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皮膚電気活動の特徴と研究動向について

神経・生理心理学 レポート課題S評価

皮膚電気活動(EDA)とは、人間の心理的変化により、皮膚表面に現れた汗から微弱な電気的現象を測定したものである。発汗には、体温の調節を目的とする温熱性の発汗と、高温には反応せず、緊張や興奮、痛みなどの感覚受容器からの反射によって直ちに生じる精神性の発汗がある。温熱性では手掌や足底を除く全身に汗をかき、精神性では手掌・足底・腋窩に汗をかく。このうち、手掌や足底から汗を分泌するエクリン汗腺は、自律神経系の交感神経の支配を受けていることがわかっているため、手掌や足底から測定されたEDAは、交感神経活動を反映する鋭敏な指標であるといえる。EDAの強弱を測定することで、心理的状態の変化を検出することができる。

EDAの制御中枢には3つのレベルがある。最も高次な制御中枢は大脳基底核であり、運動前皮質や前頭葉を起源とする興奮性と抑制性の影響を含む回路を持っている。第2の制御中枢は大脳辺縁系と視床下部であり、扁桃体から興奮性の影響と、海馬を起源とする抑制性の影響を受ける。最も低次な制御中枢は脳幹網様体であり、ネコを用いた実験によって脳幹網様体の賦活とEDAとの関連が実証されている。

EDAは、覚醒水準、注意、感情、認知、意思決定などの心理変数と関連し、EDAの個人差は不安、うつ傾向、神経症傾向などのメンタルヘルスと関連する。持続的なEDA成分は、睡眠中に低く覚醒時に高いため覚醒水準を反映する指標となる。一過性のEDA成分は、刺激の新奇性、強度、意味内容に鋭敏に反応し、比較的速やかな馴化を生じる。

ある刺激の提示によって誘発する一過性のEDA成分の変化を定位反応といい、以下のような特徴がある。定位反応は刺激に対して注意を向ける反射的な行動であり、刺激の取り込みを促進する点から適応的な機能を持つ。定位反応には馴化と脱馴化が生じ、注意や認知機能の指標になる。

EDAの研究動向としては、生理心理学的な基礎研究から、臨床的な応用研究、健常と異常行動の診断や予測などの調査に用いられている。

定位反応には、刺激に対する弁別性があると考えられ、特定の刺激に対し、反応を示す場合と示さない場合とで、被験者は刺激を異なるものと認知し弁別したと考えられる。警察の犯罪捜査におけるポリグラフ検査は、定位反応の弁別刺激パラダイムに基づくものであるといえる。

EDAと感情の関連についての研究では、感情の喚起を目的とした、感情価と覚醒の2次元に基づいて標準化された、大規模なカラー写真のセット(IAPS)を用いた研究がある。EDAとIAPSには一貫した関連があり、中性刺激に比べてポジティブ刺激とネガティブ刺激は、いずれも定位反応を増加させるが、誘発された反応は感情価ではなく覚醒に関連し、覚醒が高い刺激に対して反応が増加することが示されている。

EDAと意思決定の関連は、ソマティック・マーカー仮説によって、感情やソマティック・マーカーと呼ばれる身体信号が意思決定や行動選択に及ぼす影響について検証されてきた。この仮説は、ギャンブル課題中のEDAを測定するもので、健常者では高リスクな選択をする前にEDAの増大がみられるが、前頭前野腹内側部や眼窩前頭皮質に損傷を持つ患者は、高リスクで高報酬のカードを選択し続けEDAの増大が生じなかった。これにより、患者はソマティック・マーカーが欠如し、適切な意思決定や行動選択ができなかったということが考えられる。

EDAの個人差と精神疾患の関連も指摘されている。統合失調症患者において、将来の症状の悪化や再発リスクの高い患者ほど、刺激に対するEDAの高覚醒を示すと報告されている。また、精神病患者においては、安静時の持続的なEDA成分が低いという特徴がある。このことから、精神病患者は健常者に比べて覚醒水準が低く、恐怖や不安などのネガティブ感情が欠損しているために、危険を伴う行為や反社会的行動を生じやすいということが考えられる。

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