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前置き・評㉗文春砲直撃の蓬莱竜太『広島ジャンゴ2022』を観るまで、演劇界考

 蓬莱竜太作・演出『広島ジャンゴ2022』@渋谷・シアターコクーン。天海祐希、鈴木亮平のW主演。A席9000円で観る。2022/4/5(火)~4/30(土)、S席11000円、コクーンシート5000円。※大阪公演5/6~5/16
 1幕1時間10分、休憩20分、2幕1時間20分。
 ※こちらは「前置き」のみ。芝居自体の劇評は↓↓
評㉗蓬莱竜太作・演出『広島ジャンゴ 2022』コクーンA席9000円(2022年4月27日)

報道前から、「初(→勘違い)」蓬莱竜太を観る予定

 蓬莱竜太、初のコクーン芝居
 蓬莱竜太の作品を観たことがないと思い込んでいた(実は観ていた=後述)。世間一般の知名度はさておき、演劇界では知られた存在。観てみたかったので、3月には、4月のこの『広島ジャンゴ2022』チケット購入済み。
 舞台では観たことのない天海祐希、鈴木亮平の演技は楽しみだし、蓬莱竜太の芝居とはどんなものか、を演劇的視点(?)で“真面目に”観るつもりだった。さあそろそろ観劇日、と思っていたら、彼に関する芸能報道が続いた。観劇姿勢に影響しない、としたら却っておかしい。プライベートが漏れれば人気商売は左右される。観劇前の自分の思いを書く。

演劇界の「強弱」構造、容易な“職場恋愛”

 昨今の「芸能界の性加害」の話。今ここで同じに語るつもりはないが、映画の世界の監督と同じく、舞台の世界で役者に対して演出家、劇作家の立場が相対的に“強い”傾向にある。

1.選ばれるために「気に入られたい」(大切ではあるが)

 演出家なり有名劇団主宰者なりに対し、役者の数の方が圧倒的に多い。演出家やプロデューサーらがオーディションあるいはオファーで、その母数の多い、かつ大半は「替え」の効く役者たちの中から出演者を選ぶ。必然的に、役者は、自分で作品を選べるほどの有名人でもなければ、演出家、プロデューサー、有名劇団主宰者らに、良くも悪くも「気に入られる」ように行動しがちになると思う

2.「いい作品」作りで作家、演出家に「心酔」していく

 さらに、とくに舞台は、台詞を覚え込んで多忙なプロでも一か月程度は稽古する。作家の台詞を心身の隅々まで行きわたらせることになり、ある程度作家を尊敬し、その作品が素晴らしいものと自分で思い込まないと、台詞や演技に真情がこもらず、いい芝居はできない。結果的にも「尊敬」「心酔」することになる。演出も同じ
 劇作家と演出家を同じひとりが手掛ける作・演出となれば、もうその人の世界そのものの体現、「神」に近いのではないか。

「役者は作家の思いを観客に伝えるために演技」には疑問

 よく、「役者は作家の思いを観客に伝えるために演技する」などと聞くが、それは本当にそうなんだろうか、それだけなんだろうか
 映像、映画は、監督が絶大な編集権を持ち視点を固定し、すべての撮影が終わった後にその役者の全演技ごとカットさえできる。これと異なり、舞台の場合、演出はされるが役者は生の身体を客にさらし、一度幕が開いたら演出家は手が出せない(万が一の舞台脇からのプロンプ=台詞を忘れた役者に台詞を教える=くらいはできるか)。もちろん、その一回で役者は降板させられるかもしれないが、一度幕が開いた舞台は役者のものだ。それが「作家の思いを観客に伝えるため」だけ、とは思えない。アングラはこの辺をやや言ってた気もする。未確認。

「気に入られたい」「心酔」から“職場恋愛”への容易な道

 は、さておき、「1.気に入られたい」「2.結果的にも心酔する」から、“職場恋愛”成立までは、一般の会社における職場恋愛より早いだろうし、可能性は高いだろう。
 役者同士の恋愛も多いし。恋人同士を演じればなおのこと。美男美女も多い。
 と、ここまで、“職場恋愛”が容易な背景を考えた。

 ただ、人数の多い役者に比べ、演出家、劇作家、有名劇団主宰者ら(映画監督やプロデューサー、一握りの有名俳優も)は人数の少ない分だけ、その時点でのしあがり、「少数派の“強者”」となる競争を勝ち抜いているのであり、その力、努力は認められるべきだろう。
 多くの役者をまとめて一つの世界(観)を作り上げる、それは努力を伴う才能だ。そこにパワハラやセクハラ、モラハラなどがあるか、はまた別に考える。

岸田國士戯曲賞受賞、売れっ子の蓬莱竜太

 蓬莱竜太は。46歳。劇作家、演出家、脚本家。劇団「モダンスイマーズ」(西條義将主宰)の作・演出。舞台版『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』なども手掛ける売れっ子。
 2009年、『まほろば』(新国立劇場・栗山民也演出)で第53回岸田國士戯曲賞(=別名「演劇界の芥川賞」)受賞。
 2017年、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』(2016年パルコ劇場・栗山民也演出)で第20回鶴屋南北戯曲賞受賞。自分は、この『母と~』の再演を2019年3月、新宿の紀伊國屋ホールで8500円(全席指定)で観ていたが、その時は蓬莱の作と関心無し。女優の演技に目が行って、作・演出にさほど興味を持たない観劇姿勢の時代(自分的に)だったか。いや、むしろ、演劇界の大御所たる栗山民也(元・新国立劇場演劇部門芸術監督)の演出を観てやろう、だったかも。

