無加水培地培養実験 - 2
種菌は既に白色化して再発菌完了し、次に白い菌糸が培地内に伸びてきました。
連日30℃を越す猛暑の常温管理ですが、まったく問題なく、いや、むしろ活発に発菌している状態です。これも、巷のblogerやYouTuberたちは六に調べもせずに「30℃を越すような環境では菌糸は劣化するので冷蔵庫などで保管しましょう」とか仰っておるわけですが、このように、それは菌種(菌株)によりますよ、ということです。
同じボトルの同じ面を撮影しているのですが、変化の様子がお判りでしょうか? 種菌とチップ培地との境界にもやっとした白い菌糸が伸びてきています。これが、どんどん下層へと伸長して菌が蔓延してゆく筈なのです。
特性を知る
腐朽菌は、正に陣取り合戦の如くテリトリーを確保します。それは非常に合理的で、餌である培地の解放面、それはつまり外気との常時接触面であり、通気暴露している部分を確保し、先ず、その外枠面積に徹底して根を張ることで陣地を確保した上で害菌の侵入を防御します。よく、戦術論で「外堀を埋める」と形容されますが、本当にそのとおりに腐朽菌は菌糸を伸ばします。そうして防御壁を完全に設えておいてから、餌となる培地内部に向かってゆっくりと菌糸を伸ばしてゆき、最終的に全面積を手中に収める。
今回の種菌の植菌方法である、上部シーリング法は、この腐朽菌の繁殖特性を考慮した手法なんです。つまり、ボトルの解放面は上部だけです。もしも、培地内に害菌の侵入が無いと仮定すると、その上部さえ種菌でシーリングして抑えておけば、あとは腐朽菌の天下となります。今回は非加水培地なので、この方法が最も有効と考えました。
しかし一方、加水培地の場合ですと、害菌の侵入は既に一定量あったものと考えるのが必定で、培地全体を加水した段階で増殖が加速すると予測できます。その場合、上部シーリング法では、腐朽菌糸が上部から蔓延する前に下部で害菌が先に繁殖してしまうリスクが高いのです。これを防ぐために、予め培地と種菌を混ぜ込んでおくMIX法や積層ミルフィーユ法の方がそのような失敗確率を下げられる公算が高いのです。つまり、種菌の物量的優位性とその活性による利点を生かした害菌に相対した直接対決で腐朽菌に勝利してもらう方法です。前投稿で申しました植菌手法の「一長一短」とは、こういうことです。
このような腐朽菌の特性を考慮しますと、腐朽菌に害菌侵入防御のために無駄にエネルギーを消耗させず、ストレス・フリーによく菌糸を蔓延させて培地の分解を促進させるには、培地外の容器内の空気溜まり(代謝水溜まり)を可能な限り無くす工夫が必要だと考えるに至りました。200cc惣菜cupでの腐朽菌の状態が大変安定するのはその好影響と考えられます。
高C/N比培地+発酵
これまでの飼育データから考えると、オオクワガタの場合、常時、高C/N比培地が餌材として向いており、特に3令後期についてはその傾向が高いとわたしは判断しています。それは、窒素過多に至った低C/N比培地では拒食症になる幼虫が発生し易く、それは即ち「暴れ」フェノメノンとも言えるのですが、そのようになった幼虫を高C/N比培地に投入しますと、一転、大変落ち着いて食餌を再開するのです。よく、「暴れを起こした幼虫はマットに移動させた方が良い」というのはこれのことで、つまり、炭素率の高い無発酵マット等がこの場合適しているわけです。
これはどういうことかと言いますと、そもそも市販の菌床・菌糸瓶は添加剤による窒素含有率が高すぎるのです。加えて、幼虫の食餌によって最終的に腐朽菌は死滅しますが、その残渣が培地内で腐敗しだします。それらの相乗的変化によって、飼育最終段階では特に未分解の窒素源残留による培地劣化が発生し易く、それが低C/N比培地化を招き、幼虫が消化不良を起こして培地を食べられなくなる。こういうことであろうとわたしは分析判断しています。なので、同じ菌糸を使った別ボトルでは分解が良好で問題なかった、とうことも往々にして起こり得るのですが、それは菌糸瓶毎の個体差と、中の幼虫の生育度合い、共生酵母や微生物のフローラなどの違いが影響したものと考えられます。
今回実験している未加水生オガ・チップ培地は、正に高C/N比培地です。添加窒素源は種菌に含まれている分だけですので、菌糸瓶としては熟成段階でも培地全体としてはかなりの低窒素濃度なとなります。無論、加水していないので、培地の含水率も極めて低いですが、腐朽菌の分解による代謝水分量で腐朽熟成時には幼虫の必要とする水分補給は十分になる筈とわたしは考えています。
残る課題は共生酵母による発酵です。酵母菌は自ら移動はできないので、培地に直接添加しても単独による自然増殖は期待できません。というか、本来、共生酵母というだけに酵母菌は幼虫の消化器官内のマイセトームで増殖し、幼虫の糞と共に培地内に少しづつ排出還元されることで更に増殖範囲を拡大してゆくというのが自然な流れだと考えます。自然下の腐朽材中ではそれが実現されており、理想的な共利共生環境が成立しているわけです。
さあ、これを菌糸瓶の中でも再現できるかどうかが鍵であり、わたしのオリジナル菌糸瓶開発の肝とも言えます。これにはあと一工夫が必要だとも考えているのですが、先ずは正統的に初令 - 2令幼虫に共生酵母菌を添加した餌材を十分食餌させておき、消化器官内に確実に保菌させた後にこの菌糸瓶に投入という流れで、培地内で酵母菌発酵が起こるのかどうかです。但し、今回は仕込み時期の都合上、2令幼虫投入用には加水培地ヴァージョンの高C/N比培地オリジナル菌糸瓶に投入します。
ここで言いますところの「発酵」とは、酵母菌によるアルコール発酵(或いは、呼吸)のことであり、「発酵マット」等での糸状菌や納豆菌による発熱を伴った発酵とはまったく異なりますので、お間違いなさりませぬよう。
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