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共生酵母培養液を菌糸瓶に添加すると?

 前投稿の最後に思わせ振りな「実験」発言していたのはこれです。まあ、ウチの読者のみなさんなら「やっぱりね」だったと思います。
 植菌産卵剤への添加では、幼虫への酵母菌移譲の補足効果は勿論、カビ菌除去、ホロセルロース分解に明らかに効果が認められましたので、菌糸蔓延済み、また、再発菌操作時の菌糸瓶培地への添加の実験を実施しているところです。

共生酵母培養液添加試験中
オリジナル・ウスヒラタケ植菌アスペン・チップ菌糸瓶(再発菌操作)

 やはり、腐朽菌との相性は抜群のようで、発菌が促進されているようです。毎年、夏季の白色腐朽菌の発菌操作は、気温の常温帯が多種の雑菌増殖の温度帯と広く被るため、外気との通気上面解放部やエアー・ポケットができてしまうボトル内壁面にはカビなどの雑菌が腐朽菌よりも先に繁殖する事例が多く、正常な拡大培養は非常に難しいのですが、酵母菌の存在によって仕込みが大変安易になりました。また、培養液を添加しない場合よりもグルコース臭が強烈にします。今、とても食欲を唆られる甘い香りが部屋に漂っております。
 いやあ、共生酵母、ちょっと万能というか、オオクワガタ飼育餌材での全能感半端ないです。あとは、菌糸瓶内で自然増殖して発酵まで行けば、それはもう、菌糸瓶による天然白色腐朽材の人工再現の成功です。目下の目標であり課題ははそこですが、「もう、そんな餌材なら大きくならないわけがないでしょ?」と、今は内心そう思っていますが、実際はどうでしょうか。

菌糸瓶を発酵させる

 とにかく、菌糸瓶の製作に於いて、幼虫を投入後の管理上でも、考えても考えても腑に落ちなかった疑問、少々陳腐な表現をしますと、これまでどうも埋まらなかった最後のパズルのピースがこの共生酵母でピタッと埋まった気がするのです。とは言っても、まだ試験段階ですので、完全に問題解決というか、オリジナル飼育資材として完成形に至ったとまでは言えませんが、次の課題は発酵です。菌糸瓶を発酵させる。いや、ボトルをじゃなくて、培地をですね。これ、ただ単純に酵母培養液を数滴たらせば事足るのかと言えばそうはいかない筈なんですよね。何故なら、酵母菌に足は無いからです。これをどうやって天然の腐朽材の内部と同様に増殖蔓延させて発酵させるか。これが次の課題なのです。
 先ず、親♀から子の幼虫へと垂直移譲させられた共生酵母ですが、通常、これを幼虫は消化器官内に保菌しつつ、食べた培地から酵母の酵素によって低分子分解された栄養素を吸収し幼虫は大きくなってゆくわけですが、天然腐朽材中では幼虫が排出した糞にも酵母と酵素が多量に含有されているため、幼虫が移動した坑道にこの食痕が硬く詰められていることで腐朽材が発酵してゆくのだとわたしは考えています。はい、酵母菌には足(繊毛)は生えていないので移動できない弱点を幼虫が見事に協力して補っているということです。よく、「幼虫は自身の食痕を食べ返すので大きくなる」と、誰が言ったか知りませんが、この風説がオオクワガタ・ブリード界では広く流布されているので定説化していますが、実は、それは天然材中では滅多に見られないことでして、本来、幼虫は腐朽材に酵母菌を材中に増殖蔓延させるために坑道に食痕を固く詰め込みながら移動して行くのだとわたしは見ています。
 わたしの経験上、これを人工の菌糸瓶という餌材内で幼虫だけの力で実現させることは物理的に非常に難しいのです(その理由は後述します)。しかし、昨年は、菌糸を詰めた200ccサイズの惣菜cupではそれが実現できたのですよね。それはですね、孵化初令幼虫の初期成長管理用としての使用だったのですが、3令加齢までこのcup内では完璧に完結させられることができました。それは、食痕の状態(色、臭気)の観察で判断できます。しかし、その後の菌糸瓶投入後はといいますとですね、ダメだったのですよね。いつもの褐色食痕になってしまっていたのです。

