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日本製鉄vs宝山鉄鋼・トヨタの侵害訴訟>日本製鉄が請求放棄

日経新聞の報道2023年11月2日 15:16 (2023年11月2日 18:12更新)を受けて、文頭に加筆。

日本製鉄は2日、当社は、中国の鉄鋼メーカーである宝山鋼鉄股份有限公司、トヨタ自動車株式会社及び三井物産株式会社・三井物産スチール株式会社に対して無方向性電磁鋼板に関する当社特許権の侵害を理由とする下記の損害賠償請求訴訟を提起しておりましたが、そのうち、トヨタ自動車及び三井物産に対するすべての訴訟について、本日、請求の放棄により終了させました、と発表した。宝山鉄鋼との訴訟は継続するとのこと。結果的には妥協の産物となった模様です。

参照サイト:
https://www.nipponsteel.com/news/20231102_100.html
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC026OG0S3A101C2000000/?n_cid=NMAIL007_20231102_Y

>以下、当初の記載内容
対象特許のクレームは以下の模様・・・なるほど、数値限定特許ですね。

【特許番号】特許第5447167号
【登録日】平成26年1月10日【発行日】平成26年3月19日(2014.3.19)
【出願番号】特願2010-110851【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
【国際特許分類・筆頭】C22C 38/00 (2006.01)
【特許権者】日本製鉄株式会社 (登録時、新日鐵住金株式会社)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.005%以下、Si:1.0%以上4.0%以下、sol.Al:2.5%未満、Mn:0.1%以上3.0%以下、P:0.08%以下、S:0.005%以下およびN:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、Siおよびsol.Alの合計含有量が4.5%未満である化学組成を有し、板厚が0.10mm以上0.35mm以下であり、平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、下記式(1)で規定されるX値が0.845以上であり、磁束密度1.0T、周波数1kHzで励磁した際の鉄損W10/1kが80W/kg以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
X=(2×B50L+B50C)/(3×Is) (1)
(ここで、B50Lは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度、B50Cは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延直角方向の磁束密度、Isは室温における自発磁化である。)
【請求項2~4】省略
【請求項5】
下記工程(A)~(D)を有し、2次再結晶焼鈍を行わない無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記無方向性電磁鋼板は、請求項1に記載の条件を満足する平均結晶粒径および磁気特性を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法:
(A)請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載された化学組成を有する熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施す第1冷間圧延工程;
(B)前記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に1時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程;
(C)前記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.35mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程;および
(D)前記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1200℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程。
【請求項6】省略

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日経の記事によると、宝山鋼鉄の電磁鋼板を分析したところ、成分や板厚、結晶粒径、磁気特性の数値などの結果が特許とほぼ重なったという。もちろん、方法でないことは明らかのようです。果たして、実施例では実験や測定方法などが明確でないし、無機化学は当方の得意分野でないから知らなけれども、数値範囲に適合するとの侵害立証が反証に負けないのであれば、訴訟を開始した日本製鉄はそれなりの勝訴の蓋然性を持っている筈だから請求項1を満足しているのでしょう。
 中国からの輸入品が侵害品である場合、輸入者が先ずは侵害者であり、輸出者は被告として不十分で適格ではない。輸出者であろう宝山鋼鉄は訴訟で負けても、日中間に判決執行に関する条約の締結がないので、痛くもかゆくもない、もちろん、訴訟費用の負担は生じるが。輸入者は日本の宝山鋼鉄の子会社である宝和通商株式会社なのか、トヨタなのか、これは発表されていないのでわからない。輸入品であれば先ずは輸入差止に意味があるので、税関のお出ましの可能性もある。訴訟でも、輸入者を入れて、輸入差止を主張に含めることが一般的戦術だが、トヨタが輸入者なのだろうか?或いは他に輸入後に部品として完成させる部品会社が存在するのであろうか。
 一方、使用者の立場が明確なトヨタは仕入先の責任とするのであれば、宝山鉄鋼や部品として製造した会社を開示し、非侵害の抗弁が立つのだろうか? 訴訟で非侵害を主張するのは簡単ですが、被告である使用者が使用を停止せずに、後日に侵害が明確になった場合、警告後の知りながらの侵害継続は賠償責任の範囲も増加し、難しい立場になる。日本には懲罰的賠償制度はないが(笑)。
 諸外国では顧客を提訴するのは当たり前のことだが、日本は系列の歴史や納入業者の弱い立場がそうした「世界では当然の」訴訟を排除する互助会的環境から和解による解決の歴史がある(苦笑)、本件は当事者を考えると和解とかしてほしくないし、しないだろうが、いずれにしても、特許無効を争うのか(10/19日現在確認できていない)、非侵害だけを争うのか、特許庁、地裁、知財高裁は厄介?嬉しい?事件を受け取ったことになる。こうしたことも含めて、皆さんはどう思いますか?

この記事を書いてからメディアは、両者の舌戦から関係悪化へと導く報道をしているが、諸外国では、事業と訴訟は別の土俵であり、同じ土俵で解決を目指すのは日本くらいだと言いたいなぁ。トヨタも日鉄も今や世界企業であり、関係悪化だけを取り上げる報道は如何なものか。レベルの低さを感じるのは筆者だけか・・・選挙結果すらを読めなかったメディアだけど(苦笑)。開廷前の日程が気になるところ。

12月23日の報道によると、三井物産を提訴した模様である。新たな提訴か、被告の追加か不明ですが、想定した対応がとられたと考えています。三井物産のサイトでは、宝山鉄鋼の親会社である宝武鋼鉄集団との鋼材加工物流事業(中国)が記載されており、輸入加工者の立場になるものと予想される。

ところで、日本製鉄とトヨタは提訴の後、この訴訟にし同日に発表している。同日(10月14日)に何か意味があるのだろうか?

トヨタの発表には、「改めて宝山鋼鉄に確認をさせて頂きましたが、先方からは「特許侵害の問題はない」という見解を頂いております。」との記述があるが、本件特許は日本での特許であり、対応する中国特許は存在していない。輸出者側からは対象特許が中国で存在しないのであるから、中国での侵害は発生しないため、中国国内で製造しているであろう宝山鉄鋼のコメントは間違っていない。アメリカでの訴訟であれば、トヨタのこのような抗弁のコメントに意味はあるが、トヨタは日本での使用者であるから日本の特許が有効であれば日本で逃れる道はない。問題は輸入側であり、三井物産になるのかな? 新しい注目が増えましたね。 



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