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ツインピークス型オオクワガタ成長曲線

 本年度のKYOGOKU血統の2系統め産卵材です。こちらも1st.とまったく同様の仕込みをした産卵材を使用しています。これらの廃ホダ木材の品質は、老舗販売品且つ、お値段そこそこのL size品の割にはお世辞にも良質とは言えませんでしたが、独自にウスヒラタケ菌を植菌した一手間でなんとか産卵はしてくれたみたいです。おそらく、通常の水没後の半乾燥処置での使用では上手くはいかなかったでしょう。
 タイトル画像は産卵setting後、二日経過のもので、ワイルド・オオクワガタ共生酵母培養液をほんの少量樹皮上に垂らしただけですが、もう既に樹皮を覆っていたカビは消滅しつつあります。

人工飼育特例である1年1化型を考察

 結局、今年も超遅めの産卵set仕込みになってしまいましたが、実際問題として、例年、我が家では早期にsetしても失敗するんです。それは、気温の問題と、それと関連してのオオクワガタたちの活性状態の問題があります。どうも、京都市産オオクワガタは晩生型なんですよね。今年の羽化予定組も未だ3令幼虫やってまして、6月も中盤で♂・♀共に前蛹にさえ成っていませんが、今年は菌糸瓶の交換時期を逃してしまった対策から、春以降は床下収納管理に変更したための低温度化の影響もあるかとは思われます。成長が遅めなのは例年のことで当家での常温飼育の常態なんです。
 成虫の冬眠明けも遅めで(今年は例外的に活動が早かったですが)、ゴールデンウィーク頃にペアリングして産卵settingという流れはウチでは少々早すぎるのですよ。まあ、一応、わたしもその頃合いを目安に毎年仕込みはするのですが、スケジュールどおりには上手くいかないです。要するに、単純に時期尚早なわけです。この、巷のブリーダー諸氏の仕込み時期についてですが、どうも、わたしが思いますにスケジューリングが前倒し過ぎなんですよ。それは先手必勝主義的な、できるだけ幼虫を早熟させて大きくしようという飼育者サイドの意図が働いてのことだと思われるのですが、最も重要な疑問は、実際問題として成虫の大型サイズ化に直結するのかどうかということです。時間的にもコスト的にもそこに有意差があるのかということです。でなければ、意味がありません。
 今更……ですが、この人工飼育による1年1化型を考えてみますと、これは、そもそも論として、年間を通した富栄養と環境温度の高安定維持による早熟化なわけです。なので、これらの条件が崩れた場合、1年1化の結果自体も崩れる。わたしの野外採集観察ではワイルド・オオクワガタは通常(自然下)は2年1化、または2年1越、或いは、それ以上の成長期間が必要だと思われるのですが、孵化初年度で3令にまで育っている幼虫というのは自然下ではまず居ないと考えられます。これは、親♀の産卵時期自体が晩夏期であることが考えられます。
 つまり、1年1化の早熟化は人工飼育による特例と言えるのですが、さて、これが成虫の大型サイズ化に直結するのかというと、どうもそうではない。勘違いしてはいけないのが「早熟」と「大型化」はまったく別事案であるということです。ネット上で一般公開されておりますブリーダー諸氏による飼育データ等を参照しますと、夏の孵化後から急激に成長カーブが上昇して冬前までに3令に加齢、3令である程度肥え太ったその後は横這いで、前蛹化前に体重を落とす個体が大半、ということになります。要するに、孵化初年度にはもう大凡の幼虫期の成長段階は終わってしまっている(臨界サイズに到達している)わけです。勿論、これは、体重計測が菌糸瓶交換時にしか実施できませんから、それを反映したデータでしかありませんが、成長カーブのデータ自体は大凡どれも似たり寄ったりなんですよね。飼育温度を一定管理されていようといまいと、この成長カーブの急激な上昇とその後の僅かな右肩上がり平行線は同様のようで、特殊な成長カーブの他データは見たことがありません。
 ところが、常温飼育の当家では少し違ったものになっています。冬前までに一気に3令化するのは同じなのですが、孵化初年には3令は大きくは成りきらない(見た目にも非常に中途半端なサイズ感で)冬眠態勢に入ってしまいます。食痕が現れてきませんし、これまでに試しに掘り返したり、半ば強引にボトル交換した経験では、そのまま12、1、2月の三ヶ月間はほぼ活動せずに寝ているという感じです。ブリーダー間でよく言われる「居食い」ですね。わたしは、この居食いは特に大型化には直結しないと今は考えています。そして、春になり冬眠から明けて活動を再開し、食餌再開により前蛹化までに少し体重を乗せる。なので、ウチの個体群は成長カーブの山が冬季を挟んで前年と翌年とに二つあるわけです。実は、わたしもこれまでは一般ブリーダーと同じ飼育1年1化の「1ピーク型」成長カーブに合わせるように菌糸瓶交換等をスケジューリングしていました。が、どうもそれは我が家の京都市産オオクワガタたちの成長カーブにはマッチしていないということが解ってきたのです。何の事は無い、特殊な成長カーブのデータはウチにあったのです。

