今年もJ2が面白いと思う11の理由。
2024シーズンのJ2開幕まであと3週間。それぞれの新チームの仕上がりも気になるところですが、今季からJ2は大きく変わる点がありますので、まずはそちらをおさらいしておきましょう。
2024シーズンから大きく変わるのが、チーム数。
J1も、J2も、J3も一律20チームです。地方クラブを大切にして多くのチームにチャンスを与えたい野々村チェアマンらしいチーム数の拡大ですが、今となっては「16チームくらいの方が日程組みやすかったんじゃね?」という声が漏れ聞こえてくる気もします。
ともあれ、J1はチーム数が増えて、J2は減ります。J3は去年から20です。
「J2は減る」――だ、大事件です。ここが最重要ポイントです。10クラブで発足して以来、「われもJ2に加盟したし」と手を挙げる物好きクラブがあれば、末席に加えてゆき(※条件を満たせば)、12、13、15、16…と産めよ増やせよのスローガンの元で増えていったJ2が。
2012年に「さすがに22でやめとこうや」と22クラブ制となり、以降12シーズンにわたって22チーム・全42節という国内サッカーで最も堅牢に保たれてきたチーム構成が、変わるのです。
そもそも22チームというのは世界にも稀な多チーム構成であり、交通の便がよろしくない地方にもチームがあり、おまけにシーズン中の中断期間も原則皆無というハードさが、めぐりめぐって日本サッカーをタフに鍛えてきました。その功績は語り継がねばなりません。
そんなJ2のチーム数が減る。一体今季、何が起こるのでしょう?
①昇格チャンスは去年以上
昨年は“必ず3チームが昇格できる”という昇格ビッグチャンス・イヤーで、実際東京ヴェルディはそのチャンスをモノにして16年ぶりに昇格を果たしました。
しかし、今季以降も“必ず3チームが昇格できる”というレギュレーションは変わりません。なおかつチーム数は22→20。「昇格」にフォーカスすれば、去年以上にチャンスが広がっているということは、皆さん薄々お気づきのはずです。それを口に出してしまうと「あ、コイツJ2舐めてるな」と思われるので賢い人は口に出しませんが、昇格の自信は200%!とか豪語してみたいものですね。
さて、20チーム中3チームが昇格できる訳ですから、ざっくり計算すると7チーム中1チームが昇格できるのです。22チーム制になる前年、2011シーズンに20チームで自動昇格3というレギュレーションがあったのでその時以来(昇格したのはFC東京、鳥栖、札幌)。
プレーオフ導入前の当時とは違い、20チーム中6位でも昇格のチャンスがある訳なので、6/20くらいで昇格に絡めるのです!!シーズン半ばを過ぎたあたりでも「今季はイケるんじゃね?」というチャンス感をたくさんのチームが味わえるのではないか…と。
しかも…
②反則級の降格チームはいない
今季はJ1から降格してきたチームは1チームのみです。来季からはJ1から3つ落ちてくるので、たとえ同じレギュレーションであっても「今季が一番昇格チャンスがある」という説には説得力があります。
そして唯一の降格組・横浜FCは2シーズン前にはJ2にいたチームであり、巨大戦力を擁するビッグクラブではありません。J2を見てきた皆さんならば、過去によくあった反則級の降格チームとは違うということはご理解いただけると思います。決して横浜FCを軽視している訳ではありません。
ただし、昨シーズン反則級の戦力を保有する降格組だった清水が今季もいる訳ですが…。清水については、のちほど。
③20チームで自動降格3の恐怖
今季から変わるレギュレーションで最も大きなものは、自動降格枠が2→3に増えることでしょう。22チーム制になり、降格という概念が生まれて以来、初めての降格数増加です。(※コロナ禍による緊急レギュレーションで2020年降格0→2021年降格4の例はあり)
しかも何度も言うようにチーム数は22→20。20チーム中の3チーム、ざっくり計算で7チームに1つは自動降格するという恐怖のレギュレーション。残留争いに絡むチームやカードが激増するのは明々白々です。10位くらいの中位にいてもおそらく終盤まで安心できない。それどころか7位とか8位にいて「今季は昇格に絡めるかも?」とワクワクする順位にいても、背中合わせのように降格がチラつくという極楽/地獄が紙一重な展開も、大いにありうるのです。
また、J3勢は軒並みJ2のライセンスを取っているので、自動降格枠は間違いなく3です。唯一ライセンス無しだったFC大阪も、下部組織の活動を条件に来季のJ2ライセンスは下りるので。
