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廃病院の非常口

 Nさんがまだ大学生だった頃、夏休みに数名の友人を伴って心霊スポットと呼ばれる場所に赴いた。
市街地を抜けた山の中腹に廃病院があり、そこで怪異が起こるという噂があった。
現地に着くと車を降りたが、病院の周囲は雑草が生茂っていて玄関まで行くのも難儀だった。
昭和の頃に営業していた病院で、懐中電灯の光を当てると建物の外壁もかなり傷んでいるのが見てとれる。
中に入ると心霊スポットにありがちな落書きがそこかしこに見られた。
建物内を一通り見て回ろうという事になり、一階部分から探索していくが特に変わった事も起きなかったという。
だがNさん達が最上階である三階の廊下を歩いている時、唐突に後ろから誰かが声をかけてきた。
「おい、ここで何してるんだ」
年配の男性の声だった。
突然の事だったのでNさん達は身をこわばらせた。
「ここで何してるのか聞いてるんだ!」
男性は激昂したように怒鳴りつけた。
この建物を管理している人だろうか。
Nさんはそう思って、恐る恐る声の主の方を見た。
懐中電灯を向けるのが憚られたので、顔は見えなかったが確かに男性らしき黒い人影がNさん達の背後に立っていた。
「出て行け!」
そう言うと男性は廊下の突き当たりの非常口を指し示した。
動揺したNさん達は小走りに非常口の方へ向かった。
錆かかった扉を開けた時、Nさんは悲鳴をあげてその場に倒れ込んだ。
非常口の外にあるはずの避難階段が無くなっている。
後ろから来た友人が懐中電灯で下を照らすと、鉄が腐食して崩落したらしい階段の残骸が見えた。
気がつくのが遅れていたら、地上に転落するところだった。
Nさん達は顔を見合わせてから廊下を振り返った。
先ほどまで立っていた男性の影がいつの間にか消えている。
怖くなった彼らは慌ててもと来た道を辿り建物を飛び出すと、車に乗り込んで病院を後にした。
玄関まで出てくる途中にも男の姿は見当たらない。
Nさんはあの男性が何者だったのか未だに分からないのだという。

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