守護下一代 良知 リクナビDMP事件

 香港で行われているデモで、現地の教員が一斉に立ち上がった。そのスローガンは「守護下一代 良知」=「次世代の良識人を守ろう」である。この思いは教員という職責において万国共通のはずである。いや教員ならずともこの思想は如何なる社会においても基礎のはずである。なんとならばこの思想を失ってはその社会は滅びるからである。
 しかるに今日日本企業の人事政策、特に就職活動をめぐってはその真逆が基本政策基底思考あると断言できる。今日の人事政策は次の世代を食い物にして自分の世代だけがその経済成果を享受しようというものばかりだからである。今回は喫緊の課題であるこの件についてノートルことにしよう。

リクナビDMP事件
 リクルートのリクナビが、サイト閲覧状況からのプロファイリングを行い内定辞退の可能性を推測し企業に情報提供をしていた。リクナビDMP事件(以下第2リクルート事件という)

 EU一般データ保護規則(GDRP:General Data Protection Regulation)では、個人情報の収集と利用に関して、情報主体による明確な同意取得が必要とされている。そして、データ主体は管理者または第三者によって追求される適法な利益の目的のための処理の必要性に基づく自己の個人データの処理に異議を唱える権利を有する(21条)。データ主体は、自分に対する法的影響を生じ得るような、プロファイリングを含む自動処理のみに基づいた判断の対象にならない権利を有する。これは本件のような、人が介入しないオンライン上での借入申込やインターネットでの採用活動(前文71項)を含む。プロファーリングへの異議申し立てとしてコンピューターによる自動処理のみに基づく重要な決定には服さない権利が与えられている(22条)。
 これは欧州域内でないので関係ないという問題ではない。個人情報の取り扱いに関する基本的な考え方ある。グローバルな(私はこのような下品で野蛮な言葉は普段用いないが)常識でありそれ以上に人として備えるべき良識である。

 第2リクルート事件は我が国の法に照らしても、個人情報保護法や職業安定法に抵触し、独占禁止法の優越的地位の濫用に該当する事案である。例えば個人情報保護法2条の言う「個人に関する情報」には、個人を識別する情報に限られず、事実、判断、評価を表す全ての情報が含まれているのである。

 このノートを書いているさなかにいろいろと動きがあった。公正取引委員会は29日、大量のデータを囲い込んで個人に不利益を与えるプラットフォーマーへの監視を強めることを発表した。優越的地位とは消費者が他に回避できない地位にあることと定義した。そのうえで、企業が強い立場を利用し、不当に消費者から個人情報などを入手することは「優越的地位の濫用」に当たる可能性があると明示した。本件はこれらの定義から独占禁止法に違背する行為であると考えられる。

 本件は法令順守以前の問題である。良識(DQ)がないのである。


 言い換えれば、 マッチングアプリで出会った相手が浮気をしていないのかその後の閲覧行動から情報を提供するというような卑しき覗き見のスケベ根性しかない厭らしい輩とだれが好き好んでお付き合いを続けたいと思うのだろうか。利用した企業も提供したリクルートにもこの程度のことを考える良識すらなかったらしい。破廉恥なのである。

 加えてさらに驚いたのが同社の対応である。同社小林社長は「データ利活用の会社に迷惑をかけたのであれば本当に申し訳ない。」と謝罪したと日経新聞にあるが、これは謝罪ではなくかの悪名高き典型的な東大話法「『もし◯◯◯であるとしたら、お詫びします』と言って、謝罪したフリで切り抜ける。」(安富歩『原発危機と東大話法』)でしかない。反省の欠片すらない。

就活生はブルーオーシャンという背景事情
 破廉恥で良識にかける行為を人はある条件がそろわないと堂々と行えない。就職活動をめぐる問題は今回の情報を覗き見して勝手に邪推する上記の問題の件にとどまっていない。いやそれどころではない。就活中のセクハラ・パワハラ・辞めハラが背景にある。本件はその最中に再発したのである。

