補遺:はるまきごはんさんとコラボレーションの素晴らしさについて

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ボカロとコラボレーション

ボカロは、共同制作を行いやすい音楽である、と言うことができるかもしれない。実際、Twitterを見るとボカロPさん同士はかなり仲が良く、ボカデュオなど、共同制作の下地も大いに拡張されてきた。

共同制作によって誕生した名曲は様々ある。sasakure.UKさんとDECO*27さんがタッグを組んだ『39』、雪ミクテーマソングでもあり、n-bunaさんとOrangestarさんという鬼コンビとなっている『スターナイトスノウ』、2023年のボカコレを大いに騒がせたまらしぃさん・堀江晶太さんの『新人類』などなど。
まさに「枚挙に遑がない」とはこのことだろう。

楽曲の共同制作、というのは、ボカロPさん同士の化学反応の場として非常に楽しいものであるとともに、ボカロPさんの個性がさらに輝く場でもあると思う。ボカロの声という共通の題材を用いながら、我々は「調声」によりボカロPさんをある程度聴き分けているわけだが、それを同じスタートラインに立たせたらどうなるか、という意味でコラボレーションは面白い。

そして、そのコラボレーションの名手の一人が、はるまきごはんさんだと僕は思うのである。

共同制作の例を見てみよう

はるまきごはんさんが他のボカロPさんと共同制作を行った例は、これもかなりある。流石に全てをここで挙げきることは不可能なので、いくつか代表的なものを見てみよう。

共同制作のお手本:『月光』

「プロジェクトセカイ」提供曲となる、キタニタツヤさんとの共同楽曲。原曲、プロセカ版の他に、ご本人同士が歌うバージョンも投稿されており、こちらも必聴である。
お二人ともボカロの調声とご本人の声が似ているのが良いポイントである。果たして偶然なのか必然なのか。

さて、この楽曲は非常に典型的な形式のデュエット曲である。それぞれのパートが対称的に配置されており、整然としていて、まさにお手本のような共同制作である。
そしてこの曲がすごいのは、MVに至ってもその対称性を踏襲していることである。声とともにMVの世界観がカチッと切り替わるのは、見ていて心地よいものである。はるまきごはんさん、キタニタツヤさんはそれぞれ独自の強い世界観を有しているため、その心地よさがさらに際立つ。

ここまでの作りをしていながら、オケのテーマを共有している、というのもまたすごいポイントである。サウンドとしてはキタニタツヤさんのそれに近い気がするが、バックコーラスにははるまきごはんさんの要素が取り入れられているし、何よりボカロの調声が全く異なるので、互いが互いに負けていない。まさにボカロだからできること、と言えるのかもしれない。
この楽曲のテーマは「コラージュ」であり、これは楽曲提供先であるプロセカのストーリーに拠るものであるが、それを楽曲の構成という面でも押し出しているのがこの曲の肝であるように感じる。

歌詞についても、共同制作の醍醐味が遺憾無く発揮されている。曲全体として一つのストーリーが共有されているのは間違いないが、

誰かが紡いだ言葉を/誰かが奏でた音色を/歪にコラージュした偽物

『月光』キタニタツヤさんパート

どうしてだろう?/この胸の奥にこびり付いている/冬の夜の静寂に似た孤独を

『月光』はるまきごはんさんパート

と、お互いの世界観を押し出すような歌詞が埋め込まれている。
特に後者は、前の記事にて述べた、はるまきごはんさんの楽曲の特徴たる「夢のようで、寂しい」世界観を色濃く反映しているものである。

余談ではあるが、如何にしてこういう歌詞を思いつくのだろう、と思って、はるまきごはんさんの生誕地である札幌ではるまきごはんさんの楽曲を聴いたことがある。確かに、なんとなく、雰囲気的なものではあるが、その世界観と土地がリンクされているような気がした。旅行で行ったからかもしれないが。

今回のテーマ「コラージュ」をキタニタツヤさんは「歪にコラージュした偽物」と表現した。この曲がボカロにおける「コラージュ」を、基礎に徹底的に則って作成したことを踏まえると、これはボカロにおける共同制作全体について言えることなのかもしれない。少々アイロニックな響きがする。

初音ミクの極致、ここにあり:ZLMS『アイニーブルー』

2022年8月31日、すなわち「初音ミクの誕生日」に投稿された楽曲。ZLMSとは、はるまきごはんさん、雄之助さん、ジグさん、ルワンさんからなるユニットである。
「覚えてる?あの日のあのこと」という出だしの美しいこと。『フォニイ』でも似たようなことありましたね。

この楽曲もまた凄まじい共同制作となっている。
メロディーや歌詞こそ統一されているものの(作詞・作曲はジグさんが担当されている)、雄之助さんお得意のドロップであったり、何より「4人の初音ミク」で構成されるコーラスが、ボカロの面白さを拡大させている。

『月光』ほど作り手ごとの初音ミクの声に違いがなく、さらに曲に合わせて透明感があるようにチューニングされているのだろうが、それでもここまで作り手によって個性が出る、というのがボカロの妙味であろう。みんな「初音ミク」であるのに、カルテットが成立しているのは、それぞれの初音ミクが存在するからである。こんな真似はボーカロイドでないとできない。

