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仇討ち

俺は今怒っていた
『お前の母親だろう!!』
「そうだけど・・・」
『そんなんでどうすんだよ!!』

男の子はだいたいマザコンだ
まぁ大学に下宿してからは
とっとと実家を離れたけども
やっぱり父親よりも母親だ

生涯を寄り添うパートナーができ
思わぬ形で嫁姑問題は起こるとしても
母親というのは男の子にとっては
特別な存在であったりもする

その母親が殺されたんだ
何故、復讐しようとしないのか?
そう、彼は蟹で俺は栗だった。

『お前!母親が殺されたんだろう!
 怒れよ!!復讐しろよ!お前のそのハサミは
 柿を脅して早く芽を出させるためのものか!!』

「・・・ちがうけど」
『そんな柿の急成長は物理を超えている!』

兎に角俺は怒っていた。
母親を殺されて復讐しないなど
男子のあるべき姿ではない!
だから、蟹を散々にけしかけた。

蟹の母親を殺したのは猿だ
蟹の母親はおにぎりを持っていたらしい
それと悪知恵の働く猿が
自分の持っている柿の種とを
交換したことから悲劇が始まった。

『とにかくだ、復讐をしよう
 俺が仲間を集めてやるよ』

「うん・・・わっわかった・・ありがとう」

オドオドはしているが
ありがとうと言う言葉に可能性を見出した
やはり猿が許せなかったんだな。
蟹がやる気になったので引き上げたが

家に帰ると母親が血相を変えて近づいてきた
『どうしたんだ母さん!そんな怖い顔をして』
「あんた!このばかちんがっ!!」
母が滅茶苦茶怒っていた。

「聞いたわよ、牛の糞ママさんから
 仇討ちをするんだって?」

牛の糞のやつ牛の糞ママにしゃべったのか?
あれほど誰にも言うなといったのに
だが、裏切った牛の糞への怒りよりも
怒っている自分の母親に対して
どう誤魔化すか、それが問題だ。

『いや・・俺じゃないよハチのやつが』
とりあえず俺がメインではない事にしよう
「本当でしょうね?」
『うん本当だよ』
「あんた間違えても復讐などしてはだめよ
 うちは敬虔なクリスチャン一家なんだから」

『わかってるよ。』
 うちはカトリックリだ

「左の頬を叩かれたら右の頬を差し出すの
 そうしてお母さんは興奮して
 あなたが産まれたのよ」

そうだったのぉ!!
自分の出生秘話なら聞きたくなかった。

「だからハチ君にすすめられても
 絶対に参加しちゃだめよ
 復讐なんて絶対に良いことは起きない
 それに復讐をしたら今度は
 猿側に復讐されるものよ
 負の連鎖は断ち切りなさい」

『わかったよ母さん』

俺は母親には逆らえない
小さい時、キッチンの戸棚にあるお菓子を
取ろうとしたら、ぐつぐつ煮えたぎった
油の入った鍋をひっくり返してしまい
あわや俺の身に降りかかろうとしたとき
身を呈して母が庇ってくれたからだ。

そんな寄生獣に似たエピソードを
まるまる背負っているんだ
その日から母には逆らわない子になった

まぁ蟹もそれほど
やる気じゃなかったし、大丈夫かな?

そもそも牛の糞も悪い
復讐っていうのは限りなく綿密に
そして秘密を守ってやらないと失敗する
どこから情報が洩れるかわからないのに
まぁいい、明日蟹を説得しよう

『蟹さ』

ギシギシギシギシギシ
「ちょっと待ってくれるか
 今、ハサミを研いでいるんだよね」


『何でハサミを研いでいるの?
 挟めばいいじゃない?』

「いや、それだけじゃ飽き足らない
 猿公の喉元をハサミでぶっ刺して
 更に胴体を真っ二つにしてやるんだよ
 さっき虎で試し斬りしてみた。」

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