Noz.さんの音楽

色々なポップの形

これまでも何度か「ポップ」なボカロ音楽を取り上げてきた。特に、J-POPに対する指向性を、卯花ロクさんの記事で述べている。

当然ながら、「ポップ」という単語は、何もJ-POPに限られるものではない。捉え方によっては、音楽ジャンルという枠を逸脱して、もう少し一般的なイメージを有していると言えるのではないか。

例えば、「メインストリーム」という言葉がある。これは上記の記事にも用いた言葉で、「アンダーグラウンド」の対義語としていた。あるいはこれを、「サブカルチャー」の対義語として見ることで、メインストリーム、ひいてはポップという単語について意味づけを行うことができる。
これは自分がボカロ曲に抱いている印象に過ぎないが、ボカロ曲の一部は、さまざまな意味で「アニメ的」である。これは「アニソンっぽい」や「題材がアニメらしい」などの要素を含んでいる。詳しくはここでは書かないが、逆に「アニメっぽくない」ボカロ曲を、「ポップ」の文脈の一つと位置付けることができるかもしれない。

また、さらに印象論的な言葉にはなるが、「人間臭い」音楽のことを、ポップやロックと捉えることもできるだろう。それは例えば楽器の使い方であり、人間のバンドが用いるギターやベース、ドラムなどの楽器を主軸とした音楽は、人間くさい音楽として捉えやすい。卯花ロクさんも、そのような音楽であると考えることができるかもしれない。
そしてさらに、「人間」を楽曲の中に感じさせるボカロPが、今回取り上げるNoz.さんであると考えている。

イントロダクション

Noz.さんは、マジカルミライ2023で歌われた『ヘッジホッグ』や、『星命学』などが有名なボカロPさんである。

ロック的な音作りが主体ではあるものの、ジャズやダンスミュージックらしいサウンドが多用され、それが独特の雰囲気を形成している。

個人的なイメージではあるが、ボカコレへの積極的な参加でかなり知名度を得ているのではないか、毎回良い作品を投げてくれる印象が強い方である。

使用ボカロは、鏡音リンを中心に、音街ウナ、初音ミクなども用いられている。また、MVが一枚絵であることが多いのも特徴であろう。

音について

Noz.さんの音楽については、正直かなり書きたいことがあるので、頑張って整理して紹介しよう。

1.サビで「展開」される音楽

例えば『ヘッジホッグ』もそうであるが、Aメロ・Bメロの音が少なく、サビで一気にキャッチーなメロディーを展開してくることが多い。オケ部についても、A〜Cメロは、ビートを主体としたシンプルなものである一方、サビではブラスやオケなどがフル展開された、彩を持った音楽になっている。
このサビで一気に心を掴んでくるのが、Noz.さんの音楽の魅力の一つだと思う。

おそらくこの感覚が一番強いのが『iki』であり、その展開はもはやカタルシスさえ感じる。

このサビのメロディも、聴き馴染みのある、キャッチーなものであるために、相当聴きやすいし、気持ちが良い。

2.調声とコーラス

特に鏡音リン曲に顕著であるが、その曲調に反して調声はかなりシンプルであるように思える。むしろ「粗い」と言っても良いかもしれない。面白いのは、機械音声的な特徴が強調されてしまうこの調声が、歌に「人間らしさ」を産んでいる点である。
抑揚などが工夫されているものと推察されるが、とにかく「歌っている」感が強い。

そしてこれを後押ししているのが、Noz.さんのコーラスである。主にサビ〜Cメロでさりげなく取り入れられているコーラスが、ボカロの声を落ち着け、また人間らしい歌に一役買っている。
ボカロと人が共に歌う楽曲は数あれど、このように作風として落とし込んでいるのは感嘆の域である。
先ほどあげた『iki』の落ちサビが、このコーラスを効果的に発揮している一例として挙げられる。

3.オケ

楽器隊は、いわゆるバンドサウンドを主軸としながら、上に書いたように、ビートの取り入れとして、電子楽器的なものが用いられている。感覚としてはヒップホップの要素が取り入れられているものと思われる。
この混ぜ方も絶妙であり、先ほどのコーラスのように、リアルなサウンドとバーチャルなサウンドが綺麗に取り入れられている。

ボカロならではとも言える、リアル×バーチャルの極致を一つ見ていると言えるだろう。

言葉について

Noz.さんの楽曲を「人間らしく」たらしめているのは、その歌詞によるところも大きいだろう。テーマがかなり現実的である。

物語的であるというよりは、ひたすらに具体的な、個人や関係を描いたものが多く、それもまたポップス的であると言えるのかもしれない。

また、その音楽的な性質から、言葉数が多いのも特徴であろう。対象が具体的であるからといって、言葉にはそれを直接的に描かない奥ゆかしさがあるのも、楽曲の魅力となっていると思う。

音も声も、かなり「ぎっしり」していると言えるかもしれない。間奏などを蔑ろにしているわけでは決してなく、むしろ魅力の一つに数えられるくらい良いのであるが、言葉がしっかり音に乗っているので、充実感がある。

曲紹介

Pinocchio

Noz.さんの魅力が最も凝縮されていると思う一曲。ボーカルは音街ウナだが、この調声もいいなと思う。
サビの展開、歌詞、音、コーラス、全部盛りである。

さよなら愛しき面影よ

ビートではなくアコースティックで攻めてくる。横の流れがめちゃくちゃうまい。あとタイトル回収があまりにも綺麗すぎる。このジャンルのお手本みたいな曲。

ダストトレイル

直球ロック。あまりにもかっこいい。
リンの声の使い方が良い。

本当にどの曲もいいので全部聴いてください!
またね。

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