ツインピークス型成長カーブに菌糸瓶交換を合わせる

 まあ、ウチでは何から何まで独自路線ではあるのですが、菌糸瓶交換のサイクルまでも、もう別路線でゆくということですかね。でも、それは飼育者のわたしの都合によるのではなくて、上述のようにあくまで、オオクワガタたちの成長に合わせるためだということです。それに大きくシフトしようと考え至ったのは、2023の2 Lineages、つまり、今年2024年に羽化予定の個体群たちの状態観察からのフィードバックなのですが、事実上、今回は「一本還し」というやつになっているのですよね。これは謂わば、無理やりに一般的な1ピーク型成長カーブの考え方を踏襲して菌糸瓶交換をスケジュール管理しようとしたことによる弊害とも言えるのです。本当は少なくとももう1回、菌糸瓶を交換しないといけなかったのですが、そのスケジュールと実際の幼虫の食餌状態とのズレから、ボトル交換タイミングを見誤ってしまった結果からなのです。
 もう一つ、解ったことなのですが、——初令から2令までは早熟させても、それが幼虫の肥大化には繋がりこそすれ、それがそのまま成虫の大型サイズ化に反映されることはない——ということがあります。これは逆説検証結果によるのですが、数々の採集ワイルド初令、2令幼虫の飼育結果から得られたデータによります。要するに、問題は——3令加齢後の成長段階にある——ということです。これも勘違いしやすい課題なのですが、成虫サイズは幼虫の最終体重がそのまま反映されるわけではないということです。
 つまり、我が家でのベストな考え方は、孵化初年度の夏期に初令から3令への最初の大きな成長ピークに合わせた菌糸瓶が必要であり、その後は冬眠に入るので、その間は餌材としての必要性は低く(殆ど食餌も移動もしないので)、むしろ、好居住環境材のようなものでよい。そして、翌年春の冬眠明けから夏の前蛹化までの間に二度目の成長のピークがあるので、この時期に最も栄養価が高く状態の良い菌糸瓶を当てる。これが当家ではベストな飼育スケジューリングであろうとこれまでのデータから導き出されたのです。
 従って、下記のようなスケジュールで菌糸ボトル1500cc x 2本飼育が完結可能なのではないかと考えられます。
7月 1st. bottle 初令幼虫投入 - 3令加齢 - 冬眠明け(翌年3月)まで継続使用
3月 2nd. bottle 冬眠明け再食餌開始 - 蛹化 - 羽化(7 - 8月)まで使用

 これですと、1st. bottleで8ヶ月間もの長期間に渡って同じ菌糸を使用し続けることになるのですが、「流石にそこまでは引っ張れないだろ」と、そんなことが可能なのかと疑われるかもしれません。でも、可能なんです、わたしのオリジナルの菌糸瓶の場合。実際、今年羽化予定群のボトルがそうなのです。まだ子実体が発芽さえしていますから。しかし、幼虫の活性は気温が急降下しだす11月頃には落ちていますから、以降の冬季は幼虫が冬眠して不活性になり菌糸も劣化しませんので、実質的な餌用としては4ヶ月の運用であとの4ヶ月間は冬眠用です。
 このように、オオクワガタの幼虫の成長に有益なのは、量より質が問題である、ということがこれまでの検証結果から解ってきたわけです。要は、菌糸という餌材の高品質をどう長期間維持し続けられるかということです。これは、市販品の使用ではどうにもならないわけです。

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