④年々手強くなるJ3からの昇格組
2020年には北九州、2022年は熊本と、J3からの昇格組の躍進があり、昨季は昇格組2チーム(藤枝・いわき)ともに残留に成功。上位勢を食うことも珍しくなく、昇格組が年々手強くなっているのはJ2研究者たちの間ではもはや共通の認識です。
J3はJ2とはまた別次元の厳しさのある地獄ですので、そこをくぐり抜けてきたチームはやはり逞しいのです。また、昇格組が手強い理由として、昇格したからといって大きくチームを変える訳ではなく「継続・積み上げ」でJ2に臨んでくる傾向が強くなったことが考えられます。
今季の昇格組は愛媛と鹿児島。両者ともやはり継続路線。最近の傾向からみても、この2チームがJ2に入って大きく劣るとは思えません。
⑤日程の緩和
今季からは試合数(節数)も減ります。42試合→38試合。J2もルヴァンカップが入りますが、ほとんどのクラブは+1~2試合(勝ち進んだら話は変わる)。全体的に日程は緩和化され、ひどい過密はそこまで考慮しなくてよいかと思います。
日程が幾分でも緩やかになるということは、“紛れ”が起こりにくいということ。連戦が理由で強いところが足元を掬われるという可能性は下がるはず。もしかすると、選手層は去年までより手薄でも戦えるのかも…。いずれにしろ、しっかりと基盤が作れているチームがしっかり結果が出せるシーズンになるのではないかと思います。
一方で、これはJ2には限らないのですが年々競技における強度と運動量が上がってきていて、怪我のリスクも増加している気がします。昨シーズンの町田は、それを乗り越えられるだけの選手層を保持していました。「なんだ、やっぱり選手層は必要じゃん!」って話ですね、はい。
⑥監督継続クラブが多い
今シーズン新監督が指揮を執るチームは、仙台、栃木、山口、(長崎)、大分のみ。残り15チームは昨シーズンと同じ監督です。新監督組でも大分(と長崎)はJ2の経験が豊富で、栃木はヘッドコーチに経験豊富なヤンツーさんが付いている。J2として未知数なのは仙台と山口のみですね。
もちろん、監督は去年から継続していても戦力が大きく入れ替わっているチームもあります。でも監督が肌感覚として現在のJ2を熟知していることはとても重要なこと。どのチームがどれだけ熟練度を上げているのか?は今季序盤の注目ポイントになると思います。
ちなみに昨シーズンは自動昇格3チーム中2チーム(町田、磐田)が新監督でした。一昨年は2チーム(新潟、横浜FC)とも新監督。その前の2021年も1/2(京都)は新監督。なので新監督が不利だということは決してないのです。むしろ少数派の新監督勢には頼もしいデータ。特に仙台の“ゴリさん”森山監督がJ2でどんなチームを作るのかは楽しみです。
⑦怪物助っ人不在?
時にJ2に現れてはJ2を荒らして去っていく怪物級の外国人助っ人。今季はそんな怪物は今のところ見当たりません。オルンガ級の外国人ストライカーはいないし、エリキもデュークも昇格して去りました。チアゴサンタナも個人昇格。
昨季の得点王フアンマ(長崎)は引き続きJ2でプレーします。もちろん脅威ではあるものの、J2では見慣れた存在。むしろJ2が本籍地みたいな外国人であり、怪物とはちょっと違う。
その他昨年の得点ランキング上位で今季もJ2でやるFWは、カルリーニョスジュニオ(清水)、小森飛絢(千葉)、森海渡(徳島→横浜FC)、ピーターウタカ(甲府)あたり。
新加入の外国人で反則級な雰囲気があるのは、アダイウトン(甲府)。2015年にJ2で大暴れした前科持ちです。また、ガブリエルシャビエル(岡山)は2017年後半だけでJ2を荒らした元怪物。今回も怪物化するかどうかは、まだわかりません。
未知数の外国人FWはエロン(仙台)とグレイソン(岡山)、あとブラガ(清水)。日本未経験外国人が日本のサッカーにフィットするかどうかは蓋を開けてみないとわからないので、しばらく様子をみるのが鉄則です。
ひょっとすると手のつけられない怪物に化けるかもしれないのはイスマイラ(栃木)。ヤンツーさんと出会うことで雑な部分が成長すればあるいは。あとは、千葉のドゥドゥ+エドゥアルド(元ドゥドゥ)のWドゥドゥが合体怪物になる可能性も…。
いろいろ名前は挙げたものの、個の能力で理不尽に片付けてしまう怪物任せみたいなゲームは、J1よりはずっと少ないシーズンになるはずです。J1はマジ理不尽。
