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2024産卵材のその後

 産卵set後、もう一ヶ月以上経過しているのですが、実は、一週間ほど前まではまったくと言っていいほど♀の産卵行動の気配がありませんでした。それで、「これはひょっとして……」と思い、♀を取り出して、再度ハンドペアリングを実施。そして再度産卵setに投入したら、一週間後に材はタイトル画像の状態に至りました。

2024 1st. lineage

 一度目のハンドペアリングで数回の繰り返し交尾の目視確認はしているのですが、実際に交尾はしていても何故か受精が上手くいっていない事例が案外よくあります(昨年もそうでした)。冬眠明けから生体の活動状態が未だ浅かったので体内器官が不活性だったからか、♂・♀何れか、或いは、双方共が未成熟であったか、おそらく、そのような原因だと考えられますが、そのような場合は再度ペアリングをすると成功することが多いです。未受精事例の場合、再ペアリング時に♀が♂からの交尾を受け入れますので、それで1回目が不成立であったことがほぼ確認できると思います(♀が交尾を嫌う場合、受精自体は成立していると考えられる)。
 さて、今回使用の材は市販シイタケ廃ホダ木クヌギ材にわたし自身がウスヒラタケ菌を植菌したものになりますが、当初から樹皮はそのままでいこうと考えていたので、植菌後に樹皮に潜んでいたものと思われるカビが発生していました。が、このカビは好気性のため増殖できるのは樹皮留まりで、辺材内部にまでは入っては来ないので、産卵材としての使用には特に実用上は問題ないです。また、♀の尿には抗菌作用があると言われ、♀の投入によって程なくカビ菌は死滅するのですが……。

植菌後、使用直前の状態 - カビが樹皮上に蔓延 

 ……がしかし、やはり、見た目にもこれは使い辛いし、飼育者の精神衛生上よろしくないです。

ホダ木全体をティッシュで包み、ワイルド・オオクワガタ共生酵母培養液を散布

 そこで、今回、新たに実施したのが、「ワイルド・オオクワガタ共生酵母培養液散布法」。これは、ワイルド・オオクワガタ共生酵母の培養が成功したことによる、わたしのオリジナルの新たな手法です。この施工によって、数日後にはカビ菌は完全に消え失せました。気分的にも爽快です。また、酵母の活性酵素による材の単糖質分解と共生酵母菌の孵化幼虫消化器官内への移譲補完もこれで大いに期待できます。

♀の穿孔痕(産卵痕)

 この材での産卵痕状態は野外採集時に発見するワイルドの産卵痕の見た目によく似ています。まあ、樹皮を剥がしていない姿がそれっぽさを雰囲気的に醸し出しているからではありますが、穿孔痕の状態がそれっぽい(天然産卵材っぽい)のです。かなりの採集実績を有するわたしでさえスイッチが入ってしまいそうになるリアリティが結構漂ってます(笑)。
 ただ、このような廃ホダ木を使用した人工産卵の場合、材の木口(断面)を好んで産卵する個体が多いのですが、この♀個体の場合はそれが皆無。この辺材上から穿孔したトンネル内の壁面に産卵していると思われます(孔は貫通していました)。このような場合、材を完全に破壊してみないと産座(卵を産んで材で埋め戻した痕)を確認できないのですよね。少し一部を削ってみてチェック、ということができない。なので、未産卵だった場合には同材の再利用ができなくなってしまいます。でも、経験上、産卵は間違いないと見ました。あとは、どれだけの個数を産卵しているかですが、これも、飼育経験上の材の状態と産卵開始からの日数からの"guesswork"になります。

