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鑑賞する”視点”の違い…

アート作品を鑑賞する際の”視点”には色々とありますが、今回は文字通り”視点”のお話。
 風景画などを鑑賞していると典型なのですが、私たちの視点は、画面(作品)に対して概ね正対した立ち位置に固定した形でみることがほとんどです。展覧会などで、作品の前で立ち止まって鑑賞しているところをイメージしていただければ良いかと。そうすると大体はこんな感じに見えてきますね。

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《乾草車》
ジョン・コンスタンブル
1821年 油彩・キャンバス 130.2×185.4㎝
ロンドン・ナショナルギャラリー

 遠景の雲から手前の小道にいる犬など、かなり”写実的”に描かれていますよね。こちらの作品は、極端ではありませんが線遠近法(透視図法)という手法を使っています。線遠近法は、15世紀初頭ルネサンスの時期に、建築家のブルネレスキが考案したとされていますが、まぁ、西洋絵画の”視点”の定番中の定番と言えるでしょう。遠くのものが遠くに、近くのものが近くに見えるというのは実はなかなかどうして、絵画のような二次元の世界で表すのは難しかったわけですが、ブルネレスキの”イノベーション”によって、後の画家たちが恩恵を被ったと(笑)。風景画として一ジャンルを築いた英国の画家のコンスタンブルも、その一人であるわけです。

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《漁村夕照図》
牧谿(もっけい)
1250年頃 墨・紙 33.0×112.6cm 根津美術館

 こちらはブルネレスキより200年近く前の中国の水墨画。気に入った風景をパチリと撮ってもこうは写らないだろうから、白黒だけで描かれているということを割り引いたとしても、コンスタンブルの作品と比べると決して写実的ではないですね。
 私は以前は、水墨画を見ても、あまりピンときたことがなかったのですが、一度「こんな見方もあるよ」と教えてもらったのがきっかけで、がらりとイメージが変わりました。それは、線遠近法の視点とは別の視点を使うことです。
 例えばこんな感じです。タイトルにある”漁村”をヒントにじっくりと眺めていくと、湾に浮かぶ舟や家の屋根などに最初に気が付きます。そこから後ろにある木々に目が行き、さらに背景の山々に視点を移すとその雄大さが実感できてきます。作品の中に入り込んで、自分の”視点”を自由に行き来することによって、奥行きのある世界感が一気に感じられるのですね。

 鑑賞する視点の違いとは、画面の外から鑑賞者として定点から眺めるか、中に入って視点を動かして眺めるかの違いです。前者は一瞬の静止画として作品を観るのに対し、後者はゆっくりと移ろう連続する描写として受けとるいう感じです。時間的な変化のあるなしの違いかもしれません。
 これ、どちらが良いとか悪いとかはではありません。ただ、水墨画が楽しくなかったのは、線遠近法という定点観測でしか眺めてこなかったせいかもしれないなと、合点がいったのでした。作品に向かう時には、色々な”視点”で観てみようと。
 視点を変えてみることで、世界が広がる! アート作品で実感しちゃいますね。

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