⑧容赦ない夏の引き抜きの恒常化
かつては年に2~3人程度だった「夏のJ1からの引か抜き」が近年活性化。J2でブレイクすれば即「優良物件」として持っていかれるのです。昨年の藤枝勢(渡邉、久保)や群馬の長倉もJ1でしっかり活躍しましたし、経済的に優位なJ1チームがJ2から引き抜く流れは今季も変わらないでしょう。
これまでターゲットにされてきたのは、J2の中でも中~小規模のクラブでした。ただ強化費の傾斜配分(リーグからお金が出るのはJ1の上位だけ)もあって格差が広がる流れの中、J2のお金持ち勢でも引き抜かれるようになるかもしれません。J1下位ですら主力を夏に引き抜かれるのですから。
前半戦好調なチームが出ても、それはJ1から主力を引き抜かれてしまうサインになる。沸かしたての湯船が撹拌されて温度が均一化するように、夏の移籍期間を境にシャッフルが起こりやすいリーグなのです。
⑨逆にJ1レベル選手が夏に出回る
昨年の中原(C大阪→東京V)のように、J2に出場機会を求めて夏に期限付き移籍する例は昔から“定番中の定番”。このパターンでJ2に移籍してくる選手のレベルも上がってきている気がします。J1側で「本来の力を発揮しきれていない選手」が結構いて、どうせ出すなら同一リーグよりはカテゴリーの違うJ2へ、という流れですね。
今季特有の事情としては、パリ五輪(サッカーは7月24日~8月10日)がある年なので、この年代の選手が夏にいろいろと動く予感をひしひしと感じます。しかも夏の移籍ウインドーは7月8日~8月21日なので、丸被り。
五輪に選ばれなかったこの世代の有望株がJ2に来るパターン、五輪で活躍してJ2からJ1(あるいは海外)へステップアップするパターン…いろいろありますが、前提条件としてそもそも大岩ジャパンが出場権を獲得できるかどうか。考えたくはないですが、五輪の出場権を逃すパターンの方がもっとドラスティックに若手が動くことになりそう…?
⑩最初から包囲網?清水の存在
反則級の降格組は不在な一方で、昨季昇格を逃してしまった清水がJ2では飛び抜けた存在であると目されています。おそらく他チームからは最初からマークを受けることになるでしょう。強豪チームとの対戦となると、やはり入念に対策をするし、それなりの心構えで臨むもの。今季も清水は、それくらいの存在です。
しかし、厳しいマークを受けても、秋葉監督は「われわれは強豪である」ことを胸を張って発言するタイプ。その発言は時には揮発油のように対戦相手の炎を燃え上がらせてくれます。最有力チームが堂々と「俺たちは強い!」と宣言しているのだから、ライバルたちは「何くそ」と立ち向かう。面白い構図になるのは自明です。
そんな清水ですが、昨季から攻守のキーマンを失っていて、やや戦力を下げているようにも映ります。反則級から絶妙なラインの強豪にリニューアルした清水の存在がJ2を盛り上げる一因になりそうです。
強ければそれはそれで他の19チームが燃えるでしょうし、序盤出遅れたとしても夏にすごい補強して盛り返してきそそうだし。どっちに転んでも目が離せないチームです。
⑪あまりにもイレギュラーな長崎
J2の中でもひときわイレギュラーに存在になってしまったのが、長崎です。名目上は監督であるはずのファビオ・カリーレ氏と前コーチ陣をFIFAに提訴し、シーズン頭から監督を置かず(置けず)、指揮を執るのはヘッドコーチ(下平氏)という異常さ。逃げた監督用に編成していた戦力でシーズンインしなければならない困難さを思うと、ちょっと目眩がしてきます。
一方で、それはチームで一致団結できるほどの絶対悪を持っているということ。ヘッドコーチ格でも、自由に編成できないというハンデを理解した上でオファーを受けた下平氏に求心力が集まりやすい状況も生まれそう(カリーレ氏が連れてきた外国人が残っているのは気がかりですが)。下平氏と関係の深い秋野がカリーレ体制戦力外からの電撃復帰&キャプテン就任など、物語性は増しています。
シーズン終盤の10月からはジャパネットが800億とも900億ともいわれる資金を投じた一大プロジェクトの目玉・PEACE STADIUM Connected by SoftBankがオープン。その時の順位次第ではとんでもない追い風になる可能性があると思います。係争が今季中に決着するのかしないのかはわかりませんが、立ち向かうべき悪を内部に宿した異例のチームがどういうチームに仕上がって、何を見せてくれるのか、大いに注目したいところです。