 就活セクハラは、「選考有利」ちらつかせ2人に1人の学生が就活セクハラ被害にという状況である。連合の調査では、20代男性の5人に1人は「就活中にセクハラ受けた」というありさまで、認識の甘さや、表面化しづらい「男性の就活セクハラ」の難しさが問題となっており、NHKニュースウォッチ9でも報道され通りの酷い状況にある。NHKでは就活特集サイトで就活セクハラに注意を喚起するなど深刻な状況を受けてNHKですら特集を組む状況である。

 就活セクハラはぜ起きるのかというと、「就活生がブルーオーシャン」だという認識のもと「手を出しても被害を訴えにくいから」という社員の認識にある。また一因として、OB訪問や泊まり込みインターンが温床になっていると指摘される中、経団連は襟を正す声明をだすどころか、「1年次や2年次など早い段階における長期のインターンシップなどに取り組む企業を拡げていく必要がある。」というのだから驚きを通り越してあきれ返る。長期インターンシップを導入したい真意は何なのか?という勘繰りはもはや下衆の勘繰りとは言えない。そもそも別の意味でも在学中の就職活動は問題を多く引き起こしているのにである。これはのちに述べる。

 就活セクハラはそもそも数年前から強姦事件として問題になる程深刻で、例えば、共同通信社人事部長今藤悟人事部長(当時51歳)が2012年12月28日、就職説明会にやってきた女子学生に対し、「作文を添削してあげる」と呼び出し、ホテルの一室に連れ込み、関係を迫った。等‥これ以降深刻な相談が寄せられて問題視されているから上記の各調査がおこなわれたのである。

 しかも、これら騒動の渦中に、資生堂のグループ会社『ザ・ギンザ』の社員が、芸能事務所に所属するモデル女性に、資生堂のCMや広告への出演をちらつかせ、性的な関係を迫っていたことが「週刊文春」の取材で分かったのである。

 自ら襟を正す発言すらしない経団連が長期インターンの欲望を露わにするとは。この長期インターン問題はさらに深刻化しているので後に触れる。

オワハラの実態
 2015年にオワハラは一気に認知された。オワハラとは、企業が就活生に対し、早めに就職活動を終わらせるように要求することである。「就活終われハラスメント」は「内定を出すから他の企業は断ってくれ」と要求する事であるから、リクルート事件2と表裏一体である。本来、企業が就活生に就職活動での指示や強要をすることは出来ないはずである。これも「就活 オワハラ」で検索すると関連記事が山ほど出てくるどころかウイキペディアにも掲載されているので以下省略する。
 しかし事はリクルート事件2と表裏一体に深刻化しており「就活オワハラの実態 理系学生の恐怖“後付け推薦”の強要を断れません」が最近ですら記事になるのである。

 加えて「よくそんな学歴で応募しようと思ったね」就活生への露骨な差別発言、法的問題は?が弁護士ドットコムで書かれる時代なのである。暴言である。

 入社後のパワハラ・セクハラは著名周知事実なのでここでは省略する。ハラスメント蔓延としか言いようがない。このようにハラスメントの蔓延=就活生には何をしても言っても構わないという思想が第2リクルート事件の背景にある。

"自らのやりたいことだけ、やり放題という人格を誰が信頼するのか"


退職代行ブーム
 「会社を辞める際に「退職代行」という新たなサービスを利用する人が急増している。」ことはNHKが特集番組を組むほど周知のことであるから詳細は省略する。しかしこの深層はには重要な意味がある。それは、不信=信頼の崩壊である。

従業員はコストであり使い捨て時代
 英BBCが本国でついに日本の「外国人技能実習制度」の実態を報道した。その日本は、外国人が働きたい国ランキング、日本はワースト2位である。