添加剤の実利と弊害

 それで、やはり市販の添加剤入りの菌床・菌糸瓶培地は窒素源の含有量の問題からバクテリアの侵入は避けられないということを思い知った次第なのです。
 天然の腐朽材と人工菌床の決定的な違いはこれで、微生物たちの餌の素性が変わるため、結果、マイクロバイオータ(菌叢)が異なったフローラになってしまうからであると考えられます。本来、天然材にタンパク質は存在しませんから。菌糸瓶に使用される添加剤は幼虫を大きくするためのものとクワガタ・ブリーダーは認識しがちだと思うのですが、実情はまったくそうではなくて、元来は腐朽菌の子実体の早期収穫、収量を増加させるためのもであるということなんですよね。しかし、これをオオクワガタ幼虫飼育に転用すると大きく育ったので、そのまま有効であるとの認識なだけです。
 ですから、本来の、菌糸瓶をキノコ(腐朽菌子実体)の人工栽培だけの観点で捉えたとき、培地内のマイクロバイオータなどは考慮に入れなくてもよいのですよね、本質的な目的とその結果には変化はありませんから(天然物との食味差には違いが表れると思われますが)。ところが、この培地の中に幼虫が居ることで状況は大きく変化してしまう。がしかし、天然腐朽材中は、むしろ、これが常態であるということなんです。ここが重要なポイントなのです——自然下では、腐朽菌、酵母菌、幼虫の共利共生環境が成り立っている——ということです。しかも、キノコ(腐朽菌)の子実体もちゃんと発生する。三者の生育は一切阻害されないのです。つまり、これらの共利共生が成立・完結している。では、自然下と人工下との双方での環境の違いを生む源は何か? ——自然下では存在しないもの——それは、明らかに添加剤です。
 市販の菌床、菌糸瓶に添加剤が使用されているもう一つの側面は、生産が容易になるということです。言い換えれば、添加剤不使用での生産は非常に困難ということです。これはですね、添加剤が植菌した種菌である腐朽菌の発菌を促進させるということで、それだけその腐朽菌に培地を早く占有させることができるというメリットなんですね。つまり、他の雑菌繁殖被害を極めて減少させることができるので、培養の成功率が高まるということです。事、菌の拡大培養では、他の菌の侵入をどれだけ阻止できるかが大変重要な課題なのですが、これが製造上、最も見込まれる不確実要素なのです。これも表現を換えれば、菌糸屋さんに添加剤不使用の菌床、菌糸瓶を発注したって、十中八九それは真に受けてはくれないということです。もし、受けてくれたとしても大変高価な物になるのは間違いないです。

成功の鍵は通性嫌気性

 それでですね、共生酵母による発酵培地が何故にオリジナルの200ccサイズの惣菜cupでは実現できたのに、大きな菌糸瓶に移動後は失敗に至ったのかということなんですが、その一つは、上述しましたように、添加剤の含有の問題ですね。これは、窒素源過多によって幼虫の糞(食痕)がバクテリアの餌化してしまうからです。つまり、バクテリアの侵入増殖と分解によって、酵母菌の増殖と発酵が妨げられてしまうということです。これが、幼虫の食痕の木肌色から褐色化への変化の原因です。
 この解決策は、如何に培地の空気(外気)との接触面積を減らすかということと、培地自体の空隙率を下げるということ。これらの物理的対策に尽きます。巷のオオクワガタ・ブリーダーは「酸欠ヒステリー」であるとわたしはよく揶揄しているわけですが、200ccサイズの惣菜cupの蓋にわたしは空気穴は一切開けていないんです。これは、培地を充填しての菌糸培養時点からそうでして、幼虫を投入後も同じ。蓋は培地上面にピッタリ密着したままの管理です。だからこそ、良かったのです。極力、外気との通気を制限できたからこそ、結果的に害菌から酵母を守れたということなのです(例えピッタリ蓋を完全にしたところで完全密閉容器ではありませんので——そこが重要)。

