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菌糸瓶用ボトルの無双化(アップグレーディング)

使用するボトルの材質によって飼育結果は左右される?

 市販菌糸瓶に使用されているボトルの種類(素材)は、大凡、下記の4種類。

  1. ポリ・プロピレン(PP)——半透明

  2. ポリ・エチレン・テレフタレート(PET)——透明

  3. ポリ・カーボネイト(PC)——透明

  4. ガラス——透明

 これら4種、その材質等によって少々性質・特性が異なり、それによって菌糸と幼虫の成長に少なからず影響があります。
 この中で汎用的で最もよく見受けられるのがPP製だと思います。それは何故かと言いますと、耐熱性が高くて安価という理由からです。そもそも、菌糸瓶はキノコの人工栽培用に開発されたもので、幼虫飼育用はその応用・転用品でしかありません。従って、製造現場及び製品管理がキノコ栽培用菌糸瓶の製造ラインと同じということもあり、関連用品もその本来の生産品の「都合」に合わせた物であるという事情によります。
 通常の市販菌糸瓶の生産工程では、たんぱく質やその他の栄養素添加済みオガ培地をPP製ボトルに機械圧縮詰めし、次に殺菌消毒の工程に回ります。その際、ボトルごとオートクレープ処理されるのですが、これは、高圧加熱処理工程です。つまり、ボトルがこの処理工程に耐えうる素材であることが最も重要なわけです。菌糸瓶にPP製ボトルが使用され続けている理由は唯一、その為なのであって、他の素材に比べて何かしらの幼虫飼育に対する有意性が認められるからという理由からではまったくありません。
 むしろ、PP製ボトル使用の明らかに劣る点は「培地痩せが顕著」という事実です。これは、機械詰めによる培地の圧縮行程ではボトルの口径と最大容量断面部の直径との差によりその差分域の培地には圧力が加わらず、必然的に緩く詰まってしまうことによる結果からです。更にその後のオートクレープ処理で熱が加わったことによる「熱分解痩せ」も二次発生するので、最終的な容量はかなりの減量となってしまいます。もう一つ、蓋が嵌め込み式で密閉性が悪い点も問題なのですが、これが改善されないのは、本来、キノコ菌糸瓶にはまったく無用な機能性であるからです。
 クワガタ幼虫飼育用部材として捉えた場合のそれら数々の問題点を解消するために「手詰め菌糸ボトル」が在るわけですが、従って、こちらはクワガタ飼育専用の付加製造工程による製品です。がしかし、これは一次発菌の菌床を崩して、人の手で詰め直した「二次発菌もの培地」になります。また、その工程が増えてしまう分、割高単価となります。これら「手詰めボトル」に使用されているボトルの素材がPP製ではなく、透明のPET製やPC製なのは、一次発菌済みの培地を詰める故に熱処理の必要が無いので、飼育管理に有益な透明な素材を使用できるからです。
 ガラス素材に関しては、熱伝導性などでの有意性を挙げられる方も居られますが、わたしは使用経験上、明らかに突出したアドヴァンテージは感じることができませんでした。また、蓋を含めて菌糸瓶として利用可能な適材汎用品を見つけるのは困難であるため、現実的な選択ではないような気がします。

DAISO製PETボトル最強説 

 これまでに前出の材質容器、4種類すべてを幼虫飼育手詰め菌糸瓶用として使用してきた経験から、DAISO製PETボトル使用がわたしのベスト選択肢となりました。言うまでもなく、最大のアドヴァンテージはその価格です。

DAISO製PETボトル - 1500ccと800cc

 価格以外の選択理由の一番は、容器が一般的な円柱形ではなく、八角柱形だという点です。「え? それがどうして一番の理由になるの?」と思われたと思いますが、わたしも当初、使い始めるまではこれはむしろ無駄なデザイン造形だなあと思っていたのです。しかし、使ってみて実感できた意外な効能に気づいたのですよ! それはですね、この八角柱成型では、その断面が曲4面と平4面との組み合わせ形状になっているのですが、容器に培地を固く詰め込みますと、この平4面部が平面故に若干外へと膨らむ(張る)のです。これは素材の厚みが比較的薄いことも大きく作用しているのですが、容器に内圧が加わると極僅かながら容器が若干大きく膨らむわけです。
 菌糸瓶の培地は、容器にどれだけ固く詰め込もうとも、菌の分解作用により時経過で必ず物理的な「消失痩せ」が不可避に発生します。幼虫投入後は、当然ながら
幼虫は培地を食餌することによって糞を排出しますが、その内の分解された分量の物量が消失します。この必然的な生分解による培地痩せ問題は、菌糸瓶飼育ではそれが量的に極端な場合に於いて、幼虫の最適餌環境としては決して好ましいことではありません。菌糸瓶製作の際に「固詰め」が望まれる要因の一つがこれであり、それはソリューションとしても有効手段です。
 通常の円柱形の菌糸瓶用ボトルですとDAISO製PETボトルのような容積変化はその形状的にほぼありませんので、培地の痩せた分の隙間がボトルの内壁との間に発生します。腐朽菌は分解に伴い代謝水を排出しますが、それがその隙間に溜まり易くなります。そして、この部分への空気の流入が雑菌、バクテリアやその他、害菌の侵入を許し、結果、それらの増殖を促すことになります。つまり、その容器内空間エリアが、結果として培地の劣化加速の温床となるのです。これが好まざる要因です。
 がしかし……、DAISO製PETボトルに培地を手詰めで固詰めした場合、その圧力が加わったことで膨らんだ容器は、元の形状に戻ろうと内側への抵抗力を常に維持し続けているわけです。その結果、——培地痩せ分の隙間が発生し難い——という、最大の利点が生まれるのです! 当初、極僅かと思われたこの「変容器エフェクト効果」は、実用上の効果として、また、他のボトルと比較したときには馬鹿にできないアドヴァンテージだと使用を重ねて解ったというわけです。ただし、隙間が100%完全に発生しないということではありませんので、そこのところはよろしく。
 以上の優位性に加えて、材質が透明で内部を常時透視可能という点は、培地の状態も幼虫の状態も常に観察が具にできますので、管理性が高いのは言うまでもないでしょう。これはPP性の半透明ボトルでは事実上ほぼ不可視に近い状態になるので、それと比較して管理者的には圧倒的にストレス軽減になります。また、蓋がねじ式で密閉性が高い点とハンドルが付いていて利便性がある点も大いに有意性ありと思います。 但し、製品デフォルトでは蓋には空気孔等は空いておりませんので、その点、菌糸瓶用ボトルとしての流用の際にはD.I.Y.加工は必ず必要にはなります。

