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決勝No2. 花火

皆さま、お暑い中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
蛙家寿金治でございます。

え〜、まだ6月だっていうのに関東甲信越地方では梅雨が明けたらしいですねぇ、ええ、梅雨が明けるってぇと本格的な夏がやって参ります。
最近では熱中症で病院に運ばれる方も多いそうでね、暑さ対策も万全にしないといけやせんね。

熱中症といえば先だってわたくし、近所の公園を散歩しておりましてね、しばらく歩いてますと木陰のベンチに若いカップルが座ってたんです。
なんだか仲良さそうで微笑ましいなぁなんて思いながら前を通ったんですよ、するってぇとね、カップルの女の子の方がポーッとした顔で熱中症、熱中症…ってぶつぶつ呟いてましてね。
おいおいお嬢ちゃん、でえじょうぶかい?体の具合でも悪ぃんじゃねえか?ってんで声掛けようと思ってたらそのカップルおいらの前でいきなりキスですよ!
こっちは面食らっちまいましてね、いってぇどうなっちまってんだってなってましたらね、女の方が男に向かって「ねぇ、チュウしよ、ねぇチュウしよー」
ねぇチュウしよーが熱中症に聞こえてこっちは心配しちまってたって話なんですがね…

ちょっと、前の席のお母さん!顔真っ赤にして聞いてるけど何思い出しちまってんだよ!こんな噺家のくだらねぇ話聞いてる間に家でおとっつぁんが熱中症で倒れちまってるかも知れねえよ?

え?あ、なんだい、隣の方がおとっつぁんかい?そうかいそうかい。こりゃ失礼しました。
おいらてっきり北津留翼かと思ってたよ。

おいおい、おとっつぁんウケすぎだよ、決して褒めてるわけじゃないんだからさ。

なんの話してたんでしたっけ?
そうそう、夏だよ、夏。

え〜、夏の風物詩といえば花火。なんてことは皆さんご存知かとは思いますが、古くは江戸時代、両国川開き花火というのがありまして、今の隅田川花火大会と言えば皆さん馴染み深いんじゃないでしょうか。
「た〜まや〜!」「か〜ぎや〜!」の掛け声でお馴染み、玉屋と鍵屋という花火師が活躍していた時代でございます。
元々は初代の鍵屋弥兵衛という男が立ち上げた「鍵屋」、そこから暖簾分けという形で出来たのが「玉屋」当時は川の上流を玉屋、下流を鍵屋が受け持ち、江戸の夏を大いに盛り上げたと言われています。

「おい、ハチ!テメェまた女のケツばっかり追っかけてやがるのか!花火の勉強もろくにしねーで、鍵屋のマサをちったぁ見習えや、歳の頃から言うとおめーとおんなじくれぇだろ?あいつは若えのにいい仕事する、少しばかり変わりもんだけどな。
観てる人の心に刺さる花火を上げやがる、てぇしたもんだよ、あの若さで。それに比べておめえときたら…」

『うるせぇよ、うちは玉屋だ。ここんところ何年かは鍵屋より評判いいじゃねえか!遊んでる女連中にも言いふらすように言ってんだ、「ハチの上げる花火は江戸で一番だ」ってな』

「馬鹿野郎!なに言ってやがんでぃ、このうんつく野郎め!お前はなんて情けねぇ事してやがる、己の腕で勝負するってのが花火師だろ?江戸で一番かどうかは見てる衆が決めるもんだ。おめぇはいっつもテメェの事ばっかり考えてやがる、おいらが、おいらがってな。
先だってもおめぇのわがままでタケさんに迷惑掛けたばかりじゃねえか、飯も食わしてもらって、酒もたらふく飲ませてもらって、散々世話になってるタケさんの思いを無下にするなんてぇのは江戸っ子の風上にもおけねぇ。俺はな、おめぇの死んだ親父に合わす顔がねえや!」

父親が亡くなった後、師匠としてハチの面倒を見てきた喜一にコテンパンにやられたハチはひとつの計画を企てます。

一方その頃、空の上で事の全てを見ていたのが初代鍵屋弥兵衛とハチの父親の清七でありました。

「おい、清七、喜一がてめぇに合わす顔がねぇってよ」

『親方、ほんと申し訳ねぇ。おいらが甘やかせて育てちまったばっかりに、ハチのやろう。』

「まあまあいいじゃねぇか、それより下見てみろや、ハチの野郎、マサの火薬蔵に忍びこんで水でも掛けるつもりだなありゃ。やり方が古典的だねぇ。しかし」

『ったく、なにしてやがんだ!あの小僧』

「でえじょうぶだ、心配すんな清七、ありゃ予備の火薬の蔵だ。花火大会の火薬は日本橋にある蔵にあるやつだ。しっかしハチの野郎はとことん考えが浅はかだなぁ」

そして花火大会当日、当然無事だったマサの作った鍵屋の花火は江戸の夜空を綺麗に彩りました。

「か〜ぎや〜!ってな。おっと!あっちいなぁ。
マサの野郎、ここまで届く程高く上げやがる。あいつぁ腕を上げたな。それに比べて清七、見てみろいセガレの呆気に取られた顔をよ。なぁ清七よ、脳ある鷹は爪を隠すってぇ言うが、あいつぁ深爪のトンビだな」

『どういうことですか?親方』

「出す爪も無えし、ましてや鷹でもねぇってこった。アーハッハハ」

自分の屋号におごって努力もせず、評判だけを上げてやろうって男と、ひたむきに仕事に打ち込んで腕を上げて一端の花火師になってやろうって男の話でしたが、いかがだったでしょうかね?
現代の実社会でも非常に良く見るパターンじゃないでしょうか?ええ。

私が座右の銘として胸に刻んでる言葉があるんですがね、『実るほど こうべを垂れる 稲穂かな』って言葉、皆さんご存知かとは思いますが、一応説明しますとね、稲が成長すると実を付け、その重みで実(頭)の部分が垂れ下がってくることから、立派に成長した人間、つまり人格者ほど頭の低い謙虚な姿勢であるって言う意味なんですよ。
どれだけ偉くなっても驕らず昂らず、常にこうありたいですね。

ところで先日ね、家内の裸を久しぶりに見ちゃいましてね、いや、たまたま脱衣所に入ったら風呂上がりに出くわしちまったっていう、ちょっとした事故みたいな話なんですけどね、その時に浮かんだ句を一句。

『熟れるほど こうべを垂れる 嫁の乳』

お後がよろしいようで…

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