200cc cup使用での菌糸、共生酵母と幼虫との共利共生
腐朽(酵素分解)と発酵の同時進行による理想的な餌環境の実現

 初心者向け動画で視聴者数を稼がんとするような姑息なオオクワガタ・ブリーダーのYouTube動画なんかはですね、「菌糸もオオクワガタと同じで呼吸してます。沢山酸素が必要なので、しっかり通気を確保しましょう」なんて宣うわけですが、この人たち、謂わば専門雑誌に掲載の飼育マニュアルの丸暗記内容をそのまま言っているだけのことで、実践的に本当に実利的に有益なヒントは一切、何一つ提供してくれてはいません。ポイントがずれたことを繰り返し垂れ流しているに過ぎないのです。彼らの言うことを真に受けてそのままやってしまうと、菌糸瓶にはカビが生え、そして次に培地が乾燥して腐朽菌が死滅します。そして、彼らに失敗の苦情を申し立てても責任を取ってはくれません。「わたしも通説をそのまま言っただけなので……」と言われるのがオチです。自分の目で観察し、自分の頭で考えて、自分の手で試した結果ではないのです。
「通性嫌気性」とは、好気性呼吸生物ではあるものの、嫌気環境では呼吸方法を切り替えて生存できる生物のことを指しており、酵母菌と乳酸菌がこれに該当します。しかし、菌床、菌糸瓶で使用する白色腐朽菌は好気性なので、通気性を良好にしないといけないと考えがちなのですが、実は腐朽菌にはその反対の性格があるのです。ここが重要なポイントであり、ヒントでもあるので、わたし的には飼育のキモを教えるなら正にココ! なのですが、YouTuber諸氏はこれを実践経験として学んでおられませんから、残念ながらご存知ないのです。
 つまり、腐朽菌の培養に適した温度帯は多くの多種菌類と同様で、餌場テリトリー確保は非常にライバルと拮抗した環境なのです。従って、菌類にとっては、如何に早期に餌環境を自分だけ占有し得るかということが最優先事項なわけですが、空気中には我々、人の目では確認できない微生物が億単位の数で浮遊しているわけです。こいつらに未だ目的の腐朽菌がしっかりと占有していない培地を解放してしまうようなことは、見す見す餌を横取りされるようなもので、目的の腐朽菌にとっては高ストレスなわけです。また、窒素源の添加は当然、カビなどの雑菌にとってはご馳走なので侵入増殖をわざわざ手招きしているようなことになります。
 他方、空気の流入を極めて制限した環境ですと、害菌の侵入を物理的に防御できるので、腐朽菌は防御に無駄にエネルギーを消費することなく、増殖蔓延し易い環境になります。また、空気穴は空けなくとも完全密閉容器ではないので必要最低限の酸素の流入、二酸化炭素と代謝水の排出ルートは確保されるのと、むしろ酸素は若干枯渇気味の方が腐朽菌は生存本能が高まり、増殖し易くなるのです。繰り返しになりましたが、これらの腐朽菌培養に関する重要ポイントは、先に述べましたように菌糸製造業者さんならば重々ご存知の筈だと思います。
 そして、幼虫も好気性生物なので、ブリーダー界隈ではトラブルの発生源は何かと言えば酸欠であるとの無確証断定酸欠論が流布されているわけですが、幼虫の呼吸も腐朽菌と大変よく似た性格があり、通気嫌気性に近い側面を持っているようにわたしは感じます。でなければ、空気の流入を極めて制限した200ccサイズの惣菜cupで約二ヶ月間管理した幼虫の生育が大変優秀だった結果は説明できません。果たしてこの結果をみなさんならばどう分析されますでしょうか? また、天然腐朽材中でも同様です。どれくらい空気(外気)が材の中に流通していると思われますか? 何度もワイルド・オオクワガタ幼虫を採集してきた天然の腐朽材をよくよく観察しておりますが、わたしには外気の導通ルートは極めて制限されているようにしか見えないのですが。他に納得のゆく理論はありますでしょうか? あれば、是非ともお聞かせ願いたいのです。

オオクワガタにはバクテリアはご無用に

 要するに、オオクワガタの菌糸瓶飼育のキモはバクテリアなどの好気性の雑菌類のコンタミ増殖阻止に尽きるということです。まあ、これを実際問題、どうやって物理的に実現するかというところが、テクニックということですね。これこそは本当の飼育テクニックだと思います。
 そして、褐色化した幼虫の食痕(市販の菌糸瓶で普通に飼育していればそうなります)を新規瓶に交換し幼虫移動時、古い瓶のその食痕を移入するように指導されている人たち、本当に勉強し直した方が良いですよ。もう誤った似非科学情報を世間に流布するのは止めましょう。これは罪でさえあるとわたしには思えます。バクテリアの増殖した食痕に酵母は生きて居ません。なので、オオクワガタの幼虫にはまったく有益ではないのです。むしろ、培地の腐敗を促進します。もう、こういった似非科学情報による被害者を増やさないためにわたしはこうして度々敢えて言わせてもらっております。第一、わたし自身がその被害者でもあるからです。ご指導されているとおり、同じことを何度も試しましたとも。しかし、結果は最悪です。これが原因で食痕も培地も腐敗するんです、必ず。そして、それが良い状態に復帰するようなことは決してありません。そのブリード・シーズン、もう後戻りは不可能なのですよ。この落とし前、どう着けてくれるんですか、あなたたち。
 酵母は餌の有無、温度などの生存環境が整っていないと増殖しませんし、生きられません。木肌色のオオクワガタ幼虫の食痕の中には共生酵母が生きて居ますが、褐色化した食痕の中には居たとしても死骸しか居ません。これがリアルです。

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