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窓から見える公園

 二十代の男性、高原さんはかつて小学生の時に、ある重い病気に罹り小児科の病棟に一年ほど入院した。
入院からほどなくして、同じ年頃のK君という友達が出来たという。
別々の病室だったが母親同士が仲良くなったのをきっかけに、親しくなった。
聞けばK君も同じ病気で治療中で、入院した時期は高原さんよりも早かった。
友人が出来た事で入院生活の大変さも少しは紛れる。
ある夜の事、高原さんが寝ていると窓の外から物音が響いてきた。
気になるので起き上がってカーテンを僅かに開いて外を眺めた。
すると、病院のすぐ隣にある公園の中を動き回る影に気づいた。
しばらく観察していると、その影は坊主頭の男の子だと分かった。
楽しげに駆け回っているのが街灯の白い光にぼんやりと照らされている。
やがて影は複数に増えた。
三つ編みの女の子や、別の男の子もいる。
どうやら彼らは追いかけっこをしているらしかった。
高原さんは少しうらやましく思ったそうだ。
翌日K君にその話をすると彼は首を捻った。
「そんな夜遅い時間に、子供がいるかな…」
言われてみれば確かに変だ。
しかし、その後も夜中に遊ぶ少年達の姿を時々見かけたという。
ある時、高原さんは真夜中にふと目覚めた。酷く気分が悪い。
外から、はしゃぐような声が聞こえたので公園の方を見た。
また例の子供達が遊んでいるのだが、病院の方から誰かが現れた。
K君だった。
彼は子供達に話しかけると、一緒になって楽しげに遊び始めた。
自分には秘密にしておいてK君だけが彼らと遊んでいるのだと思い、握った手でドンと窓を叩いた。
公園にいた子供達が一斉にこちらを振り返る。
その中の一人が高原さんに向かってゆっくりと手を振った。
すると他の子供達も手招きをしたり、手を振っている。
高原さんは仲間に入りたい衝動に駆られた。
だがK君だけが怒ったような表情を浮かべている。
怪訝に思った瞬間、公園にいたはずのK君が病室の窓の前に現れた。
突然、K君の口の両端が亀裂が走るように大きく裂け、異様な声で笑い出した。
高原さんはそこで気を失った。
次に目覚めたのは翌日の昼間だった。
母から、昨夜遅くにK君の容態が急変して亡くなった事を告げられた。
高原さんは心を痛めたが、その後治療を終えて無事退院した。
あの夜、もし子供達の仲間に加わっていたらどうなったのだろうか。
高原さんはK君が守ってくれたような気がするのだという。

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