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コンタミを考察する

 オオクワガタを菌糸瓶やマット飼育をしていると100%は中々忌避できないのが、害菌、害虫類のコンタミだと思います。特に、個人での腐朽菌培養のハードルの高さの主要因はこれに尽きるでしょうか。マット製作の場合は好気発酵させる場合は腐朽と腐敗との境界域ですので、完熟後はどうしても雑虫のコンタミは防御しきれないのではないでしょうか。
 また、滅菌消毒とは簡単に言いますが、エタノールであれ、塩素であれ、これも100%完全には到底処理できません。一般家庭レベルではどうしても抜け穴ができてしまいますし、失敗して最悪の場合は培地全廃棄みたいなことになってしまうことも珍しくはありません。かく言うわたしもそんな憂き目にこれまで幾度となく遭っています。

先ずはルートを遡る

 添加剤として定番の粉物——薄力粉、米糠、麩、オカラ——などですが、おそらく、これらについてはもう買ってきた時からその袋の中にもう入ってしまっているというか……残念ながら、製粉所や製造所に存在がゼロってことはないと思うんですよね。原材料を大量に取り扱っていますしね。幾ら工場の環境を清潔にしていたって混入ゼロってことは物理的に不可能でしょうし、食品の性格上、消毒処理なんてできませんよね、人の口に入れるものですしね。むしろそっちの方が怖いし。ですので、粉物製品には粉ダニ等の卵が混入してると考えておいてほぼ間違いない。加工食品なんてぜんぶ入ってますからね。食べちゃってます、粉ダニの死骸なんて、知らないうちに我々は。小麦粉アレルギーてのは小麦粉自体が原因なのではなくて、要は粉ダニ・アレルギーのことですからね。食品使用の場合は最終的には調理で熱が入るので死滅していますが、菌糸瓶やマット使用では生のままで使用するわけで、なので、成虫が孵化してくるんですよね。

雑虫がトラッカー

 ということで、雑虫が混入してるってことは、その虫や卵にもいろんな菌が付着してるってことです。そして、彼らがトラッカーとなってそれらの菌類も移入させてしまうのです。
 例えば、これもYouTuberなんかが、産卵材用の榾木なんかを「水を吸わせた後でレンジで4 - 5分間チンすればO.K.!」みたいなことを無責任に放言していますが、そんなもんでは雑虫も雑菌も死滅しません。高熱処理の場合、数時間が必要だと言われていますし、実際、菌床製造工場では長時間オートクレープ処理されています。
 まあ、例えそこまで入念な滅菌処理ができたとしても、それを大気に晒してしまえばもう、その直後から菌には完全解放されてるってことですからね、一旦無菌リセットできたというだけのことなので、言い換えれば、菌に対する防御をその時点から新たに失い、既に無防備なのです。バクテリアに暴露シテーラってことです。

餌と店子

 パンをお皿の上に出したまま放置しておけば、そりゃあ夏場で二、三日も経てばカビも生えますわね。そもそも論として、窒素源を大気中に晒しておけば、それは即ち菌類に餌放置なわけです。菌糸瓶やマットの培地も、結局は菌類にとっては同じこと。栄養豊富な添加物が多いほど、悪い奴らにも目を着けられ易い。
 要は、いの一番に占有するべき者に占有してもらわないといけない。独占です。よく「幽霊ビル」なんて言われたりする、管理放置されて廃墟化したビルなんかの建物が在りますが、そういう場所って、怪しい人の遊び場や隠れ家になったりするじゃないですか? それと同じことが言えるのです。好まざる害菌はそのようにして蔓延ります。本来は、空き家には優良な店子に即入居してもらわないといけないわけです。滅菌処理とは、言うなれば、入居してもらう前のリフォーム、掃除みたいなもので、その後は即、優良な店子に入居してもらうのが理想的なのです。

C/N比

 ということで、今回は擬人化比喩表現山盛りのアホでも解る解説にしましたが、ウチの場合、雑虫系のコンタミは滅多に無いです。と言いますのも、粉物の添加剤をほぼ使用しないのと、菌糸瓶を腐敗させることが先ず無いからです。ただ、昨年は試験的に穀物系栄養素を添加試験したんですよね。そしたら、やはり粉ダニ類と思しき雑虫が発生しました。その栄養剤の使用を中止したらまったく出なくなりましたので、原材料の粉物由来だと断定できるかと思います。
 コンタミに関する誘発原因のもう一つは培地のC/N比です。低C/N比だと腐敗閾値が常に近いので、害菌も雑虫もスタンバイ状態と言いますか、いつでも来い状態なのですよね。高栄養 = 低C/N比という意識は、市販飼育材を使用されている方は常に持っておかれた方が良いと思います。
 わたしのオリジナル菌糸瓶は、常に高C/N比培地になるように意識的に製作しているので、そういうリスクは低いのですが、事、腐朽菌に対する害菌防御という視点からすると、紙一重という気が常にしています。よく試験的にオリジナルの栄養素を添加試験したりはするのですが、やはり、窒素源が入ると、害菌のコンタミ・リスクは一気に高まるんですよね。そういう意味では、カビ菌というのは目につき易く、一つのバロメーターにはなるかと思います。ただ、カビ菌類のすべてが害菌とも言い切れず、問題の無いものも多い(オオクワガタにとって)ですし、むしろ、炭素分解者の一員ではないのか、という印象を今のわたしは持っています。

気温

 基本の基本ではあるかと思いますが、やはり、これから夏に掛けての気温帯は、要注意というか、まあ、菌系の仕込みは止めておいた方が無難なんですよね。早い話が、菌類にとってのゴールデンウィーク、或いは、お盆休みみたいなもので、ラッシュもラッシュなわけですよ、もう。そこに切り込んで行くってのは、博打も博打です。

まとめ

 ということで、敵をよく知るってことは大事だと思いますね。実際に、わたし自身、これまで色々試してみて、失敗から多く学んだ気がします。微生物はそのサイズがあまりにも小さ過ぎで我々の目には見えません。なので、菌床・菌糸瓶の仕込み時はどうしても"guesswork"になってしまいます。その後、徐々に彼らは増殖コロニー化し、その時点でやっと我々、人の目にも見えてくる姿を現してくる。
 がしかしです、好気性と嫌気性の違いもそうなのですが、温度帯にしても、あちらはあちらで、ウィークポイントがあって、環境変化に弱いのですよね。適応域幅も案外狭かったりする。そこら辺りが経験的に判ってくると、こちらも上手くコントロールできたりもします。なので、経験がモノを言う域というのがあります。
 ちなみに、当家では成虫に着くダニ(所謂、「クワガタナカセ」)は皆無です。樹液木で採集したワイルドには必ず付着していますので、持ち帰って飼育する場合は、絶対に他の個体とは隔離飼育管理しておかないと全感染してしまいます。一度ダニが着くと駆除は不可能です。なので、わたしは樹液採集はしても現場での観察と記録のみに留めてその場でリリースして、その個体は持ち帰りません。
 また、ウチではコバエ、トビムシの類もゼロ実績です。おそらく、成虫飼育に関してもマットは使用せずに、水苔とハスクチップを床材に使用しているからかもしれません。とにかく、マットという物は雑菌・雑虫の温床でもあるのだということは肝に命じておいた方が良いと思います(微生物群の餌になるからです)。オオクワガタは本来、成虫も幼虫も、マットという飼育材は必要ない虫です。
 とにかく、思考停止せずに、自分で試して学びとることが大事ですね。クワガタ系YouTuberの言うことはお話になりませんので、信用しないことですね。

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