ワイルド・オオクワガタ共生酵母培養液の効能

 今回、最も期待できるのは、何と言っても「ワイルド・オオクワガタ共生酵母培養液散布法」による効果です。ウチの個体群は、すべてわたしの自己採集によるワイルド個体が100%血統ルーツですので、ワイルド由来の共生酵母菌はロストはしておらず、しっかり保持継承していると思われるのですが、それに更に滑り止めを施すというか、補強と言いますか、これによって孵化幼虫の盤石な餌環境と体内消化器官への有効性が担保されるのではないかということです。
 実際、今回使用した廃シイタケ・ホダ木は共生酵母培養液散布前は硬かったのですが、現状は大分柔らかくなっている印象です。通常、廃ホダ木産卵材が柔らかくなる原因は、飼育者が材をマットで埋めたりすることによる「バクテリア分解(主に糸状菌類)」からなのですが、わたしはこれを大変嫌っております。バクテリア分解は、コクワガタなどにはむしろ有効なのかも知れませんが、オオクワガタは、あくまで白色腐朽菌と共生酵母菌による分解材が自然界でのデフォルトだからで、バクテリアのオオクワガタの餌環境への侵入は腐朽菌と共生酵母菌にとってはむしろ害悪だからです。なので、わたしは可能な限り自然界と同じ環境になるように産卵材もこのようにウスヒラタケ菌を植菌して仕上げ、わざわざ樹皮をそのまま残しているのは少しでバクテリアの侵入を阻止せんがためなのです。白色腐朽菌かバクテリアか、材が何れの分解者により支配されているかは、その匂いを確かめれば瞭然です。白色腐朽菌により分解されていればほんのりと甘い独特な芳香がいたします。
 また、例年は卵回収から個別に孵化まで管理して菌糸に投入という流れだったのですが、今年からはできるだけ孵化後自力である程度育った後の初令幼虫回収にしたいと考えています。と言いますのも、「大きく育てるには初速が大事」、つまり、——幼虫には早期から高栄養を与えるのが有効——との通説はまったくエビデンスが無いと、これまでの実験結果からわたしなりに結論できたのと(初令と2令採集のワイルド幼虫は採集時の個体差に無関係にその後の飼育次第で大きくできることが判明しています)、むしろ、共生酵母菌が培養された今回の産卵材を孵化幼虫にしっかり食べさせておきたいということがあります。それは、——高栄養を与えるよりも幼虫の腸内常在菌環境をベストにさせておく方が肝心——というわたしの考えからです。また、孵化後に自力である程度まで大きくなった幼虫の方が生命力も強いです。
 孵化後に菌糸を早くから食べた幼虫の方が大型化するという、ブリーダー間での通説・定説には、飼育者の主観が大きく作用しており、理科的な実験結果は二の次論が大多数です。人の手の入った二次林でも、ちょっと人里から離れていれば「原生林」と言われたり、各地の古木・銘木の樹齢が実際よりも大幅に割増されて誇張されているのと意識的には同じような気がします。初令幼虫に栄養価の高い餌を与えると、確かに早く大きくは育ちます(早熟化)。が、その後の経過の方が最終的なサイズに対する結果(成虫サイズ)への直接的影響は大きく、つまり、単純に成長カーブの初速を上げても、実は、それが最終的に必ず最大サイズ値に相関する事実立証は無いということです。要するに、あくまで飼育者さまどもの気分的観測誘導なのです。ただし、腐朽菌が死滅している廃シイタケ・ホダ木自体にはオオクワガタ幼虫の成長に有効な栄養素は殆ど残っていないため、餌材としての成長効果は見込めないというのは事実ですが、わたしの飼育経験ではその後のリカバリーが十分可能だということです。ですので、餌材としては「ホダ木<菌糸瓶」という図式には当然なりますので、大きな3令幼虫に育つ以前の2令までの段階で餌材をスイッチすれば問題ないです。
 大型成虫を人工飼育作出する上でのオオクワガタ幼虫での課題は、大型化に有効な成長時期というのが確かに有り、その時期に集中して高栄養価餌材を摂取させればよいのですが、その時期はいつ頃か? というのが、目下、わたしのフォーカスしているポイントなのです。それ以外の時期に高栄養を与え続けても、最終的な成虫の大型化には直接的な作用が効かないのです。


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