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厭な感じのするアパート

 知美さん(仮名)は通勤時の通り道で、一か所だけ苦手な場所がある。
それは古びた二階建てのアパートだった。
その横を通る時、異様な気配を感じるという。

具体的にはアパートの側面にある階段の踊り場の所。
そこに女が立っているのだという。
何をするでもなく俯いて立ち尽くしている。

そしてもう一つ。
階段を登り切った所に首から上の無い男が、手すりから身を乗り出して下を見下ろしている。
首から上が無いのに、見下ろしているとは奇妙な表現だ。
だが知美さんによると、それらの存在は視覚的に見えている訳ではないようだ。
上手く表現出来ないが、なぜかいると感じるのだという。
首の無い男は、ちょうど階段の真下に放置された古い三輪車を見下ろしているのではないかと知美さんは感じた。

他に迂回する道も無いので、毎日その場所を通らなければならない。
知美さんはストレスを感じ、母にその事を打ち明けた。

「そんな事あるわけないでしょ」
真面目に説明したが、母親は知美さんの話を信じなかった。

だが、ちょうどそこに知美さんの姉が帰宅した。
母と知美さんが話している内容を耳にしたお姉さんは声を上げた。

「分かる!あのアパートでしょ!?」

詳しく聞いてみると、お姉さんも知美さんとほぼ同じ事を感じていたのだ。
ただ、お姉さんが言うには女の方は稀に位置が移動していることもあるという。

また、そのアパートの十字路に面した囲いのフェンスがいつもへこんでいた。
車がよくぶつかるのだという。
特に見通しの悪い場所ではないらしい。

そこを通る車のドライバーも無意識のうちに何かを感じとっているのだろうか。

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