ナンパされた話。

20年以上、はるか昔。東京の某大学OBが主体で作った劇団の公演初日。役者として目が輝いていた?時代。舞台は今は無き【タイニイアリス】だ。

知る人は知るその劇場は【新宿2丁目】にほど近く(だった気がする)、仕込みの休憩中に僕はタバコを近くの公園で吸っていた。

その時である。

「こんにちは?ちょっと今いい?」

気づくとそこにタンクトップのガタイのいいお兄さんがいた。まるで漫画の世界から出てきたようなそちらの方だ。とっても笑顔である。

『え?いやまあ…』

適当な愛想笑いを浮かべていると、彼はおもむろにその太い腕を目の前に出してきた。

「どう?」

【誘われた】のだ。どう?じゃない。

『あ、いや無理です』と、ダッシュで劇場に逃げ込んだ。

もっと、スマートな断り方があったのでは?ちょっと失礼な断り方だったのでは?などと後々になって思った。

同じ頃。

僕は東京都狛江市に住んでいた。小田急線で成城学園を過ぎて、多摩川のギリ手前あたりといえば少しだけわかりやすいのかもしれない。その頃のバイト先は新宿で、僕は13:00~22:00というシフトが多かったが、たまに遅番のS先輩が休みの日に24:00までのシフトにピンチヒッターで入っていた。帰りはもちろん終電。

しかしある日、いつもの22:00までの中番の日にその事件は起こった。バイトが終わった僕はくたくたで、帰りの電車も疲労感からか絶対に座る事ができる各駅停車で帰った。足元はヒーターで温められ、座っているとついつい居眠りしてしまう。その日もそうだった。

はッ!!!と気づくとそこは新百合ヶ丘(神奈川県)、いかんいかん、と反対方向に乗り、また気づくと下北沢…。いっこうに着かない。行ったり来たりである(ちゃんと料金は払いましょう)

「今度こそ!」

と頑張ってみたものの、気が付くとまた寝過ごして、そこは町田駅だった。とうとう反対方向の電車はもう無くなっていた。

もちろん貧乏なのでタクシーも使えず、駅を出て野宿をしようと駅のコンコース?に移動した。適当な自販機の横の陰に座って寝ようとしていたら、なにやらパンチパーマのおじさんがやってきた(イメージ:ナニワ金融道)

「兄ちゃん。なにしてるんだい?」

事情を話すとナニワ金融道おじさんは足を止め、しばらく社会情勢とか映画の話を立て続けにしてきた。眠さを我慢しながら話をしていると、そのうち

「うちの店においでよ!」

と言ってきた。聞けば、飲み屋もやっているらしい。

「スナックみたいなところだから、カラオケもあるよ!」

→『い、いや…カラオケいいです…』

「従業員のお姉ちゃんもいるからさ!」

→『いや…いいです…』「いい?ならおじさんと店で話そう」『』

「金は一切いらないから」

→『500円しかないですからどちらにしても払えません』

「君(僕のこと)が気に入った。いい目をしている」

→『(SFファンタジーでよくあるやつだ…)ど、どうも…。いやいや、どうもちゃうわ!』

と、ぐいぐい説得してくる。ついにはナニワ金融道が僕の腕をつかみ、いつの間にか呼んだタクシーに引きずってきた。何度手を握られただろうか。必死で振りほどき、ダッシュで駅の反対側に逃走した。20歳のころだった。

だからたまに聞かれると、いつもこう答えるようにしている。

『こう見えて、昔はモテたんだよ。(男に)』


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