3000円の蓬莱舞台(1/8~1/30)が突然完売

 で、人気のようだし、蓬莱作品観ようかな~と思いつつ、見損ねていた。
 で、今年1月08日~30日の蓬莱竜太作・演出『だからビリーは東京で』(東京芸術劇場シアターイースト)は、なんと3000円(安い!)。蓬莱が続けてきた若手育成プロジェクトの一環でもあるということで、観にいこうかと思っていた。所謂有名な役者は出ておらず、その時点では席はあった。
 しかし、まもなく完売の報。

伊藤の蓬莱舞台へのつぶやき1/16

 その際、女優伊藤沙莉(27)がこの公演を観たとツイッターでつぶやいた影響とも聞いた。人気上昇中の女優の一言は大きい。

 1月16日
に伊藤は「ずっと楽しみにしていたモダンスイマーズ「だからビリーは東京で」観劇して参りました。」とつぶやいている。

 面白かった(×5回)、傑作、蓬莱さんが挑戦し示した「優しさ」は間違いなく心に届きました。最高、最っっっっ高。「今」観ることに意味のある作品です。珠玉です。これでもかってくらいおすすめです。
 これが3000円で観られるなんてどうなっとんねんとすら思いますが粋な計らい過ぎてその時点で泣けます。

伊藤沙莉のツイッター(2022年1月16日)より抜粋

 このつぶやき、チケット売り切れのチョイ悔しさで、自分はその時見た。
 蓬莱竜太をめちゃめちゃ好きなんだな、と素人は勝手に思った。気持ちを隠さないどころか、「あふれかえる思い」を表に出しまくっている。ねえねえ、知って! 聞いて! みたいな感じだな。
 ふーむ。自分が出ている芝居ならともかく、ここまでべた褒めとは。

 そうしたら

伊藤沙莉の「年の差愛」報道4/11byフライデー

 4月11日、伊藤沙莉の「年の差愛」がネットで報道される。

 初の熱愛発覚!大人気女優・伊藤沙莉が密かに育む「年の差愛」 気になるお相手(=蓬莱竜太)との出会いは舞台出演 4/11 フライデーデジタル

 女優伊藤沙莉(27)と脚本家・蓬莱竜太(46)の熱愛という。
 最近テレビに出まくっている伊藤の方が現在では世間一般に知名度が高く、蓬莱は脚本家と紹介。2021年6~7月の蓬莱作・演出舞台『首切り王子と愚かな女』に伊藤がヒロインで出て。
 なるほど。合点。
 今時の芸能マスコミは芸能人のSNSチェックは欠かせない仕事のはずだから、1月16日の伊藤のつぶやきを見れば「おっ」と思って張り込みして現場を押さえるのは、それほど難しくないはず。発覚も時間の問題。伊藤はむしろ知られたがっていたように見えないでもない。あのつぶやきが、取材のきっかけかどうかはわからないが。

美談? 蓬莱作品を観る前のもやもや

 「美談風」報道っぽい。舞台の演出家が女優に、とは非常によくあるパターン。まあいいか。先日のつぶやきを見ると、伊藤は蓬莱が好きでたまらないように感じるし。 

 ただ、この時点で、『広島ジャンゴ2022』@シアターコクーン(4/5~4/30)は始まっていたし、「自分の作品に出た女優とできた作・演出の舞台を観にいくんだな」みたいな、もやもや感が出てきた。まあ、でも観よう。

蓬莱の“二股愛”報道4/20by文春砲

 と思っていたら、来ました文春砲。

 伊藤沙莉の18歳上恋人劇作家・蓬莱竜太氏が朝ドラ女優と“二股愛” 4/20  文春オンライン

 肝は、先のフライデー報が流れた4/11の前夜に、別の女性の部屋に行ったという話。蓬莱は文春に「長い友達」「マンションで芝居、オーディションの話をしていた」と説明。伊藤は「知っています。可哀想でも被害者でもなんでもない」とつぶやく。
 今度は、劇作家と紹介されている(舞台的)。

 ふーん。事の真偽は知らないが、気になるのは、先のフライデーはどこまで取材していたか、だ。文春が取材に動いたと知って、慌てて「熱愛」報道を出したのか、あるいは「出来レース」だったか(違ったらすみません)。いずれにしても、文春は、一通りでなくもう一歩踏み込んだ。蓬莱を張っていればできただろうが、基本を押さえた取材だ。

 そのうえでの、自分の観劇。前置きが長くなったが、直近のこれらの状況が観劇に影響しない、と言えば完全な嘘になるので書いた。
 からの、観劇。

 矛盾しそうだが、結果から言えば、以上の報道とはほぼ関係なく、公演を、冷静に観劇した。蓬莱は役者として舞台に立ったわけではないからかもしれない。
 本来の「劇評」はこの後。
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評㉗蓬莱竜太作・演出『広島ジャンゴ 2022』コクーンA席9000円(2022年4月27日) 


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