D.I.Y.加工の一工夫でボトル無双化!

 市販の汎用品のボトルを流用する場合、必須となるのがキャップの空気穴空け加工です。以下にわたしの場合のD.I.Y.加工の方法をご紹介します。
 わたしは、1500cc用ボトルの場合は6.5 - 7.0mmφ径サイズの穴を3つ、120°角間隔で木工用ドリル・ビットを使用して空け加工しており、800cc用の場合は同じく6.5 - 7.0mmφ径サイズの穴を1つとしています。使用実験から、空気穴はこの面積が培地の湿度を保ちつつ最低限の空気流入を維持できることが検証できています。

加工済み空気穴 - 6.5 - 7.0mmφ径 x 3

 この加工の際は、キャップの材質の大半が樹脂素材と思いますが、その素材に依っては鉄鋼用ドリルの方が上手く空けられる場合があり、母材との相性での使い分けが必要です。また、穴を開ける際は、電気工具を使用すると、回転スピードや摩擦熱などで母材を傷めたり、破壊に繋がることも多々ありますので、当て木やクランプなどを使用し、しっかり母材側を固定するなどして慎重に行う必要があります。

テンプレート

 当然ながら、綺麗に仕上げるにはそれなりの工夫も必要になります。わたしは、1500ccボトル用の3つ穴の場合、厚紙でテンプレートを予め作っておき、それをガイド・ゲージとしてキャップに当てて空ける穴のセンターの位置決めをしてから、厚紙ゲージのピンホールからニードルでピン・ポンチングしてマーキングした後、そこにドリル・ビットで穴空けしています。

ドリルビットをホルダーに取り付けて使用

 結果がその方が良好なことから、わたしは電動ドリルは使用せずにハンド・ドリリングで空けています。こうすれば、不用意な破損を防ぎつつ120°角で等間隔の3つ穴が空けられます(ゲージを製作の際は分度器を使用してね)。

リーマーで仕上げた800ccボトルの蓋の穴空け加工

 仕上げにはリーマーを使用すると、空けた穴の縁のバリが取れて仕上がりが綺麗になるのと、更に穴のサイズを広げたりすることができます。

不織布タイペスト・フィルター

 最後に、フィルターなのですが、以前は専門店で購入した不織布タイペスト・フィルターを貼っていたのですが、これ、空気の流入抵抗がほぼ無いのは良いのですが、その網目というか、透過穴は小さな雑虫レベルだと余裕で侵入可能であることが判明したので、当家では全面的に廃止にしました。

サージカルテープ

 で、現在、新たに導入したのはサージカルテープです。これも100均で購入できて、価格はタイペスト・フィルターとは比較にならないくらい安価。そして、通気性はあるのですが、透過性・透湿性共に低い部類なので、空気の流入量はかなり制限されます。だから、凡人ブリーダーの発想だと普通はN.G.アイテムだと判断されると思いますが、わたしの実験検証では空気暴露はできるだけ抑制した方が良いという検証結果を得ていますので、今のところこれがベストと判断するに至っています。
 このサージカルテープを穴を空けたキャップ部分の裏表面の2面に貼って使用しているのですが、そうしますと、マイクロメッシュなので、もう雑虫の侵入は100%阻止できます。その結果、空気の流入量も極めて制限されます。がしかし、むしろ、このレベルの流入量の方が菌糸の培養と維持も、幼虫の生育も良好である結果を得られているのです。まあ、それを信じようと信じまいと、それはみなさんのご自由です。

* 注意

 以上、今現在、わたしが自身の手詰め菌糸瓶に使用している容器(カスタマイズド・ボトル)を詳しくご紹介しました。
 これはあくまでわたし個人の主観と経験に基づいたオリジナル策の一つであり、独自のD.I.Y.加工を施した後の使用例なので、それらのスキルのない人は、ご友人や知人などの経験者に加工依頼するのが無難でしょう。
 また、空気穴のサイズとその数、使用するフィルターの種類のわたしの設定については、クワガタ菌糸瓶飼育での酸欠ヒステリーが完治した人にしかオススメはいたしません。それぞれ、ご自分のお好みのパターンに更にカスタマイズされれば良いかと思います。
 すべては少しでもご参考になればと考えてのご紹介です。導入による効果について何ら保証できるものではありませんので、すべて自己責任にてお願いします。

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