司法・犯罪心理学Ⅱ第1課題第1設題S評価レポート
犯罪と遺伝の関係を研究するための方法
「犯罪行動は遺伝するのか、それとも環境の中で学習されるのか」といった、犯罪と遺伝の関係を研究するための方法として、家系研究、養子研究及び双生児研究がある。
家系研究
家系研究とは、犯罪者を輩出しやすい家系を見つけ出すことによって犯罪の遺伝規定性を示そうというものである。有名な研究としてカリカック家とジューク家の2つが挙げられる。
マーチン・カリカックという男性は、アメリカ独立戦争時の戦地で精神薄弱の女性、そして故郷で上流階級の健常な女性の2人と家庭を持った。これら2つの家系の子孫たちを比較した結果、健常な女性との子孫496人は全て健常者である一方、精神薄弱の女性との子孫488人では、健常者が46人と10%にも満たない結果となった。
ジューク家の研究では、ある刑務所の血のつながった収容者6人から、その共通の祖先であるマックス・ジュークとアーダ・ヤルクスの子孫709人を調査したもので、その内140人が犯罪者となっていることがわかった。その後、エスタブルックは、9代にわたるジューク家を調査して、2820人の子孫の内、171人が犯罪者となっていることが報告された。
以上の研究結果から、実際に犯罪者を輩出する家系は存在することが分かった。しかし、これらの研究には当時流行していた優生学の考え方が強く影響しており、生育環境や経済水準といった環境条件を完全に無視したものであるため、犯罪は遺伝するという結論には至らず、後の研究で強く否定されている。
養子研究
養子研究では、幼い頃に養子に出された子どもを追跡調査し、その子どもの犯罪傾向が実親と似ていれば遺伝の効果が大きく、育ての親に似ていれば環境の影響が大きいと考える。メドニックらが行った養子研究では、育ての親による影響も存在するが、実親の影響が非常に大きく、実親と育ての親の両方が犯罪歴を持つ場合は、さらに多くの子どもが罪を犯すということが示された。同様な複数の研究結果から犯罪傾向はある程度遺伝することが示されている。
双生児研究
双生児研究では、同じ環境で育った、遺伝子が完全に同じ双子である一卵性双生児と、普通の兄弟と同じ割合の遺伝子を持つ二卵性双生児の、双子が両方とも罪を犯した割合(一致率)を比較する。犯罪が遺伝の影響を受けないのであれば、双子間の犯罪一致率は一卵性と二卵性でほぼ同じになると考えられる。
ランゲの行った研究では、双生児の一方に刑務所収容歴がある場合、もう一方も収容歴がある割合は、一卵性双生児で77%、二卵性双生児で12%という結果が示された。その他の双生児研究によるほとんど全ての研究において、一卵性の犯罪一致率は二卵性よりも高い傾向を示している。
さらに、リーとワルドマンのメタ分析によると、攻撃性の遺伝規定率は0.44、反社会的行動の遺伝規定率は0.47であった。また、遺伝規定率は暴力犯罪に比べて財産犯罪の方が高いことや、一般犯罪に比べて非行では一卵性双生児の犯罪一致率がそれほど高くなく、比較的若い頃の犯罪では遺伝的な要素があまり影響しないことなどが報告されている。
まとめ
これまでの研究により、犯罪は遺伝的な要素に影響する可能性が示されてきた。これは、人間の行動は遺伝によって必ず発症することを意味するのではなく、遺伝的な要素が環境と相互作用する中で現れてくることを示している。それが犯罪の場合、攻撃性や衝動性、刺激希求性、共感性の低さなどの要素が遺伝し、環境の影響によって犯罪行動につながるのだと考えられている。
こうした遺伝と環境の相互作用によるはたらきは、生まれ持った遺伝特性は教育などの環境の介入によって変化するということを示しており、一見、反社会的で社会不適合だと思われる特性も、環境次第で向社会的で優れた能力に変えられるという可能性を持っていると考えられる。
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