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冬リレー没案のお焚き上げ①

 お久しぶりです。淫夢投稿者の黒占です。
 昨年九月より冬の恋バナ淫ク☆リレーの企画者として非常に多忙な日々を送っておりました。本当に疲れました。なんか五キロ太りました。

 ……さて、サムネイルをご覧になって皆さんご存知の通り私の冬リレー提出作は激ハメ爺ちゃんと77歳の肛門モロ感の親爺という合計140歳超の二人が繰り広げるお話でした。「恋バナ」というにはいくぶん老成されたテイストにはなりましたが、「男が好きなのに仕事を続けた末他人に踏み込めなくなっていた老ゲイビ男優が、ボケた老人との共同生活から小さな譲歩点を見つけて人をまた好きになれるようになる」という"年老いてから始まる恋の予兆"を本題として、そこそこ良い出来になった感触があります。「絵面に騙された、感動した」というお声も多くいただき、嬉しい限りです。
 しかしながらこのお話、世に出るまでかなりの紆余曲折がありました。……実は、本当はもっとシリアスな展開になる予定だったのです。

変更点1

 シルバー人材センターのあくどさが緩和。
 当初は、ボケた癖に腕だけは衰えない暗殺者を扱い切れず、激ハメ爺ちゃんに単なるボケ老人として押し付ける感じでした。しかしながら後述する変更に伴い、全体的に性格面の上方修正が行われました。

変更点2

 しあわせ紳士のバックボーンが平和に。
 当初は老警察官で、若い頃市川の暗殺業に巻き込まれ友人が死亡(HITMANの非ターゲットキルのような状況を想定。ただ変装用の服を調達するためだけに殺された)。警察の規則により捜査から外され、その捜査は迷宮入り。個人的に調査をするも結局時効を迎えてしまい、退職が近づいた事でヤケになりビデオに出た……という設定でした。
 撮影後激ハメ爺ちゃんと再会して励ましの言葉を掛ける所は同じです。しかし、その後市川が起こした騒ぎにより警察として出動し、人知れず友人を殺した真犯人の手がかりを今更になって見つける事になります。
ですがこちらも後述する変更に伴い、重い過去が無くなりました。

変更点3

 死人がゼロになりました。
 しあわせ紳士の旧友に加え、当初は市川も最後に亡くなる予定でした。と言ってもこれはいわば寿命による大往生です。市川と死別し残った激ハメ爺ちゃんが、また男優として一人足掻き続ける事を決意する、というのが想定していた終わり方です。

 以上の変更点は全て、終盤の大きな山場を一つ削除した事により生じたものです。
 削除の理由は二つ。編集作業が全く進まない事と、今冬のリレーで悲痛な展開をする作品が多発した事です。
 この山場を入れると、間違いなく動画は30分を超える。そればかりか、今作もまた重たくビター展開を迎える事になる。それは避けたかったのです。
 確かに、映像作品においてカタルシスというものは視聴者に強い感動をもたらしてくれます。しかしながら反面、そこに至るまでの過程が必ずと言っていいほど長い。長いだけならまだしも、ストレスフルです。主役たちはほぼ間違いなく一度逆境や窮地を迎えることになります。
 つまり。

 とっっっても見てて疲れるんです。
 いくら終わりが美しかろうと、余韻が心地よかろうと。
 確実に疲れます。視聴にパワーを要します。いやほんま。
 そんなのが連日続いたんですよ。夏と違って普通にリアルが忙しいでしょ12月って。余計疲れるしなんならもうそこそこの人数が動画積んでそうだな。毎日映画見てるような人間じゃなきゃキツいって。でなくても皆胃もたれしてるに決まってる。「もう感動はいい、十分堪能したよ」とか。そう思ってるんじゃないだろうか。

 
そこまで考えた結果、筆者は割と迷わず初期案を諦めて動画を短縮し、ギャグ・人情路線へと舵を切ることに決めたのです。
 誰も死なず、誰も不幸にならない。二人の老人が孤独から解放され、彼らの日常はその後も命ある限り続いていく。
 そんな希望に満ちた終わりにしてやろうと企み、実際結構上手く行った気がします。
 ……再生数がカスですけど。
 夏リレーの拙作の30分の1ですけど。

 まぁ恨み節はここまでにしましょうか。
 最後に最大の変更点───削除せざるを得なくなった山場の内容について書いておきます。

変更点0

 以下の展開を削除し、視聴後の精神的疲労を軽減。

 ───自分の旧友を殺めたのが市川だと突き止め、彼と相対するしあわせ紳士。ボケで何も覚えていない市川の態度に紳士は激昂し、激爺の制止も聞かず銃口を向けますが、腕の衰えぬ市川は殺気を感じ取りすぐさま銃を奪います。
「撃てばいい。それであんたを裁けるなら死んでも構わない」
 観念したしあわせ紳士でしたが、激爺が市川から彼を庇います。
「あんたは単なるボケ老人だ。これからもきっと───そうだろ?」
 しかし、心を通わせた激爺に図らずも銃を向けてしまった市川の脳裏に「お父さん」(ISI君)の死の瞬間の記憶がフラッシュバックし、それが引き金になって過去に殺してきた人間達の事を全て思い出してしまいます。
「天国に行きたい……!」
 幼かった頃の市川(MNR)は組織にとって、要人暗殺の駒───いわば使い捨ての銃弾に過ぎませんでした。一回任務を果たせば自決して終わりの命。そこを割り切れなかった「お父さん」は、市川を逃がそうとしますが失敗し粛清されます。「お父さん」を守れなかった絶望が、大事な人を失った悲しみ───誰かの大事な人の命を奪う事への罪悪感となって、市川を苛みます。
 自らの頭に銃口をぴたりとつけ、譫言のように懺悔の言葉を連ねながら蹲る同居人。しかしその姿を間近に見て、激爺の思いは完全に固まります。市川の肩を強く掴み、こう言い放ちます。
「あんたが何をしてきたかは全部聞いた。こうやって証人だっている。それは分かってるんだ。でも───やっぱりそんなの関係ない。あんたが何だろうと構わない。私は……あんたに最後まで生きて欲しいんだ。今まで一人だったんだろ。じゃあ私がこれからは一緒にいる。一人じゃ出来なかった事も行けなかった所もいっぱいあるだろ。一緒にしてやる。一緒に行ってやる。まだまだこれからも生きてもらわなきゃ───私が寂しいんだよ」
 市川は泣きながら銃を下ろします。しあわせ紳士は苦い顔をしながらも意を決し、市川から奪い返した銃を腰に納めると静かにその場を立ち去ります。
 そして二人を写しながらフェードアウト。
 次の画面は三ヶ月後の春、葬式です。喪服を着た激爺が写ります。
「ほんと、最期まで自分勝手だよなぁ……あれだけ言ったのにすぐ置いてっちゃうんだから」
 その後参列したセンターのスタッフに礼を言うついでに軽いやりとりがあります。市川を最後まで看取った報酬として激爺が要求したのは、葬式の開催費用でした。あとはすっかり憑き物の落ちた顔で式に来たしあわせ紳士との会話を終え、桜並木を激爺が一人歩いて完結です。
「大丈夫、そのうち迎えに行くさ。確かホモも地獄行きなんだろ?  だからそれまで待っててくれ。あんたの分まで足掻いてやるさ」
 という具合のセリフで締めるつもりでした。

 以上、没案お焚き上げ第一弾でした。

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