Japan as No.1時代には
 1990年を頂点として日本は右肩下がりを加速させているが、上記を考えるとさらに落魄れていくと断言できる。Japan as No.1といわれた時代はどうだったのだろうか。ちょうど先々月BS放送で寅さんシリーズ1987年作の知床慕情という映画が放送された。この作品では三船敏郎が演じる獣医が寅さんに「君は農政についてどう思う?」と問いかけ「何百年も人間と動物は深い愛情で結ばれて来た。それが今や、牛は経済動物になり、ダメな牛は殺されてしまう。恐ろしいことだ。人間に例えたら、役に立たなかったら、斬って捨てるというようなもんだ(怒)」等と言いながら、手刀で寅さんをを袈裟切りにする真似をする。これは時代に警鐘を鳴らしたものである。
 そいう時代ですらBSで放送された翌1988年の「寅次郎サラダ記念日」では葛飾柴又の団子屋で店を切り盛りする寅さんの妹さくらが店員の社会保険料(健康保険と失業保険)の負担に頭を悩ませている場面が2回でてくる。しかも雇用しているのはたった二人である。
 使い捨て時代の到来に警鐘を鳴らしている時代にすら非正規雇用という発想はなかった。それは、下町の人情団子屋のみではないはずである。その一方、この時代にその虞があったが故に山田洋二監督は印象付けたのなら悲しいことにそれは実現されてしまった。

 今やJapan as Worst1なのである。功利主義や新自由主義が壊したのは信頼である。当然のことながら取引行為は相互行為のはずである。覗き見と強姦(強制性向)癖しかない経営者の元でだれが自己の能力を発揮したいと思うのか。その程度の良識すらないのが今日の経営陣らしい。
 この次は結婚情報サイトの閲覧履歴から寿退社予測サービスとか、転職情報サイト閲覧経歴から退職予測確率提供サービス等‥まるでストーカーそのものではないか。

守護下一代 良知
 ノートを書いている最中に「明治大学は今秋に開く就活ガイダンスで「マイナビ」「キャリタス就活」などの就活サイトは学生に紹介するが、リクナビは対象外にする。学生に推奨できるサービスではないと判断」との記事が飛び込んできた。「守護下一代 良知」である。教育のあるべき姿である。

 「守護下一代 良知」といえば、2019年6月19日から21日の3日間お台場で開かれたEDIX2019という教育関係者イベントにて、灘中学校・高等学校 和田孫博校長の発言が正鵠を射ていた。
「生徒の才能を伸ばす方法~未来を担う若者に資する教育とは~」をテーマの特別講演での対談部において、和田校長は「アメリカの大学に行っている学生たちが生き生きして見えるのは、リベラルアーツを重んじ、社会をゆっくり見てまわる、じっくりと学ぶ余裕があるからではないか。今の日本の教育は即戦力を重視しすぎている」と危惧した。一方、社会に対しては「能力のある若者を活用しきれず、3年以内に離職してしまうなど、尖った人材が定着しないのが現状。だから海外の大学を出た優秀な若者も日本に帰ってこない。積極的な適材適所を進めてほしい」(和田校長)と要望した。
 この記事は、穏やかにしか纏められていないことは現場で直接和田校長の話を伺った人なら気づいているはずである。「長期インターンなど就活に追い回されて日本の大学では自分の学びたいことにじっくりと取り組めないのをみて海外の大学に進学するように指導することにしている。」モデレーターの「灘高出身者は日本企業に勤めてもすぐに退職してしまう」に対して、「能力のある・・・」だったはずである。

"このように日本企業はグローバル人材育成観点から忌避される存在なのだ。"

 就活セクハラに関しては、個人情報は簡単に出さない(含むLINE)と指導している中未だに個人の連絡策を要求されましたという報告が来ている。良識(DQ)の欠落である。
 良識(DQ)ある者は、イノベーションによって創造されるものを讃えるだけでなく、それによって破壊されるものにも意識が向くはずである。

"世界最低のハラスメント会社は入社前から"
"1984社会「ビッグブラザーがみているよ」で働きたいのだろうか?"

 日経ビジネス8月26日号は「できる若手がなぜ辞めた 本当に効く人材定着の知恵」という特集を組んだ。大手企業の「期待の星」だった若手社員が離職を選んだ理由と、彼らを引き留めるために企業が取るべき策という特集である。
 小手先の策よりも本質に目を向けないことが問題なのではないだろうか。ハラスメントに襟を正すことなく引き留めという拘束を行いたい欲望こそハラスメントなのだから。

  最後に、第2リクルート事件関係者であるこのサービスを利用した38社の実名報道を早くお願いしたい。それは就活生にとって忌避すべき会社という重要な情報なのだから。


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