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日本 知財高裁の係争事件に対する意見募集(11月30日まで)

知的財産高等裁判所第1部は、9月30日付け、係争控訴事件が国外の実施行為に係り、その場合、日本の特許法2条3項1号の「生産」に該当するかどうかの意見募集(amicus curiae brief)を公示した。

対象事件
令 和4年(ネ)第10046号特許権侵害差止等請求控訴事 件
(原 審:東京地方裁判所令和元年(ワ)第25152号)
控訴人(原告):株式会社ドワンゴ
被控訴人(被告):FC2,INC.、株式会社ホームページシステム
一審判決文
URL:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/124/091124_hanrei.pdf

募集事項
1.サーバと複数の端末装置とを構成要素とする「システム」の発明において、当該サー バが日本国外で作り出され、存在する場合、発明の実施行為である「生産」に該当し得ると考えるべきか。
2.1で「生産」に該当し得るとの考え方に立つ場合、該当するというためには 、どのような要件が必要か。

特許法
2条3項 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
 1号 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為。(注:太字は筆者による)

対象特許
第6526304号 コメント配信システム
【請求項1】
 サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
 前記サーバは、前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
 コメント配信システム。

被告のシステムと動作(意見募集資料より)

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原告も被告もサーバーの所在地に議論はないようです。ポイントは、意見募集の2ですが、クラウドの場合を含めて、考える必要があるのではないかと当方は思います。いずれにしても、アメリカは議論が残っているとして、ヨーロッパや中国での特許侵害の侵害地判断はサーバーの所在地としているため、当方の見解は決まっていますが、皆さんのご意見、ご見解があればぜひ伺いたいです。

参照サイト:

本件に関連した2022年7月20日の裁判例、知財高裁第二審の 平成30(ネ)10077(原審 平成28(ワ)38565、当事者同一)対象特許4734471がある。当方は日本の事件に勉強不足であるが、本判決は次のようにアメリカに存在するサーバから日本国内のユーザへのプログラムを配信する行為が日本特許法2条3項に規定する「実施」該当するとして、つまり越境での侵害行為を認定している。

判決文からの抜粋>
(4) 被控訴人らの不法行為
ア 被控訴人ら各プログラムの電気通信回線を通じた提供
(ア) 前記(1)及び(2)のとおり、被控訴人らは、共同して日本国内に所在するユ ーザに対し、被控訴人ら各プログラムを配信している。
(イ)a この点に関し、証拠及び弁論の全趣旨によると、被控訴人ら各プログラムは、米国内に存在するサーバ から日本国内に所在するユーザに向けて配信されるものと認められるから、被控訴人ら各プログラムに係る電気通信回線を通じた提供 は、その一部が日本国外において行われるもので ある。そこで、本件においては、本件配信が準拠法である日本国特許法にいう「提 供」に該当するか否かが問題となる。
b 我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これ によれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものであ る(最高裁平成7年(オ)第1988号)。そし て、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域 内にある電気通信回線上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
 しかしながら、本件発明1-9及び10のようにネットワークを通じて送信され 得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは 著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ 全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
 したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、 完結されるものであって、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした 本件発明1-9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1-9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。 なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその 一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。

この部分を読むと、属地主義については「本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。」としながらも、「問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまう」と性悪主義を適用したのみで、否めないの部分の分析を放棄している。一方、それが曖昧のまま、「本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。」と違う土俵から、「これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。」と属地主義適用を正当化している。この考え方は、判断を放棄したまま侵害ありき、性悪説適用の立場が強すぎるのではないだろうかと疑問を感じる。区別ができないと言っているのだからシステムクレーム自体には侵害が判断できないのに、配信サービスが越境したから侵害するという落とし込みをしているように読めるがどうなのだろうか。また、本件は当事者双方が日本法人であるので、差止も損害賠償も直接執行できるが、被告が外国人の場合はどうであろうか。外国のECサイトで侵害品を日本向けに販売している(販売の申し出)条件を考えると、日本人には侵害と言い執行できるが、外国人には侵害と言いながら執行できないので非侵害(もちろん、侵害と言って執行は国際法の適用であろうが)というようなことにならないか・・・、いずれにしても、日本の特許法を含めた法律にに詳しい人にこの事件の立て付けと適用を教えてほしい。

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