元の日常を取り戻したら、いちばん先に会いたい女の子の話


この2カ月間の自粛期間で、ボブをキープしていたわたしの髪の毛はすっかり肩につき、結べるくらい伸びきっていた。


3月に髪の毛を切り損ねたのだ。


最後に髪を切ったのは年末のこと。
いつも通っている駅ビルの美容室。

「2020年もよろしくね〜」
なんて手を振って別れた以来、彼女とは会えていない。


彼女?

彼女は約1年半前、土曜出勤を終えて飲んでフラフラ、化粧もヨレヨレのわたしにカットモデルをしないか、と声をかけてきたひとつ年下の女の子。

駅ビルが閉まる直前の寒い真冬の夜のことだった。

就職してからというもの、地元の美容院より、職場に近い美容院を探していた。


なかなか合うところが見つからず、前回髪の毛を切ってから3ヶ月が経過しており、どうしたものか、と悩んでいたときのことだった。

ショートカットで、素朴な雰囲気ながら個性的なオーラを感じた。

それからすぐに、彼女の美容院でカットモデルを始め、一年ほど通っていた。

なんせ練習台、ということで無料でカットをしてもらえる。すごいことだ。

通勤にも便利な場所だったこともあり、今までは3ヶ月我慢していたカットも、毎月通った。

あまり美容師には興味がなく担当を指名したり、といったこともなかったわたしだったが、彼女とはとても気が合った。気がつけば彼女に会うために毎月足を運んだ。

職場が男性ばかりの環境だったので、仕事帰りの夜7時半に訪れて話すこと自体がストレス解消にもなっていた。


最後に髪を切ったのは年末のこと。


2月に行くはずだったが、わたしの事情で3月に延期。


3月も、都合が合わなくなってしまった。


そろそろ緊急事態宣言がでるか?!という三月末、彼女から着信があった。


「プロのテストに合格しました!スタイリストになります。」

「4月から、異動になりました。」


――おめでとう。少し遠いお店だけど、夏にでもヘアカラーしに行くね!


わたしが3月に行けていれば、彼女の顔を見れていたのに。
おめでとうって直接言えていたのに。お祝いも渡せてたなぁ。


毎月当たり前に会えたので、彼女の連絡先もSNSのアカウントも知らなかった。

もう、肩についた髪の毛たち、いろんな方向にぴょんぴょんハネちゃったよ。


悩みの、量の多い髪の毛をいつも切る度に「みっちり生えてますね❤」って喜んでくれてたけど、もう最近は増えて仕方ないから、洗う度にストレスだよ。


まるで、会えなかった期間を、象徴しているみたいだ。


昨日、美容院から営業再開のハガキが届いた。



やっと、髪の毛を切りに電車に乗って行ける!

こんな当たり前が、あたりまえではない日が来るなんて。


彼女に会えるのはまだ少し先になりそうだけど。

この当たり前のしあわせ、忘れずにいよう。



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