前線
写真の通りの街に住んでいる。
年明けから体を壊し、ようやっと落ち着いて来たかというタイミングで外出自粛が降って湧いた。お陰で季節感がまるっと欠落してしまっている。
とっくに春である。新年度が始まっている。根雪は道の隅で塩カル混じりのシャーベット状の塊になっているし、洗濯物を外干ししても凍らなくなった。
北の春には2種類在る。辛うじて冬ではないから取り敢えず春と呼称することにしている、ぼんやりした時期と、夏の直前、競うように花が咲いて散る数日に分けられる。
住んだことが無いので想像でしかないが、恐らく、本州以南の春は後者の状態が暫く続くもののことを言うのだろう。羨ましいことである。北国ではそんな華やぎは2週間も保たない。梅も桜も一緒くたに咲く北の春を豪勢だと言う人も居るけれど、住んでいる身としては、ただただ忙しない季節に思える。情緒を感じる暇も無い。
今は、ぼんやりしている方の春だ。辛うじて冬ではないが、梅も桜も未だだ。北のこどもの入園入学シーズンというのは文字通り花が無いから哀れである。こどもの知り合いなど居ないが。
まあ地味でぼんやりしてはいるが、個人的には、こんな春とて悪いものとは思わない。北の人間にとって、「冬ではない」というだけで一定量の喜びに値する。花が無くとも、木々が裸でも、確かに伸びた陽が在る。軽やかな春の装いを決め込むには寒いが、真冬用の重たいコートは着ずに済む。それだけで価値があるのだ。
前線の訪いまで、まだ暫く、この狭間の季節を楽しめるだろう。
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