夏にぴったりの爽やかな曲であるが、歌詞にも明記されているような寂しさが印象的な楽曲でもある。青に寂しさをリンクさせるのは、はるまきごはんさんの『フォトンブルー』でも見られる手法であるが、ジグさんの『寂しい夏のせいにして』にも用いられている。

ジグさんの「夏」は現実のそれとイメージが重なるが、『アイニーブルー』での「夏」像は現実と空想の狭間にあるように感じる。これは、夏や青といった要素を、「初音ミク」というフィルターに通したからできているのかもしれない。

共同制作プロジェクト:アルバム「キメラ」

はるまきごはんさん、煮ル果実さんを中心に、豪華ボカロPが集って完成したコンピレーションアルバム。ナユタン星人さん×Chinozoさんという個性爆発コンビによる『ニュートンダンス』はYouTubeにもMVが上げられている。

コンビの結成はなんとあみだくじによって行われた。それぞれのコンビによってどのような共同制作の仕方をしているのかも聴きどころであり、何よりどの曲も非常にクオリティが高い。ボカロでの共同制作を語る上で絶対に外せない名盤と言えるだろう。

さて、はるまきごはんさんは煮ル果実さんとタッグを組み、『フランケンX』『運命』の二曲で参加。前者は煮ル果実さんテイストが、後者ははるまきごはんさんテイストが強い楽曲になっている。こう書くと本当に食べ物のことみたい
詳しい譜割りはもっともっと複雑なので、是非MVをご覧いただきたい。

『フランケンX』の方がやや構造が単純であり、煮ル果実さんが作った大枠の中に、はるまきごはんさんが自身のテイストを埋め込んでいったようなものになっている。
2A, Bメロははるまきごはんさんの担当。煮ル果実さん特有の歪んだ世界観に対し、怒涛の畳み掛けで応酬するという、普段はなかなか見られない光景が得られた。共同制作の醍醐味である。
また、煮ル果実さんのflowerにはるまきごはんさんの初音ミクがここまで合うことにもびっくりである。どちらもお互いに合うようにチューニングが行われていると思われるが、それにしてもしっくりくる組み合わせであった。

『運命』ははるまきごはんさんの下地があるものの、作詞作曲の割り振りは思ったよりも複雑である。正直聴き直して、「ここは煮ル果実さんが担当してたんだ」と吃驚した箇所もそれなりにあった。
『フランケンX』にも見られる特徴であるが、『運命』はより「カオス」であり、これはコンピアルバムのテーマである「キメラ」を反映した結果と言えるかもしれない。『月光』とは真逆の非常に入り組んだ共同制作であるが、それをはるまきごはんさんの強い世界観で包み込むことで、ぎりぎりのところで一つの楽曲として形を保っているような、ある意味で危うささえ感じるような楽曲である。
これがはるまきごはんさんと煮ル果実さんが「ひとつになる」ことで生まれた神業であろうか。

ちなみに、このアルバムのたどり着く先が「ダンスロボットダンス」MVアレンジメドレーである。

「キメラ」参加者に鉢屋ななしさん、じんさんがくわわり、さらに各ボカロPさんのパートが関わりの深い絵師さんによりMVになるという、豪華などという言葉では形容しきれないコラボMVである。
ニコニコ動画的な雰囲気もあって見ていて楽しいだけでなく、今のボカロPさんと絵師さんの繋がりといったものも窺い知れてとても面白い動画となっている。
ちなみに自分はじんさんパートがお気に入り。みんなも好きなパートを探してみよう。

なぜはるまきごはんさんはコラボレーションがうまいのか?

本当に様々な要素が絡むことと思うし、コラボレーションをしているボカロPさんははるまきごはんさんだけではない。例えばn-bunaさんやAyaseさんのような、外部のシンガーと共同で楽曲を作る、というのもボカロPが行ってきた共同制作の形の一つである。

はるまきごはんさんのコラボレーションに舌を巻くことが多いのは、おそらくその世界観が確立しているからではないかと思う。
誰かとともに作品を作っていても「はるまきごはんさんだ」と自然に解ったり(『月光』)、自分の世界観の中に他のボカロPさんの要素を内包したり(『運命』)、逆に自分の世界観をキープしつつ、他のボカロPさんに乗っかることもできる(『アイニーブルー』)。
個が強いのと同時に柔軟である、という、バランス感覚がこのような名コラボレーションを生み出してきたのではないかと考えられる。

スタジオごはん

最後に、はるまきごはんさんが生み出したコラボレーションは楽曲だけに限らない、という話をしようと思う。

はるまきごはんさんのMVはご自身で製作されているが、そのクレジットには「スタジオごはん」と記されており、さらにアシスタントとして幾人かの名前が挙がっている。
おそらく、見たことある名前もあったのではないだろうか。今や有名ボカロPとなったいよわさん、こちらも独自の世界観で定評のあるシャノンさん、そして爆発的なヒットとなる『強風オールバック』のMVを手がけた小津さんなど、錚々たるメンツが並び立っている。

上の『ダンスロボットダンス』動画を見てもわかるように、ボカロMVというのは、楽曲とイラスト・動画が相補的に干渉して成り立っている。はるまきごはんさんの世界観における「共同制作」には、楽曲だけではなく、MVも自然と包括されるように感じる。

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