結果、答えはそうなってきています。ただ、未だ決定的な特定にまでは至っていませんから、はっきりした言い方はできません。なので、そこは未だボカしておきたいのです。それに、未だ結果にも表れていませんしね。実際にその仮説を応用した飼育方法で成虫の大型化に成功はしていませんから。つまり、現時点では疑わしい未確立飼育情報の一つに過ぎません。
Z: それでも充分、貴重な価値ある情報ではないですか。
K: それは、受け取る人によるのではないですかね。まあ、あくまで一つのヒントとして利用はしていただける情報ではあるかもしれませんね。
Z: これも、或るクワガタ系YouTuberが発信していた情報にはなるんですが、「頭の大きな幼虫は大きな顎の成虫に成る」と。なので、頭の大きな幼虫になるように育てないといけないので、「初令の育て方が重要である」という話なんですが。
K: ……うーん……それも尤もらしい話の持って行き方なんですよねえ、実に。頭幅のある……ヘッド・カプセルの大きな幼虫は、確かに大きな顎を持った成虫に成り易いという傾向はあるにはあるとは思います。それは、前蛹化時の外骨格膜の形成時に僅かながら物理的な優位性が担保されるからです。がしかし、どうやって育てれば頭の大きな幼虫に成りますか? と、その方には逆に問い返したいんですよね。わたしの知る限りそんな方法は無いんです。もしもあるのなら、是非ともご指導いただきたいものです。
Z: ほほう。
K: 幼虫の外郭はクチクラ層でできているんですが、ヘッド・カプセルと顎については……、ヘッド・カプセルは脱皮時に最初に破裂する部位なので薄いのですが、特に顎については成虫の顎と同様に非常に硬質な外郭で形成されているんですね。これは、移動や食餌のための道具であり、生存活動の武器として強靭でなくてはならないからです。そのため、頭より下の体躯のように柔軟性は無く、成長肥大もしないわけです。つまり、加齢脱皮時のヘッド・カプセルのサイズは次期加齢脱皮時まで大きさは固定されてしまっているわけです。
Z: そうなんですか?
K: これもね、飼育オンリーの人には気づかないところなんだと思います。採集者は、初令から成虫まですべての加齢生育ステージの個体を数多く具に観察していますからね。こういうネタに関しては、採集時の観察眼が物を言います。成虫の材採集時には、その個体の居た蛹室内に必ず脱皮殼が遺っていて、顎だけは元の形状のまましっかりと在りますしね。
Z: なるほど。勉強になります。
K: それで、これはオオクワガタに限らずなのだと思うのですが、クワガタの幼虫のヘッド・カプセルの大きさ……つまり、頭幅サイズは、加齢脱皮によって、ほぼ倍化固定してゆくことが知られています。要するに、初期値である初令時のヘッド・カプセルの大きさを計測すれば、その個体が3令化したときのヘッド・カプセルのサイズは高精度で予測可能なわけです。これは、幼虫の種別同定判別にも応用される、採集者には必須の知識なんです。
Z: おお!
K: 従って、飼育者による餌材や飼育手法の工夫次第で幼虫のヘッド・カプセルのサイズを拡張肥大化させることは、幼虫の生理的にも、飼育技術的にも、そのどちらに於いても不可能だと思います。
Z: 件のYouTuberの飼育個体最大頭幅サイズは16mm超えだそうなのですが。
K: ご冗談でしょう?
Z: いいえ、そうではないと……。
K: それ、殆どその人自身で墓穴を掘っているような情報公開ですが……。
Z: あり得ないですか?
K: 国産オオクワガタではあり得ない数値だと思います。大体、ワイルドの♂の場合の最大数値で、初令: 3mm、2令: 6mm、3令: 12mmというところだと思います。これを超える個体も居るには居るかもしれませんが、かなりレアな個体だと思いますし、14mm以上というのはサブジェクトとして別の問題を疑わないといけなくなると思います。
Z: ああ、それ、きちゃいましたか……。
K: ちなみに、わたしは未だ3令で12mmを超えるヘッド・カプセルを持った3令幼虫というのは採集したことはないです。これは京都市産に限ってですが。これまでの最大が11mm代だったと思いますし、それらの子孫であるウチのブリード個体でもアベレージ的にそんなところで、未だそれを超す個体は出てきていません。もしも、採集時に12mmを超える個体が天然腐朽材から出てきたら現場で驚いてしまうと思います。それくらい、採集者の感覚的には12mmでも充分に大きいということです。
Z: ほう、そうなんですね。
K: つまりですね、頭の大きな幼虫というのは、自ずと卵の段階で卵の殻が大きくないと……、そこから幼虫は生まれてくるので、そうはならないんですよね。まあ、卵はかなり膨張しますので、最終的な孵化時のサイズにもよりはしますが。そして、更に遡ると、親♀の体躯自体が大きくないと大きな卵は生まれないということです。物理的に考えて非常に単純です。まあ、あとは考えられるとすればです、孵化時に幼虫の頭が異常に膨張するであるとか、しかし、そうなるともう奇形の域に入ってしまうのではないかと。
Z: ふむふむ。吹くのもいい加減にしろ、って感じですね……。というか、別の問題に発展する話になりますね。
K: そうなってしまいますね。
Z: もうそろそろデンジャラス・ゾーンに突入してしまいそうなので、今回はこのあたりで締めましょうか。
K: それがよいでしょう。もし、好評だったら、また次回にブッキングしましょう。

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